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TVアニメ「テクノロイドOVERMIND」BG用3Dステージのお話②

2023年1月4日から毎週水曜日 24:00~24:30放映しておりました「テクノロイドOVERMIND」本編美術は80%Blenderでステージ制作されて制作されました。キューン・プラントの3D統括の草間に記事をまとめてもらいました。

①はこちら

前回の続き
 今作ではプロダクション開始直前のオファーだったため、既にプリプロは別の背景会社であるオリーブ様の方で進められていました。
そうなると従来フローが行えません。
こうなると3Dワークフローは諦めるしか無いのですが、内容的にも期間的にも手描きで手に負える代物ではありません。
従来フローを変えても構わないので何とか3Dにできないか?…それが私に課せられたオーダーでした。
求められたのは「ポスト処理の簡略化」。即ち、レンダリングの段階でルックをボードに寄せることでした。

オリーブ様作成のシェアハウスリビング美術ボード

今回はこのルックを3Dだけで90%以上再現させることを目指すことに


 前述通り、従来フローでは3Dはあくまで「フォトリアル」まででしたが、今回は「ノンフォトリアル(NPR)」で、しかもボードに近いルックまでスタイライズする必要があるのです。

前述のマルチパスレンダリングの要素をカラー・AO、それとリアルになりすぎない程度の陰影要素程度に抑えればNPRは可能になりますが、少ない要素ではコンポジットフローの負担が大きくなり、マンパワーと時間を要することからコスト面で問題となりました。

そのため、従来は美術監督で行うコンポも3Dサイドのワークフローに組み込まれることになったのです。
同じキューン内のことではありますが、「3D屋が美術を作る」ことになるんです。何気ないことかもしれませんが、これって美術からすれば重大事件だと思うんですよね。

実際、これで社内の2D班は相当危機感を感じたと思います。だって自分たちの領分が3Dサイドに取られるわけですから。

※美術監督なかおからの補足※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 動的コンポが目的だったり、ワンステージに1話使うようなひと作品に10ステージ以下ならボード合わせのノンフォトリアルはあり得るんですが、弊社は設定があるのならほとんどのステージを作成するスタイルなので、3Dのフローも簡略化しないと現実的ではないのですね。
ボードを見て組み立てられた判断要素を拾った結論として「草間さんなら実現可能なフロー作れるよねぇ」って全く心配してませんでした(笑)その判断材料が後述になります。
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 このような経緯もありつつ「本番3Dボード」のようなものを作成することになったのですが、今作のボードの3D化で救いだったことが二つあります。

①美術設定や美術ボードが比較的3Dで再現しやすいデザインだった

SketchUpによるシェアハウスリビングのモデル作成画面
キューンでは今でも背景モデル作成ツールの主流となっている

 キューンのモデラーはまだ半数以上がSketchUpを使ったCADライクな建築モデリングが主体で、しかも曲面が多いモデリングは苦手です。(SketchUp自体が元々そういうソフトなので)
しかし、今作では直線状のデザインが多く、曲面が必要なモデルも一部の椅子などのプロップのみで済んだため、物量は多かったものの、モデリングは問題なく進めることができました。

②ボードのテイストが「CGらしさ」を強調していたこと

 「CGらしさ」の要素とは何なのか。それは陰影の「グラデーション」にあると思っています。その陰影のグラデーションを3Dで再現するための最適解が「アンビエントオクルージョン(AO)」でした。
AOはNPRの要(かなめ)となるような要素で、レンダーパスには必ず必要ですし、キューンが美術担当したTVアニメ「レイトンミステリー探偵社」もAOが無ければ到底完遂できなかったと思います。
むしろ、AOが無かったらアニメ業界に参加すらしていませんでした。それくらいキューンにとって大切な要素です。そんな馴染み深いAOが今作でも活躍しました。

AO(アンビエントオクルージョン)要素

但し、今作では前述通りポスト処理の制約があるためプリレンダリングで行う必要がありました。
3Dを考慮しないで作成されたボードに合わせたコンポは本当に大変で、制作期間も短いため、なるべくフォトショップでのコンポ無しでボードに近いルックで出力したい。
そこで今回はシェーダーでAOをコンポさせるという手法を選択しました。
従来フローではテクスチャをPBR(Physical Based Rendering=物理ベースレンダリングというリアルな質感表現手法)化してフォトリアルなシェーダーにするのですが、前述通りNPRにする必要があります。

↓PBRテクスチャについての説明サイト

↓BlenderのNPRシェーディングで作られたアニメーションの作例

 NPRはシンプルにするだけだから簡単と思われがちですが、本来3Dが得意とする物理シミュレーションによるフォトリアルから逆行する行為なので、実はとても高度な技術です。
ピカソのような抽象画や漫画アニメのようなデフォルメされた絵は写実よりも簡単と思われがちですが、実は「リアルを描くデッサン力」が備わっている必要があります。
デッサン力が無い人が描いた抽象画やデフォルメ絵は、ただの下手糞な絵なわけでして…。
同様にNPRもPBRを理解しているだけでなく、そこから先のデザイン能力も必要だと思っています。
 しかし社内のBlender班は当初はPBRシェーダーすらまともに使いこなせるスタッフはいなかったのであまりにも高度なことは要求できない。そのため簡素にわかりやすくする必要がありました。

 そういった課題の元、まずは雛形となる「シェアハウス」の作成を開始しました。

レンダリング設定

 ではここからは実際のフローを紹介していきます。

 まずはレンダリング設定ですが、レンダーエンジンはCyclesを使用しました。
簡素なNPRならEeveeでも良かったのですが、ライトの影や反射光が物理的に正しくないので美術的な観点から見てもレイトレーシングは重要です。
またレイトレーシングの難点としてノイズの発生がありますが、これを除去するためのデノイズ処理がピクセルを潰してブラシタッチのようなリアリティを消す効果となり、ちょっとその汚い感じが「味」になって利点となりました。
※但しこれは静止画だから可能であって、アニメーションさせるとノイズがチラついてただ汚いだけになるので要注意です。

Cyclesレンダリング
Eeveeレンダリング

 Cyclesのライティング品質を決める「ライトパス」は敢えて少なめに設定しました。
その方がシンプルでイラストっぽくなりますし、レンダリングも早くなるので一石二鳥です。
「高速GI近似」は必ずONです。
但し、今回はAO要素をシェーダーのみで扱うので、「AOの距離」は「0m」にします。(普通にやると入る黒の乗算AOはいらないです)
バウンス数は「1」にします。

これでEeveeとCyclesの中間くらいのルックでレンダリングされるようになりました。

ライティング

 マテリアルのシェーデングを行う前に、大雑把にライティングを施します。
まずは環境ライト。
通常Cyclesでは遮蔽空間はワールドの環境ライトは入りませんが、前述の高速GI近似のバウンス数を1にしたので、Eeveeと同じように遮蔽部分にも環境ライトが当たるようになります。
 つまり画面全体の明るさや色味をワールドで調整できるようになります。
室内ノーマル色なら白や薄いグレーにします。

ワールドカラーをほぼ白色の単色にしたシェアハウスリビングの昼ノーマル色
ワールドカラーを変えると環境光全体が変化する。 照明等をOFFにすれば完全な夜消灯に変身。

影やハイライトを作るためにライトを設置します。
室内の場合は天井に「エリアライト」、屋外の場合は「サンライト」を置きます。
ボードと同じ影面になるようにライトの位置や向きを調整します。

オレンジ色にハイライトされているのがエリアライト。
室内のトップライトはエリアライトを使うのがセオリー。

アニメ背景によくある、本当はそこに光源は無いのに質感表現のためにわざと付ける「嘘ハイライト」も作ります

オリーブ様の美術ボードより。 ドアに描かれている光源不明のハイライトを再現したい。

方法は色々はあるのですが、今作では不可視のプレーンに楕円やライン状のグラデーションテクスチャを貼り、それを放射マテリアルにしてポイント的に反射させたりしました。

このようなグラデーションテクスチャを貼った板ポリをエミッションで光らせて…。
このように板ポリ自体は非表示にして、照り返しハイライトのみをドアに投影させる。

 ただこれは角度によって位置が変わってしまったり、レタッチ時に邪魔だったりするのでケースバイケース外したりもします。
一通りライト周りの作成が終わったら次はマテリアルのシェーデングです。
シェーデングしながらライトの微調整も行ってルックを決め込んでいきます

TVアニメ「テクノロイドOVERMIND」BG用3Dステージのお話③に続く→→



著者:
株式会社キューン・プラント
3DCG統括責任者/3Dアートディレクター
草間徹也

モデリング、ライティング、カメラワークもこなす。主にblenderを主流に使用。代表作は【えんとつ町のプペル】BGステージ3Dリード【テスラノート】​美術用3DBGディレクター​【乙女ゲーはモブに厳しい世界です】​美術用3Dステージディレクター【テクノロイド】​美術用3Dステージディレクター全体監修
最新作【クラユカバ】【クラメルカガリ】の3Dステージも担当

編集:
なかおさん


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今回使用したレストランの素材は弊社運営の
背景素材屋さんみにくるの素材です


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