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みんな違って、みんな面白い。

〜漫画家さんとのやりとりで気をつけていること。④〜

先日、東京ネームタンクのごとうさんがこんなツイートをされていました。

漫画には「共感型」と「興味型」があるということ。そして、それが知られていない危機感についても触れられています。

この話題については僕も思うところがあるので、僕は漫画編集者の立場からになりますが、今日はこの「タイプ」のことについて書いてみます。


答えがない世界だからこそ一つの正解がほしくなる。

漫画に関わる者のクセとして、どうしても一つの正解や成功の方程式みたいなものを求めがちなところがあります。

なぜそうなるのか。まず編集者。

どの編集部でも割と早々に何人もの漫画家さんを担当することになり、投稿者さんまで含めると、配属2〜3年めでも10人以上の担当漫画家さんがいるのが一般的だと思います。

編集者は自分では描くことができない代わりに、何人もの漫画家さんを担当することで沢山の場数を踏み、体験や知見を積み重ねることができるからです。

でも、当然ながら最初経験が浅いうちは、漫画編集者が何をするべきなのかもよく分からないし、まして何人もの漫画家さんにうまくアドバイスするなんてとてつもなく難しいことです。

ゆえに最初は先輩に教わったり真似したりしながら、まず誰か一つのやり方を覚えていくことになります。

初めの2〜3年は悪戦苦闘し、凹み、向いてないんじゃないかと思う日々ですが、それでも3年くらいしがみついて一生懸命やってると、何かしら通用することが一つくらい出来てきます。新人編集者の人にはいったんそこまで頑張ってほしいです。


一方、漫画家さんの側。投稿時代なかなかデビューにならず何度も何度も作品を応募したり、あるいはデビューしたもののなかなか掲載にならなかったり、載っても覚えてもらえなかったり。

最初は同じく悪戦苦闘し、凹み、向いてないんじゃないかと思う日々だと思うのですが、描き続けていればある日きっかけをつかみ、立て続けに載る時が来ます。自分なりに一つの手応えを感じられることが出てくると思います。新人漫画家さんたちにもいったんそこまで頑張ってほしいです。

まず一つの形やコツを学んだり、覚えたりする。そこまではたぶん間違いではない大切なことだからです。


でも、そこから先が難しい。

漫画は正解のない世界。

どうしたら認めてもらえるのか、凄いものが描けるのか、絶対の正解がないので一つの正解らしきものを見つけると固執し、それが正解だと思いたくなってしまうのです。

もう二度と下積みで悪戦苦闘の日々を送りたくない、という恐怖もその思いを加速させていってしまいます。


全部一つのやり方でうまくいくはずがない。

僕も最初に読者アンケートで1位を取れるようになった時はすごく嬉しかったし、立て続けに1位が取れるようになった時はなおさらでしたから、その時、入社5〜6年めでしたが、ようやく「これでいいんだ」と自信を持って仕事ができるようになりました。

だけど「これでいいんだ」と晴れて思えているせいで、その時1位を取れている作品の作り方を強く信じて、他の漫画家さんや後輩たちにも随分押し付けてしまっていた気がします。

何人もの漫画家さんを同時に沢山うまく導くには、一つの絶対的な方法があって、それを全員に適用していく方が楽だからです。

漫画家さんの側も、一つの信じられるやり方があって努力に比例して右肩上がりに結果が出るならばその方が安心だからです。

それではうまくいかない人もいたのですが、「うまくいかない人はその人に何か足りないのだろう」とかなり傲慢なことも思ってしまってました。恥ずかしいことに。

足りてないのは僕の経験と想像力でした。

誰に対して、どの作品に対してでも通用する絶対の一つの方法などないのです。(あるとしたら、常に誠実かつ敏感でいることだけです)


気づけたのは、もう1人、当時同じかそれ以上に人気のある漫画家Aさんの担当を任せてもらえたおかげです。

その漫画家さんは、それまでに担当してきた漫画家さんと全っ然タイプが違いました。

端的な違いは、それまではどこか違和感があって直しを漫画家さんに伝えると、違和感がある場所だけ直してくる人がほとんどだったのに対して、Aさんはいつもネームを丸ごと全部直してくるのです。何度目かの直しで、あとほんの少し直すだけでよい段階になっていてもです。

最初のうちは面食らいびっくりするばかりでしたが、そのうちに気づきました。Aさんは僕がそれまでに担当してきた人と根本的にお話の作り方描き方が違うのです。

そして、Aさんは「足りてない」なんて思うことのできないレベルの高い作品を生み出しています。

必死にAさんの漫画の作り方に慣れていこうとするうちにようやく、全然違う作り方があって当然だし、一つのやり方で誰とも全部うまくいくなんてあるはずがないという当然のことに思い至ることができました。

以後、一つの正しいやり方があると思い込んでいた自分を反省すると同時に、僕はこの違いを「とても面白い」と感じ、できるだけ様々な違いを見つけたいと思うようになります。


具体的にはどんな違いがあるのか。

①「言葉」と「テンポ」。

まず違うと思ったのが、歌で言ったら「歌詞」が先に浮かぶ人と「メロディー」が先に浮かぶ人がいるように、漫画家さんも「言葉」が先な人と「テンポ」が先な人がいるということです。

「言葉」が先な人は、大事なセリフやテーマ、具体的な設定が浮かぶ方が描けると思う人。「テンポ」が先な人は、印象的あるいは面白い絵、絵場面が浮かんだり、気持ち良いコマ運びやページめくりが浮かぶと描けると思う人が多いです。

初期の僕の担当漫画家さんに多かったのは「言葉」の人たちで、Aさんは完全に「テンポ」の人でした。だからAさんは1か所直すと全部直すことになるのです。全体のテンポが変わってしまうからです。


②「表現者」と「エンターテイナー」。

次に気づいたのが「表現者」と「エンターテイナー」でした。

昔の10年前までの「デザート」は、初代編集長の指針もあって「事実は小説より奇なり」ということを信じ、実体験や実話に基づいたものを重視している雑誌でした。ゆえに漫画家さんが実際に味わって実際に思ったことこそを描くべきだとみんなが思ってました。

それ自体によいところもあったのですが、ある時、これも気づきます。

自分の思っていることや大事な体験をできるだけそのまま「描きたい」という人もいれば、できれば分かるようには「描きたくない」という人もいること。自分の実感こそ信じられるという人もいれば、自分しか実感していないことは信用ならないと思っている人もいるということ。

どちらも程度の差があるだけで、一度は本当に思ったことのある思いに基づいて描くこと、時には取材して新たにヒントや刺激を得るべきことは共通して大事なことに変わりはありません。

ただ、前者は「思いを発表し伝えたい」という意欲が強く、後者は「読んだ人に喜ばれるかどうか」という意識が強いため「表現者」と「エンターテイナー」と言うようになりました。

「表現者」タイプは編集者に応援や支持を求める傾向が強く、「エンターテイナー」タイプは客観的な意見や自分の見え方を聞きたがる傾向が強い印象がしています。

また「表現者」は人の思いや感情を描く意欲が強い人が多く、「エンターテイナー」は世界観を作り出すものや雰囲気を描く意欲が強い人が多い気がします。


③「パッション」と「理屈」

それから少女漫画では多いですが「パッション」の人と「理屈」の人。

「パッション」の人は感情が大きく動くことに興味があり、その瞬間を描けることに気持ち良さを感じる人。「理屈」の人はお話の構造や構成に興味があり、綺麗にお話がつながったことに気持ち良さを感じる人。

「パッション派」は段取りやディテールを考えることにはつまらなさを感じ早く盛り上がるシーンにいきたい、「理屈派」は理由や状況が整わないと感情的なシーンには踏み込めないという人が多い印象がしてます。


④「憑依」と「萌え」と「プロファイリング」と。

キャラクターの描き方にも大きな違いがあります。

キャラを描く時に、とことん感情移入して描く「憑依」型の人。感情移入はしないけど、自分の好きな部分を愛でるように描く「萌え」型の人。どちらも全然なく、そのキャラをそのキャラらしく描くべく、色々分析したり調べたりして描く「プロファイリング」型の人。

「憑依」「萌え」の人は、どのキャラにもその人自身が投影されている度合いが強いですが、「プロファイリング」の人は投影されていると思われることすら嫌がったりします。

「自分自身」が何者かに興味が強い人と、「他人」が何者かに興味が強い人の差なのかもしれません。あるいは「役者」要素の強い人と「演出家」要素の強い人の差でしょうか。


⑤「全体」と「積み重ね」。

作品を作り上げていく順序にも違いがあります。

とにかくいったん全部描いてみて俯瞰しないとイメージが湧かない「全体」派。それに対して、イメージは湧いているので間違いなく固めてから進めていきたいという「積み重ね」派。

「パッション」派は「全体」派になりやすく、「理屈」派は「積み重ね派」になることが多い印象です。

「全体」派は勢いを大事にする人が多いので、あまりごちゃごちゃ言わずに描かせてほしいという人が多く、「積み重ね」派は何度でも見て少しでもおかしなところがあったら言ってほしいという人が多く、それぞれに逆のことを要求するとすぐにまったく進まなくなるということが起きがちです。


大事なことはなんなのか。

他にもまだ様々な違いがあることを感じているのですが、日々すべてを細かく説明していられないので、すごく大雑把にくくると「主観」が強い型=自分がどう思うかが大事、と「客観」が強い型=人の目にどう映るかが大事に分かれるのかなあと思い、僕は普段「主観型」「客観型」と呼び分けていることが多いです。

そして担当としてはもちろんですが、部員から相談される時も、その漫画家さんがどんなタイプかを確認してから話すようにしてます。

そうじゃないと、まったく的はずれか逆効果になることを提案してしまいがちだからです。


とはいえ、漫画家さんが、皆さんそれぞれものすごくハッキリどれか一つのタイプに属するわけではなくて、色んな組み合わせで特徴を持っていたり、その時々で強く発揮される特徴があったりで、本当に千差万別だと思います。

どのタイプが良いとか悪いとか序列もありません。

経験と勘でしかないのですが、漫画家さんのタイプと、漫画家さんが描こうとしている題材や企画がマッチングしていて、作品にもっともふさわしい表現の形になっていること。

そのために、漫画家さんのタイプに合った、漫画家さんが「描くイメージ」をつかみやすい打ち合わせができていること。

そして固定観念にとらわれないこと。

それが面白くて凄い作品が出来上がるための一つの必要条件なのかなと思っています。

以上、東京ネームタンクのごとうさんのようにテクニカルなことは書けませんが、僕なりの編集者視点での漫画家さんのタイプについての話でした。


漫画家さんがどんな人で、漫画をどうやって描いてきたのか、まだまだ沢山知って勉強していきたいので、もし違う感想や意見などお持ちの方いたらぜひ教えてください! よろしくお願いいたします。

ではでは。


※感想やご質問などありましたら、コメント欄かツイッターまでぜひ!

https://twitter.com/henshu_shigel

※デザートのHPでは、全作品1話めが無料で読めます。遊びに来てください!




おお!ありがたい*\(^o^)/*
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少女漫画誌「デザート」の編集長を6年務め、2019年5月に講談社を退職。 主な担当作品…ろびこさん「僕と君の大切な話」 あなしんさん「春待つ僕ら」森下suuさん「ゆびさきと恋々」他「好きっていいなよ。」「となりの怪物くん」「たいようのいえ」など。 株式会社スピカワークス代表

コメント1件

苦しみながらも努力を続けて、分析を重ねて道を見出していく。漫画に限らず、すべてに通じることだと思いました。
私のnoteはこちらです。 
https://note.mu/akiratamasumi/m/m4f6250170def
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