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盗聴カフェタイム 寿司屋編

カフェで暇を潰している時、ふと隣の他人の会話を盗み聞く、そんな盗聴カフェタイム。今日は、ちょっと稀にみる、こじれにこじれたアラフォー女性のお話。

一から説明します。大昔のバブル時代、「オヤジギャル」という言葉が流行りましたね。高級レストラン、居酒屋、競馬場、ゴルフ場、雀荘など、それまではオヤジしか足を踏み入れることがなかった聖域に、ワンレン・ボディコンのOLたちが果敢に乗り込んでいったという。
その頃のオヤジギャルたちの勢いも、想像するだけで恐ろしいけれども、「自分たちは世界のセンターTOKIOの夜をヒラヒラと舞う蝶々よぉ、チヤホヤされて楽しいわ!さぁ、そこの電通のハゲ、とっととタクシー券、ちょうだいな!」と、お立ち台で扇子を振ってパンツを見せているなんて、ある種の無邪気さを感じて、可愛いもんだと言えなくもない。

しかし、昨今のOLオヤジ化は、ちょいと根が深いぞと、私は心の中で小さく鐘を鳴らした。警鐘を鳴らした。

その日、私の隣には、40代前半くらいの妙齢の女性が二人で向き合っていた。一言で言うと、ライザップ前と後の二人組。要は、デブと痩せの組み合わせだ。実際のライザップのCMでは、1.ライザップ前=太っていて自信がない&ネガティブ、2.ライザップ後=スリムになったのはいいが、勘違いポジティブな様子に豹変しており好感が持てない、という感じ。よって、トータル1の方がいいんじゃないの?と思うのだけど、この二人の場合は、1.ライザップ前なのに、つまりは太ってるのに自信満々=「太子」、2.ライザップ後なのに、つまりはスリムで素敵なのに謙虚=「細子」という組み合わせだった。

細子が浮かぬ顔をして言った。「この前、部長たちと老舗の鍋屋に行ったんだけどね、あそこのオバサンたちの接客が最低で。そりゃあ向こうは毎日毎日、何十年も同じ鍋を出してるかもしれないけど、私たちは初めて行ったのに、終始バカにしたような顔してロクに食べ方の説明もしないの。部長が、味が濃くなったから、水を下さいと言っても無視されちゃって、気まずいったらなかったわ」とのこと。
分かるぅ!!私もその会話に参加したいくらい、分かるぅ!「創業は明治時代。この鍋一筋でやってます、みたいな老舗店に数十年も勤めてるよう古株のオバチャンてほんとに感じ悪いですよね。もし、その接客態度の悪さを店主に言い付けたとしても、店主も、イヤなら来なくていいぜっていう発想だろうし、オバチャンが店主に怒られることもないだろう。なにせ、世の中的にその店の鍋ブランドが定着してるから、どんなに、接客最低!と食べログに書かれても潰れはしないし、彼らはもう、何も恐くないという境地に達していますもんね!」と、心の中でエアー相づち。

ところが、太子はダメダメーと全否定。
「いーい?老舗店によくしてもらおうと思ったら、努力しないといけないのよ。私ね、今ちょうど戦ってるんだから」と。なんかこの人、常に何かと戦ってそうー、無駄に戦ってそうーと思ったら、その戦いの内容は想像以上であった。

「この前、妹と買い物した帰りにね、ご飯食べて帰ろうってことになって。そういえば、○○さん(文化人)のブログに載ってたお寿司屋さんが近くにあるなって気づいて。小さなお店で、○○さんが貸しきりで誕生日会やってて、行ってみたいなって思ったんだよね」と。 
「えー、そんなお店、一般人がフラッと行けるものなの?高いんじゃないの?」と、マトモな細子。
「普通、そう思うでしょ?でもね……」と、鼻の頭に脂を浮かべ、太子は語る。
「今から30分後位に二人で行きたいんですけどって、思いきって電話したらね、どなたかのご紹介ですか?って、すごい冷たい調子で聞かれて(一見様、お断りなんだよ!)。紹介ではないけど是非伺いたいんです!と強く言ってみたら、男性とご一緒ですか?って聞くの(女だけで来るような店じゃねえぞ!)。意味分かんないと思って、いいえ女性二人で伺いますと言ったら、電話口の向こうで、何やら長いこと話し合ってるみたいで。散々待たされて、あのー、ウチは強い香水をつけてる方はお断りしてるんですって言うの(だから、女だけはダメだと暗に言っている!)。更に意味分かんなくない?女だからって香水つけてるとは限らなくない?だから、私たち香水は少しだけつけていますけど、ごくライトなものですって言ったら(そういう意味じゃないんだよ、まだ分からんか!)、またゴニョゴニョ話し合ってるようだったけど、最終的には、でしたらどうぞ、だって」(来られるもんなら、来てみろ!)
「え、それで本当に行ったの?」と怪訝な顔で聞いた細子と私の思いは同じだったと思う。
太子は「勿論行ったわよぉ!」と。え……。
「さすが老舗って感じで、扉を開けた途端、店内を漂う緊張感が半端なかったわね(ほんとに来たのかよ!)。お喋りな私たちも、あの時ばかりは、無駄口叩かずに、黙ってネタを味わったわ。お客さんは、私達の他は、50代以上のオジサンたちか、老夫婦、あとはいかにも訳ありのオジサンと若い女の人の組み合わせだった。そこに颯爽と女二人で乗り込んできた私たちのこと見て、皆、驚いたみたい(その鈍さにな!)。確実に目立ってた(悪い意味でな!)。でもね、なにせ私達は新参者。だからね、決してでしゃばるようなことはせず、板さんとも仲居さんとも、注文以外のことは一言も話さなかったのよ」(誰も話しかけなかったからな!)と。
「へぇ……。で、美味しかった?そして、高かった?」と、ちょっと半笑いになっちゃってる表情で聞く細子。
「そりゃあもう、美味しかったわよぉ!お会計は、二人で10万弱かな……」(嫌がらせだってば!)

えー!!カフェのテーブルを卓袱台に見立ててひっくり返そうかと思った。高級寿司屋の値段なんて私は正確に知りはしないけど、それってもう「ここは、一見の女だけでフラッと来るようなとこじゃないぜ、お嬢さんよ」っていう、完全なお店側の意思表示としか思えない。
そこで、あーあ、私ったら身分不相応な恥ずかしいことしちゃった、懐が痛くてたまらない、と反省するのかと思いきや、太子はあくまで負けないのだった。見た目、ライザップ前なのに!心はライザップ後だから!

「まあ安くはないわよね。でも、私、思ったの。これも勉強料だなって。このお店に認められるように、通ってみようって。だからね、ほら、私、○○さん(私は知らないけど、プチ有名人のようだ)と知り合いじゃない?だから、○○さんを担ぎ出して、今度、お店を貸し切ってみようかなって。そしたら私、あのお店の常連になれそうな気がする。ね、細子、老舗の壁は厚いんだよ、認めてもらえるまで、こっちから向かって行かなきゃ!」と。
ねえ、そのガッツ、私にも少し分けて頂戴と言いたくなった。ガッツと体力、何はともあれ、今欲しいもの第一位なもので。

それにしても。オヤジの聖域に踏み込むものの、オヤジの力でオイシイ思いをしていたのが80年代のオヤジギャル。
オヤジ自身になって、高級寿司屋を貸しきる甲斐性を持ちたいのが、今時のオヤジOL?
お客様相手に、あまりにやる気のない老舗鍋屋のオバチャンはどうかと思うけど、お客の側にも、ズカズカとやたらに押し掛けてはいけない寿司屋もある。
やめてくれ、太子、それ豪傑過ぎるわ。
やっぱり、私、そんなガッツ要らない。そこは今でも、オヤジに連れて行って頂きましょう!

次回は、「不倫なのにハッピーアワー男」をお送りします。

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