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【レポート】写真展 「所有者の視点から見た文化財 〜滋賀県湖南市 国宝 長壽寺〜」

ヘリテージデザイン×無鄰菴 vol.1 写真展
「所有者の視点から見た文化財 〜滋賀県湖南市 国宝 長壽寺〜」

開催概要
開 催 日 2020年10月24日(土)~11月30日(月)
開催時間 9:00~18:00 ※最終日11月30日(月)は12:00まで
会 場  無鄰菴 洋館1階
写真・空間デザイン 相模友士郎

京都・岡崎の南禅寺ほど近くにある、無鄰菴の洋館1階で行われているヘリテージデザイン2回目の展示イベントをレポートします!

前回に引き続き、文化財を所有者する人が、文化財とどうかかわっているのか、という、なかなか触れることができない点をテーマに開催しています。

長壽寺ご住職のインタビューにもありますが、文化財を所有することと、時間をかけて色々な人と一つの場をつくり続けていくことは、とても近しいことです。世代を超えて多額の修理・修復のお金がかかる文化財を所有することは、とても大変なことですが、他方で、そこには豊かな時間が流れていました。

さて、今回も第1回に引き続き、舞台芸術作家の相模友士郎さんが、写真作品制作と空間デザインを行いました。
どのような展示になっているでしょうか?

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洋館1階に入ると、奥の壁に37枚の写真が壁にかけられています。

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写真はそれぞれ、L2版の大きさでプリントされたもの。

写真は大きく分けて、長壽寺の境内と、境内周辺の地域、そして国宝伽藍の内部の3か所で撮影されています。

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こちらは境内の参道を撮影した1枚。
直接見えている景色と、カメラのレンズ前に設置した透明のアクリル板に移りこんだ景色の両方を重ねて撮影しています。

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境内の建築と、反対側の山の杉林が、同じく複数のイメージを重ねる手法で撮影されています。

あるいは、境内にご住職のお母様が、ご参拝客のみなさまをお迎えするために置かれた置物たちも、こんな感じで、重なりの中に。

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長壽寺の境内には今生きていてお寺を生活の場としている人々の時間と、それ以前の過去の人々がその場所を営んできた時間の重なりがあります。それが込められた作品に見えました。
また、国宝伽藍の中の、緊張感ある宗教的な場と、生活の場としての境内の対比を強く感じたためでもあるそう。

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伽藍内部で撮影した写真作品は、このように、像そのものの中にすでに刻まれている時間の層が、ありありと映し出されています。
ちなみにこの写真は「かけ仏」といって、ご本尊の秘仏は普段はご参拝の方は直接拝めないので、その代わりにご本尊を書き写した板を、伽藍内部にかかげた珍しいもの。

長壽寺は、周辺の地域と永く支えあって1000年以上の時間を過ごしてきました。その里の様子を捉えた作品もあわさって、一つの壁面に表現された37枚には、場をつくることの本質がひっそりと息づいています。

文化財の価値とは、止まっているものではなく、生きているもの。たえず価値が作られ続けることで、将来に続いていきます。
この展示作品を制作することもその一つ。また、この展示や長壽寺におとずれて、新たなものを感じ取っていただくこともその一つ。

第2回目の展示イベントのレポートでした。

文責:ヘリテージデザイン 山田咲
※写真は禁転載とさせていただきます。

展示へ向けて|Toward the Exhibit
長寿寺は不思議な魅力を持ったお寺だ。神仏習合というだけでなく、門をくぐり、野花が咲き、様々な置物が置かれた穏やかな参道を抜けると国宝指定された本堂がある。
本堂に入ると、その穏やかな空気は一変し、長い時間を孕んだ荒々しい天井や柱や仏像が目に飛び込んでくる。本堂内には船底をひっくり返したような天井が奇妙に高さ違いで二つ並んでいる。一つは人のいる場所に、もう一つは仏様がいる場所に少し高さを持って。
しかし、この二つの天井は内部でしか見ることはできず、本堂の屋根は一つになっている。つまり、一つの屋根に二つの天井が内包されているのだ。ご住職曰く、そこには仏様と同じ場所に居たいという想いと、それは恐れ多いという想いが、一つの屋根、二つの天井に現れているという。共にありたいということと、その逡巡。この二つの想いが長寿寺というあわいの場所を形作り、私を惹きつける。
参道に咲く野花や、人の手によって生けられた草花、様々な可愛らしい置物や、「どうぞごゆっくり」と手書きで書かれた看板。そのようにしてこの場所を愛で、手をかけ、寄り添うこと。参道の穏やかな時間が本堂内に流れ込み、穏やかな時間と荒々しい空間が混ざり合う。
長い時間を孕んだ荒々しい天井や柱や仏像もまた、かつての誰かの想いによって作られ、かつての誰かの手によって愛でられていたのだ。
対比的な時間と空間によって、かつてここに生き、育まれた時間があり、今まさにここに生き、育み、育つ時間があるということに気づかされる。
そして場所を作るということ、その途方もなさについて身につまされる。
自分の手を眺め、確かめるように触れてみる。
人が大切に育むものには、その想いが写し取られる。それが場所を作り、またいつかの誰かの時間を育む。その手によって作られるカタチは丸く優しい。私が撮る写真もまた、そのようにありたいと思った。
2020年10月118日/相模友士郎(写真・空間デザイン)

展示会場で配布しているハンドアウトは、こちらからもご覧いただけます↓


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