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3. 二択というやっかいなもの

人生はいつも選択の連続で、二つの選択肢を常に迫られていると思う。
右か左か、進むか引き返すか、A君とゲーセンへ行くかB君とスタバに行くか、やるかやらないか。
必ずどちらかを選ばなければならないのだ。
僕は、この二択というものが本当に苦手だ。なぜなら、二択という奴には、後戻りできないという性質が必ずといっていいほどに付きまとってくるからだ。
三択ならなぜか迷わないし、無数にあれば何でもいいやと開き直ってしまう。
ただ、この二択というやつは本当に残酷なのだ。
Aのルートを選んで失敗したら、Bのルートを選ばなかった後悔で頭をもたげてしまい、
A君を選べば、B君との関係が気まずくなってしまう。
何か一つだけ特別な能力を手に入れられるのであれば、「二択保険」という能力がほしいのである。
一方を選んで、失敗してしまうと、時をかける少女みたいに時間が逆戻りして、また二択を選び直せるというものである。
その代わり、戻す時間の分を毎日支払わなければならない。つまり、一日24時間から、まぁ、だいたい23時間と30分くらいになるのである。
一日の時間はこのくらいでも十分だろう。
この能力があれば、何かに思い悩むこともなく、堂々と決断でき、失敗を恐れることもなく、この世から優柔不断という言葉もなくなるはずだ。
これによって、誰しもがより良い人生を歩むことができるだろうか。

つい先日、お風呂でシャワーを浴びていたとき、洗顔フォームが切れていたことに気づいた。
「ああ、切れてるよ。仕方ない、肌に悪いけどボディーソープで顔洗うか。」
仕方なく、ボディーソープで顔を洗うはめになってしまった。
僕は、肌質はあまりいい方ではなく、無印で買った化粧水と乳液を愛用している。洗顔フォームはなんでもいいやといつも適当に選んで使っているのだ。
次の日になって、大学の講義終わりにコンビニに寄って、洗顔フォームを買うことにした。
今のご時世いつでもどこでもなんでも手に入る。物が溢れているのだ。
立ち寄ったコンビニにも数多くの商品が陳列されていた。
僕の場合、肌が弱いので、女性用の繊細さのある洗顔フォームがいいのだが、値段が安く量も多いので男性用洗顔フォームから選んで買うことにした。
陳列されている洗顔フォームのパッケージをながめていると思うことがある。
男性用洗顔フォームのパッケージときたら、やたらに皮脂を徹底排除する思想がプロパガンダされているように思われてならない。これにパッケージの配色が、赤、白、黒、ときたらもう...。
皮脂には皮脂の務めがあるのだ。
「オイリー肌をごっそり」なんてことは、少々やり過ぎではなかろうか。
そんな考えを巡らしていると、選ぶのがめんどうになってしまい、挙げ句の果てに少年ジャンプを立ち読みし始めてしまった。立派な社会人になったら、ちゃんと少年ジャンプは買って読まなければいけない。
ワンピースを読み終わると、さすがにこんなことで迷うわけにもいかないなと思い始め、
こう考えることにした。
『仮に僕が女性だったとして、この男性用洗顔フォーム売り場で、どの洗顔フォームを買うか。』という考えである。
これによって、肌の弱い僕に最適な洗顔フォームを選ぶことを可能にしたのである。
そして、選び始めること数分後、ようやくお目当ての洗顔フォームを2つに絞ることができた。
一つ目は、濃密泡の洗顔フォームで、泡で毛穴汚れを取り除くことができるらしい。
二つ目は、ニキビ肌用の洗顔フォームで、アクネス菌を一掃してくれるらしい。
「ん~、どちらにするべきか。」
まず、一つ目は『濃密泡』というワードが非常に魅力的なのである。
これは、『濃厚』という主に食べ物の宣伝文句として使われるワードのお仲間だからなのだろう。
そういえば、アイスを買うときはいつも『濃厚』なんてワードを見るとついつい無意識のうちに手に取ってしまうのだ。
「よし、君に決めた!」
ちょうど僕の世代では、このような台詞を吐く主人公が黄色の毛だるまネズミと旅をするアニメが流行っていたのだ。 
そして、手に取った商品をレジへもっていこうとしていた瞬間、はっと我に返った。
待てよ、無意識のうちに手に取るように誘導する宣伝文句を使った商品なんて本当に信用できるのか。
なにか、陰謀めいたものを感じとった僕は、手に取った『濃密泡』を陳列棚に戻し、今度は、『ニキビ用』を手にとった。
「ニキビは思春期を過ぎた頃からあまりできなくなったけど、まぁ、予防ということでこいつにするか。」
ニキビ予防という明確な目的があり、『濃密泡』などという曖昧な言葉よりは、はるかに信用ができる。
僕は、自分の判断能力の高さに洗顔フォーム選びで気づかされ、その日は、少しだけ気分が舞い上がってしまった。

数日後、頬と顎の下あたりに、同時に二つのニキビができた。
なぜだろう。僕の判断のどこに間違いがあったというのだ。
濃密泡を選んでおけば良かったとでもいうのだろうか。
あんなものは所詮言葉だけで、毛穴汚れが完璧に取れるわけないんだ。
それに比べれば、アクネス菌の方が断然に実用性があるではないか。
だけど、僕がどれだけ自問自答を繰り返しても、このニキビが治るわけではない。
僕は、考えるのをやめた。
それから、ニキビ用洗顔フォームが切れてから、今度は、濃密泡洗顔フォームを購入してみた。
数日後、口周りにニキビができた。
思っていたとおりだ。
宣伝文句は全くあてにならない。
というより、そもそも洗顔しているのに、ニキビができるのは、別の要因なのではないだろうか。
僕は、それから選択を間違えたために失われた時間を取り戻すかのように、Googleの検索エンジンを高速回転させたのだ。
それから、自分に当てはまるであろうニキビの原因をいくつか見つけることができた。
それは、便秘、ストレスだ。
すべて僕にぴったりと当てはまっていたのだ。
食生活では、食物繊維をあまり摂らないし、当時バイトを掛け持ちしていたせいか、自分でも気づかないうちにストレスが溜まっていたのだろう。
「なんだ、自分の判断に狂いはなかったんだな。」

この経験から、僕は一つ学んだことがあった。

食物繊維は毎日摂ろう。である。

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