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社会人編2 インターンで壊された大学生 

※この話はフィクションです。

インターンでやってきた大学生

 社会編1の時に勤務していた会社では、僕の所属していたパソコン関係の部署と本来業務の開発部署がまとめられていた。要は特殊な間接部門はまとめられて隅っこに追いやられていたわけだ。
 開発部署には会社としての雑務が回ってきていた。新入社員教育も総務から丸投げされ、インターンの受け入れも毎年この部署が担当だった。
 幸い開発部署は研究テーマをいくつもかかえており、インターン生としてもテーマに対して実験を行い、結果と考察をするという流れのため大学に提出する報告資料が書きやすい利点があった。

 ある年に入ってきたインターン生がいた。名前を小林君という。小林君はマッシュヘアに黒ぶち眼鏡、どこか垢抜けないthe 理系の大学生という雰囲気をもっていた。一言あいさつで深々と頭を下げる姿に真面目さが感じられた。
 対して開発部署の人々はマイペースな人材が豊富に在籍しており、小林君の真面目な挨拶に拍手をしながらも各々どこか上の空の様相を呈していた。

インターン終了間際に事件は起きた

 小林君に罪はないが、来たタイミングが悪かった。当時開発部門は現場からの不具合調査に追われており、小林君の面倒を見切れるほど余裕がなかった。小林君の世話係を担っていた当時の係長がマイペースの頂点にいるような人で、他人に興味がないことでも有名だったため、小林君の定期進捗報告も適当に流されていた。
 ただ指示だけはしっかり出しており、小林君はインプットに対するアウトプットを真面目に行っていた。傍から見ている分には大きな問題は無さそうに見えていた。
 インターンも終盤に差し掛かるころ、小林君は取り組みの発表プレゼン資料を作っていた。卒業試験のようなもので、部長をはじめ開発部署の面々の前でインターンの取り組みを発表するのが恒例だった。発表が評価されないと大学の単位も出ないため本人としては頑張りたい部分だ。発表の2~3日前にようやく形になったのを係長が確認し、一度部長に報告した。

「だめだよこの内容じゃ。僕の考えと違うじゃん」

部長は一言でぶった切り、小林君の発表資料を突き返した。小林君としては実験による事実に則って発表資料を作成したのだが、どうやら「部長の想いに沿った内容になっていない」発表資料だったようだ。本来あってはならない事象だが、思想が強い上司の場合にまれによくある。部長の想いに沿うためには追加の実験が必要だったが、その場合だと結果が出るころにはインターンの期限を過ぎてしまうということだった。立ち尽くす係長と小林君の背中を見て言葉を発せられる人は誰もいなかった。

庭に黒い枯草(?)

 そんな地獄の空気からこっそりと退勤した僕は、夕食を外で済ませて社宅アパート1階の自室に帰宅した。エアコンがあまり得意ではないため、窓を開けるのが日課だ。その日もベランダの大きな窓をあけた。すると、ベランダに見慣れない黒い塊が大量に落ちている。ウェスタン映画で荒野を転がる枯草のような塊だった。夜だったこともあり、はっきり何かということはわからなかったが、面倒くさがりな僕は (風で飛んでいくだろう) と放置することにした。
 次の日、出勤すると見慣れない男性が小林君の席に座っていた。恐る恐る顔を覗き込むと、小林君だった。見慣れないのは髪型が変わっていたからだ。なぜかマッシュヘアはガタガタの5分刈りになっていた。どこからどう見ても自分でやったとしか思えない。
「そ、その髪どうしたの?」
恐る恐る聞く僕に小林君は笑顔で答えた。
「最後に皆さんにインパクトを与えたくてボーズにしちゃいました。僕って印象薄いから」

小林君は僕の自室の真上の部屋に住んでいた。つまり、ベランダに落ちていた黒い枯草は小林君の刈り上げた髪の毛だった。
気でも狂ったのかと思ったが、何も考えずノリでやったのかもしれない。
行動原理の理解できなさに、僕は生まれて初めて人に恐怖した。

彼の中ではいい体験だったのかもしれない

 なぜ髪を刈り上げたのか、なぜ印象が薄いと思ったのかはわからない。謎のインパクトだけを残して、なんやかんや発表を終わらせた小林君は大学に戻っていった。就活をする際にはもっとちゃんとした会社を探してほしい。小林君にとっても会社にとってもそれが良いと思った。
 ベランダの髪の毛は強風でどこかに飛んで行ったらしい。気づいたらなくなっていた。

 それから暫く経ち、噂で小林君が就職面接を受けに来たという話を聞いた。正気かよと思ったが、なんやかんやで小林君の中では良い体験だったのかもしれない。噂を聞いたあとすぐに転職したため、採用されたのかどうかはわからない。もし入社できたとしたら、次は自分の髪の毛は自分で片づけてほしい。


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