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二親等は三等身

小さい頃、肥満児だった妹のことを、今でも名残で「ブーコ」と呼んでいます。(ブーコは今は痩せています)。そしてブーコは、三頭身だったにも関わらず、女優だったのです……。

一から説明します。私の妹であるブーコの幼少時。顔は、縦より横が長く、蟹。見事な鳩胸は見事な太鼓腹へと続き、その素晴らしいカーブを描いたフォルムは、先日亡くなったザハ・ハディドさんでも描けまいといった感じ。更に、きっと親が、少しでも可愛く見せようとしたのだろう、腰まで伸ばしたロングヘア(毛質は幼女らしくフワフワサラサラ)をなびかせ、いつもニタニタと笑っていた。頬は艶々で、朝起きて来ただけで、家族から「わーっ!(なんてブサ可愛いんだ♥)」と歓声が上がるほどのスター性を持ち合わせていた。

そんなブーコは、自らの呼び名に不満があったのか、たまに変なことを言ってきた。ある日突然、「ねぇ、私のことダイアナって呼んで」と……。あまりのことに、私は即刻、母の元へ駆け寄り、「ブーコに、『ダイアナって呼んで』と言われた!」とチクると、母は顔色ひとつ変えずに「呼んであげなさいよ」と言う。
え……そんな。ブーコ、そういえば、プリンセス・ダイアナがワイドショーやニュースに出ると、太鼓腹突き出しながら見入ってたもんな、憧れてるんだろうな、と思うものの、いくらなんでも、ダイアナと呼ぶわけにはいかない。というわけで、無視していたところ、数日後、「ねえ、私のこと、あんこちゃんて呼んで」と言ってきた。すごい方針転換。そういえば、この前、あんパンを思いきり潰してから食べているブーコに、「なんで潰してんの?」と尋ねたら、「大きくなるから!」と即答していたっけ。これも意味不明過ぎてスルー。
今思えば、当時、熱心に見ていたアニメ「赤毛のアン」の親友はダイアナ。ダイアナとあんこちゃんは、Anne & her best friend Dianaだったのかもしれない、と思うのだが、本人に聞いても真相は闇の中だ。

ところで、小さい頃、私はカセットテープの編集作業をこよなく好んでいた。ベストテンやトップテンのような歌番組が始まると、テレビの前にカセットテープレコーダーを設置し、お目当ての歌が始まると同時に録音ボタンを押し、そっと息を潜める……なんていうのは、80年代を子供時代として過ごした世代にしか分からない昭和な光景か。ともかく幼い私は、聖子や明菜やマッチやトシちゃんを一本のテープに編集することを繰り返していたものの、次第にそれだけでは飽き足らなくなり、ドラマの編集を手掛けたいと思うようになった。

そこで私は、ブーコを女優に抜擢した。ブーコを子供部屋に呼び出し、「これから数分間、テープを回すから自由に演技しろ」という、無名塾ばりの指示を与えた。カセットレコーダーの録音ボタンを押すと共に私は子供部屋から去り、あとはブーコに自由に一人芝居をさせる、という形式。素直なだけが取り柄のブーコは「うん、分かった」とすんなり受け入れた。数分後、ブーコが子供部屋のドアを開け「終わったよー」と言って出て来ると同時にテープチェック。ところがブーコに任せると、いつも筋は同じ。
設定は森。森に生息する全ての動物が「クマさん」のことが好きな模様。「まあ、ウサギさんもクマさんが好きなの?小鳥さんもクマさんが好きなのよ。どうしましょー」みたいな。しかも、「ほんとに困ったわ、どうしましょー。ねえ、クマさんたらぁ、ハッキリしてよぉ」といったセリフが繰り返されるばかりで、ちっとも話が進まない。

仕方ない、オリジナルはやめて、プロが作ったもののコピーだ!と閃き、当時の国民的ドラマであった「おしん」を再現することに。ブーコで。
まず、NHKの主題歌を録音し、その後から、ブーコの芝居を吹き込んだ。ブーコも日頃から熱心に「おしん」を視聴していた為、「オラ、おしんだっす」という自己紹介から始まるセリフは、なかなかの出来映えだった、かのように思えた。しかし、すぐに致命的とも呼べる間違い発見。
「オラ、奉公さ、習ってるだ」……。
おしんがあれほど苦しみ抜き、泣きの涙でおっ母と引き離され、生活苦の為に行かされた「奉公」が、習い事……。

「ねえ、頼むよぉ」と、再び子供部屋のドアを閉めてやり直し。数分後、ニヤニヤして出てきたブーコ。「なんか最後、笑っちった」と照れていやがる。
テープを聴いてみたところ、最初の方こそ、おしんの奉公先での苦労が描かれていて、いい感じ。
「さっさと、大根飯食って寝ろ!」「へえ」
「大根飯食えるだけで有り難いと思え!」「へえ」
「大根飯、残さず食え!」「へえ」」
と、話が大根飯に偏り過ぎているキライはあるものの、おしんらしさが出ている。が、それも、終盤いきなり崩れてしまう。「お前は全く、へえしか言わねえな!それしか言えねえのか!」と、奉公先で怒られたおしんが、「へえ」以外の返事をしないとならないと思ったのか、突如こう口走るのだ。
「うん、す」……。
いきなり「うん」というタメ口をきいた上に、無理矢理に山形弁風に「す」をつけちゃったことに、ブーコも耐えられなくなったようで、その後はひとしきり、ブーコの爆笑が録音されていたーーー

私は当時、ガリガリに痩せた少女だった為、「となりのトトロ」のメイとサツキを見るといつも、「あ、私とブーコ」と図々しくも思うのです。

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