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種族解説:ドラゴン(およびその眷属)

🔰序章&項目一覧


ドラゴンと人の関わりは、今やほとんど消失してしまった。上古かみふるよりも前の時代…太古においてドラゴンは様々な種族と関わりを持ったが、それらの記憶はあまりに遠い過去のことだ。こんにち、文明社会で暮らす人々が一生のうちで本物のドラゴンを目にすることはほとんどない…君がとてつもない不運か幸運の持ち主でない限りは。

しかし、ドラゴンとその系譜に連なる者たちの研究はかなり早くからなされてきた。その白眉はくびといえば、ケイポンの竜学者ガイルースによって編纂された名著『竜王とその名を継承せるものたち』を置いて他にあるまい。それ以前の研究がことごとく網羅され、それ以降の研究はすべてかの書を論拠としているからである。

ガイルースがその生涯をかけて記したこの大冊が完成したのは新暦878年…尊厳帝アレクセイ三世のもとで、大ズンゲールサン帝国が内ヶ海沿岸の国ポルトノイを併合した年…の晩冬のことだ。

『竜王とその名を継承せるものたち』には、ドラゴンについて我らの知るべき(あるいは知らざるべき)多くの事物が収められている。今回は中でも特に重要と思しきいくつかの記述を引用しつつ、ドラゴンとその縁者たちについて紹介したい。

余談だが、ガイルースはエルフと親交が深く、同族である人とはあまり交わらなかったようだ。ドワーフをひどく嫌っており、ガイルース邸の門に“昼前の来客 押し売り ドワーフ 一切お断り”と7つの言語で記されていたのは有名な逸話である。ガイルースは生涯独身で、129歳の春に老衰で逝去した。遺言に従い、遺体は彼の最期を看取ったエルフたちに引き取られている。ガイルースの墓がどこにあるかを、人の子は知らされていない。


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上古の終わり……この世に〈深淵〉が溢れ出た〈大崩落〉にあって、種族の存続を投げうって諸種族と世界を滅亡から救ったのは、他ならぬドラゴンたちであった。確かに〈奈落〉の蓋は閉じられたが、その代償としてドラゴンは筆頭者である竜王らを喪い、種族として大きく衰退を遂げたのだ。

ドラゴンが雄々しさや偉大さの象徴として語られるのと同じように、邪悪や破壊の象徴としても諸種族で語り継がれている理由は、ドラゴンが単に畏怖すべき強大な存在であっただけではない。人やエルフがそうであるように、ドラゴンにも善なるものと邪悪なるものがいたからだ。だからこそ、国の平安を脅かすドラゴンを討ち滅ぼす英雄譚もあれば、ドラゴンに導かれて民を救う王の話も伝わっているのである。

竜王たちが眠りについた〈大崩落〉以降、ドラゴンは種族として瓦解した。彼らが我ら人間やエルフと関わりを持たなくなったのは、ドラゴンたちが長である竜王を喪ったことに原因がある。それぞれの竜王たちに連なるドラゴンたちはこの世界に留まったが、すでに我らとは縁遠い存在となって久しい。

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