上司考「欠席裁判され上司」

巷には、「リーダー論」「経営者とは」といった書籍や情報があふれている。何だかそれらは外資的であったり、IT企業的であったり、シリコンバレー的であったりして、もうお腹一杯。
というわけで、コテコテ日本企業のOL歴○○年の私が、それらとは一味違うOL視点での上司論(主にアフターファイブ)を勝手にシリーズ化して書いていきたいと思います。ふと思い立ちました・・・

 TVドラマを見ていると、おいおい、サラリーマンに対するステレオタイプも度が過ぎるだろ、これはもう冒涜という域に達しているだろ、というシーンをよく見かける。

ネクタイ(必ずストライプ柄)を頭に巻いたうだつの上がらない年配サラリーマン(ハゲの課長)とヤングイケメン、OLが新橋の居酒屋で管を巻いている。そのうちハゲは泥酔しており、泥酔を表現する為に鮮やかな頬紅メイクを施されていたりする。

「部長は全然俺たちのことを分かってないっ!俺たちが毎日毎日、汗かいて足で稼いだ手柄を、ひょいと持って行きやがる!都合が悪くなると、平気でハシゴを外しやがるくせに!」というようなことを叫んでは、隣の冷静なイケメンに「課長、飲み過ぎですよ」といさめられるが、「っるせー!」と言うことを聞かずネクタイ振って一人連獅子。

困ったイケメンがカウンターの中にいる女将に目で助けを求めると、女将が「はいはい、もう今日はおしまい」とか言って笑顔で強引に手じまいする。OLはOLで、「おまけに部長ったら、超セクハラで死語連発ですからね。『今日はハナキンだね。これからお楽しみ?』とか平気で言いますからね。『ハナキン』てヤバくないですか?せめて今時『プレフラ』でしょ。あ、もっとヤバいのは『お楽しみ』って単語ですよね。なんですか、お楽しみって。あーキモいですぅ」

―――その後、シーンは店の外へと移り、ハゲは超絶千鳥足でタクシーに押し込められ、イケメンとOLはこれからいい感じになる予感……ていうか、少なくとも今度は2人で、先ほど姿を消したばかりのハゲの悪口言うんでしょ?的な……って、OL歴の長い私でも、こんなシーンには実際一回も遭遇したことはない。現実は、いつももっと混沌としてぼんやりしている―――

さて、「自分不在の居酒屋で部下に悪口を言われてしまう欠席裁判され上司」というのは、果たしてダメなのだろうか?私はちっともダメではないと思う。それどころか、上司は部下の酒の肴になってナンボ。「部長って、悪い人じゃないんだけどね……(微妙)」みたいに、全く肴にならないキャラよりは、常に悪口を言われる強烈キャラの上司のが、生きている意味があるというものだ。

理想的な悪口の言われ方というのは、こうだ。ある部下が「部長は本当にワガママだ」とけなしたとする。すると、頷く者もあれば、中には「でも、ああやって強引に物事を進めるのは、なんだかんだ言ってすごいよ、結果残してるもん」とかばう者もいる、という賛否両論状態。

大体にして、人間というものは、この世のすべての人にいい顔をして神のように生きていたとしても必ず誰かに悪口を言われるもの。上司だって、好かれる部下もいれば、嫌われる部下もいて当たり前。もし全員が全員、上司を100%誉めるとしたら、そこには何か宗教めいたものを感じるし(実際に神格化されていれば別)、全員が100%否定するようであれば、その上司は人間として本当にダメな奴。だったら、その上司がネタになり議題になり、部下に悪口というレジャーを与えるのは、とってもグッジョブなのである。それに、人間というものは案外複雑で、悪口を言っているけど、本当はそんなにイヤじゃない、悪口を言うことで皆の間に快楽物質が満ち溢れる状態を作り出す、なんてことも多々あるのだ。

では、本当にダメな上司とはどんな上司なのか。「悪口」という側面で言えば、「部下が、その上司のことをよく知りもしない第三者から、上司に対する悪口を耳にした時、怒りを感じるか否か」だと思っている。

例えば、先ほど部長を罵っていたOLが、別の部署の同期から「あなたのところの部長って、ガリガリで超気持ち悪くない?すごく強引で嫌な人だって、うちの部署でも評判悪いよ」と聞いたとする。その時、OLが「そうそう!本当に最低なのアイツ!」と、ガリガリ部長の評判が全社的に悪いと知って心底喜ぶか、「確かにガリガリで、シャツから乳首が黒々と透けてるのは認めるけど、ああ見えて可愛いところだってあるんだから。出張に行ったら、必ず今でもJALの機内販売で売ってるディオールの三本リップセットを買ってきてくれるし、何よりそれがオシャレだと思ってるんだから。それに、なんだかんだ言って、自分の意見をゴリ押すってことは、決して逃げないってことだもんね。よく知りもしないのにそんなこと言わないでよ。あなたのとこの部長こそ、デブで生理的にNG」と、なにげに反発を覚えるか。

直接的悪口はアテにならない、間接的悪口を第三者から聞いた時の気持ちこそが、その上司に対する本当の部下の気持ちと言えましょう。

 


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