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社会人編1 上司が何の仕事をしているかわからない

※この話はフィクションです。

優秀そうな仕事ぶりの上司がいた

 僕は何度か転職をしている。かつて勤めていた1社での出来事だ。
10年ほど前、当時の僕は上司と同僚数人という小さな部署でパソコン関係の仕事をしていた。上司である坂本さんはカッチリ固めたオールバックに銀ぶち眼鏡、その奥の瞳は切れ長でギラギラしており、風貌だけでもとても優秀そうな雰囲気を醸し出していた。他部署との協議ではいつもイニシアチブをとり、難しいカタカナで周囲を煙に巻いていた。論理的に話すので話はいつも理解しやすく、坂本さんは仕事ができる人だと尊敬していた。
 そんなあるとき、先輩の沢田さんが僕にこそっと話しかけてきた。
「お前、坂本さんが普段どんな仕事をしているか知っているか」
改めて考えると、仕事の指示はするがどんな仕事をするのかは知らなかった。そういえばプレゼンしている姿も見たことがないし、組織長に業務の定期報告をしているところも見たことがなかった。
「なあ、坂本さんが何しているか知りたくないか?」
沢田先輩はにやりと笑った。

いつでも上司の画面は真っ青デスクトップだった

 沢田先輩は僕に「坂本さんの後ろをさりげなく通ってみろ」と言った。
僕は言われた通りに、「トイレに行きますよ」という雰囲気を出しながら、あえて遠くにある坂本さんの机の後ろを通った。すると、坂本さんのPC画面は何のウインドウも開いておらず、初期壁紙の真っ青なデスクトップが表示されていた。何度かチャレンジしたがいつもデスクトップの状態だった。
(何をしているんだ……? いや、本当に何もしていないのか……?)
 僕が自席に戻ると、坂本さんは何やらマウスでカチカチし始める。何かをしているがわからない。人に言えないことなのか?仕事でそんなことあるか?人事とか、特定の役職以上の人しか閲覧を許可されていない資料とか?
最初は純粋に疑問だったが、何をしているかわからない人に仕事の指示やダメ出しをされることに腹が立ってきた。
 そんなある日、沢田先輩が怪しい笑みで僕を呼んだ。
「ついにできたぞ」
そういって沢田先輩は、デスクトップを一定時間おきにスクショして画像保存するバッチファイルが動作するところを見せてくれた。
「こいつを坂本さんのPCに入れる」
親指を上にあげる沢田先輩に、僕はなんだかワクワクした。

藪をつついたら蛇どころではなかった

 坂本さんが早く帰宅する日を狙って計画は実行された。一定間隔でのスクショ保存はバックグラウンドで動作するため、坂本さんはスクショがとられていることに気づけない。画像は部署専用のサーバーの奥深くに設定され、それを知るのは沢田先輩と僕だけだった。動作を確認を終え、帰宅する。
次の日はそわそわして仕事にならなかった。沢田先輩も何度もこちらを見てはニヤニヤしている。
 そんなこんなで定時時間になり、坂本さんやほかの同僚は帰宅し、僕と沢田先輩だけが残った。ドキドキしながら、スクショが保存されているフォルダを開ける沢田先輩。その横でモニターを見る僕。
「開くぞ……」
 スクショ画像の1つをダブルクリックする。すると、真っ青のデスクトップが表示される。僕がいつも見ている坂本さんの画面だ。
「ほんとに何もしていないのか」
少し拍子抜けして次の画像を開く。すると、真っ青な背景の真ん中にメディアプレイヤーが表示されている。そこには裸の男女が絡み合う姿が映っている。

沢田先輩は黙って別のスクショを開く。xvid〇oから動画をダウンロードしようとしている状態が映っている。

尊敬する上司は、朝から晩までエロ動画を収集する仕事をしていた。
無言のままだった沢田先輩が静かに僕に言った。
「これは公にできないな」
ドン引きしていた。僕もこの事実をどう扱っていいかわからなかった。
ただ、ありったけの夢をかき集めた、坂本特性エロ動画フォルダは陰で「ワンピース」と呼ばれた。

それから

 ワンピース事件から1年後、僕は転職した。事件が直接の原因ではないが、大学卒業後に入った会社だったため、どこの会社もこうなのか?と絶望していたのは事実だ。転職してわかったことは、こんな上司は他所の会社にはいなかったということだ。
 あれから10年。漫画のワンピースはまだ終わっていないが坂本さんのワンピース探しは終わったのだろうか。人生が終わっていないことを願って筆この日記を終わることにする。


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