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社会人編5 今日も僕の街は皇女様に守られている


僕の街には皇女?がいることに気づいた

 そのことに気づいたのは今の会社に転職してからしばらく経った時のことだ。片田舎に住む僕は毎日自動車で片道50分かけて通勤している。山を越えて街を通って街外れのプラントにせっせと通う。重くなる瞼を必死にかっぴらいてその日も朝の運転をしていた。
 信号待ちで一時停止していると、視界の隅に手を振る女性が見えた。その女性は任侠教師だったころの仲間由紀恵に似ており、雅子様のような笑みを浮かべ、皇族が我々に送るあの手の振り方をしていた。服装はワインレッドのニットワンピース。セブンイレブンの前に立って信号待ちをしている車たちに向けてエンペラー手振りをするその様は、この町で異質な存在感を放っていた。
 思わず見惚れていたが、後ろの車のクラクションで現実に戻ってきた僕は車を進ませた。バックミラー越しに、平民達に微笑みを向ける皇女様がいつまでも写っていた。

それから度々目にする皇女様

 毎日ではないが、目にするのは一度では無かった。ある時は真っ白なワンピースに真っ白な日傘。またある時はヤンクミのような上下ジャージ。個性的なファッションと共に度々下界に降りてきては庶民の生活を観察しているようだった。
 さすがに笑ってしまってのは(不敬)、市議会選挙で候補者が宣伝カーで走っているところにもエンペラー手振りを送っていたときだ。候補者はありがとうございます!とマイクで答えていたが、流石に頭が高かった。皇女様は誰にでも平等に手を振っていた。

今日も僕らの街を見守ってくれている

 実際のところその女性はあまりにミステリアスだった。通勤ラッシュ時に通勤していない。主婦だったとしたら一番忙しい時間帯に、他人に延々手を振っている。何か言葉を発することもなく、手を振る以外に何をするものでもなく。最初は僕にしか見えない霊なのかと本気で思った。その女性の立つ近くに花が添えてないか探したがそんなことはなかった。昔親に言われた、「近寄ってはいけない」人なのかとも思ったが、最近見かけた時に[交通安全]と書かれたタスキを掛けて立っていた姿をみて、そんなことはどうでもよくなった。
 皇女様は今日も僕らの安全を見守ってくれている。





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