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3Dプリントヘッドの設計 1/4【目標設定】

◆なぜ作るのか

Tronxy D01がぶっこわれたので修理するついでに改造して高速化したいと思う。とりあえずKlipperは導入できたので次はダイレクトエクストルーダー化をしようと思う。
適当にエクストルーダーを改造してもいいんだけど、そもそもプリントヘッドの設計が気に入らないんだよね。
この世の中に存在するプリントヘッドは9割9分重心が前に偏っている。これが気に入らない。こんなの振動の元じゃん。高速稼働でブイブイ言わせてるvzbotやvoronのプリントヘッドもチェックしたけど、やっぱり設計が気に入らない。
なので自作プリントヘッドでギュインギュイン高速化しようと思う。

◆現状分析

高速稼働とは具体的になんだろうか。プリンタの稼働速度を測るベンチマークとして草の根ではSpeedboatraceが広く使われている。
https://www.youtube.com/hashtag/speedboatrace
Speedboatraceは低価格機で1~1.5時間、中級機では無改造で30分~1時間が相場だろう。ここでの中級機はEnder 5 S1やAnkermake M5などを指す。
このSpeedboatrace、はじめは草の根の活動だったが、次第にデファクトスタンダードとして認知されつつあり、現在ではPrusa MK4やCreality K1のプロモーションに使われていたりする。
さておきYoutubeでSpeedboatraceの記録を検索すると、15分前後を区切りにして動画の投稿が多くなるように思う。そしてトップクラスは5分以下である。なので切りのいいところで10分切りを目標にする。

◆10分切りのために必要なスペック

Speedboatraceの記録を分析すると、10分切りをするには 250mm/s   30,000mm/s2くらいで稼働させればよさそうだ。
分析のために記録集、というかランキングというかスコアボードが欲しかったのだが無さそうだったので作った。

記録をグラフ化すると速度と造形時間にはゆるい相関があることがわかる。

左にいくほど造形時間が早く、上に行くほど速度が高い

造形時間と加速度にはぼちぼちの相関があることがわかる。

左にいくほど造形時間が早く、上に行くほど加速度が高い

50,000mm/s2を超えるような高度にチューンナップされたプリンタによる記録を省くとこんなグラフになる。10分切りの記録はおおむね25,000m/s2以上必要そうな感じがする。

左にいくほど造形時間が早く、上に行くほど速度が速い

まとめると、速度250m/s、加速度 25,000m/s2以上を目指せばよさそうだ。

あくまで雰囲気。

速度250mm/s

速度そのものは助走区間が十分にあれば廉価な3Dプリンタでも出せる。がしかし、ホットエンドの吐出量が速度に追いつかなくなり樹脂が吐出されなくなる。
ホットエンドの最大吐出流量はMVS (Maximum Volumetric Speed)で表される。例えばレイヤー厚み0.25mm、ノズル幅0.4mmとすると、MVSに10を掛ければ最大稼働速度になる。
参考:https://muppetlabs.co/3dprinting_techniques_calibrating_volumetric_rate.html

普通のノズルはだいたい200mm/s (20mm3/s)が関の山のようだ。
https://satt99.hatenablog.com/entry/2020/11/23/164314#%E3%83%8E%E3%82%BA%E3%83%AB
https://www.nathanbuildsrobots.com/testing/ender3s1

 BondtechのCHTノズルだと流量が向上するらしい。MVS 30mm3/s程度を発揮できるので目標の250mm/sはクリアできそうだ。このノズルを使うことにする。
https://www.cnckitchen.com/blog/bondtech-cht-high-flow-nozzle-reviewed

加速度 25,000mm/s2

最大稼働加速度はモーターの出力と可動部の重量で決まる。
可動部の重量はざっくり500gだ。 (Yレールブロック 50g x2、Xビーム 150g、プリントヘッド 250g)
500g の物体を 25,000mm/s2 で動かすために必要な力は F=maなので0.5(kg)x25(m/s2)=12.5N 
モータに要求されるトルクは、力をプーリのピッチ円径で割ればよい。GT2 の20Tのピッチ円直径 12.73mmなので 12.5(N) / 0.6365(cm)=19.6 N・cm
モータのトルクは速度によって変化するので、稼働予定速度の全域で最低19.6 N・cmを発揮する必要がある。ここらへんのWebページを参考にステップモータを選ぶ。実際に出るトルクはカタログ通りにはならなくて、モータ温度やらなんやかんやあるので、出来る限りつよいモーターでトルクのマージンを稼ぐのが望ましい。
https://github.com/VzBoT3D/VzBoT-Vz330/wiki/Motors-%28Stepper%29
最終的にE3DのHigh Torque motorを買った。ステップ角度0.9°でいちばんつよいモーターらしい。しらんけど。


おおよそ目標が決まったところで、他の高速機を参考にして高速稼働化のために重要な項目をまとめた。それぞれ対応方法も決めた。
目標:250mm/s、25,000mm/s2 で3D Benchy 10分切り
改造要目

1.軽量高剛性なプリントヘッド
 ➡自作する
2.吐出量の向上
 ➡CHTノズルへの交換
3.加速度の向上
 ➡A, Bモータの交換(E3D High Torque Motor)
4.応答遅れが少なく高出力のダイレクトエクストルーダー
 ➡自作プリントヘッドの設計におりこむ
5.高速稼働に対応した制御ソフトウェア
 ➡Klipperを導入する(済)

次はプリントヘッドの具体的な設計をやっていく。

次:Part2 基本設計 https://note.com/hexcapbolt/n/n6994f1e156e7

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