つちのおもみ

“ぼく” が ”HOME” の外に出てから、”管理官” が時々ぼくの様子を見に来るようになった。なんでも、今はぼくとしか人と話せる機会が無いらしく、ついつい来てしまうらしい。ぼくは一人でもあまり孤独を感じない。しかし、彼からは “きみ” の様子を聞くことができる。それにぼくは人と話すことが結構好きだから、彼の訪問を煩く思わない。

ぼくは畑を耕す鍬を小刻みに動かし、畝を作りながら彼と他愛もない話をする。「これでいい?」「ああ。上出来だ。随分と手慣れたものだ」彼は鈍く光る金属の瞳を細めて笑う。「まあね。HOMEでは家庭菜園を作ってたから、その応用だと思ってるよ」「確かに、それなら手慣れていて当たり前だな。でも、土の重みは違うだろう?」

土の重み。ぼくが外に出てすぐに味わったものだ。ぼくが握っている鍬はとても年季が入っていた。正真正銘、本物の鉄だ。大きく鍬を振り上げ、鍬の先を土へ食い込ませる。しかし固くなった土は石のようにびくともせず、ものの十分ほどでぼくは音を上げてしまった。一筋縄ではいかない。そんなぼくに彼は土を解す方法を教えてくれた。

「思い通りにならないのは楽しいだろ?」
笑いながら彼はぼくに言う。確かに、HOMEとは比べ物にならない程にここは不便で、不潔だ。突然天気は変わるし、強い風も吹く。でも、ぼくたちの祖先はこの大地で遥か昔から生きてきた。全ての人類がHOMEに移り住んで150年。たった150年前に誰もが経験していたであろうことを、今、ぼくは一人で行っている。

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