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留学備忘録①:ホームシックは麦茶の味

今までの「当たり前」がないことに、無性に恋しくなった

noteに残しておきたい備忘録のテーマの中に、学生時代の留学がある。

家族のありがたいサポートもあり、学生時代に2回も海外留学をさせてもらった。1回目は高校2年生の時で、今回はその時のお話。もう10年近く経ってしまったことに驚きを隠せない。

私の進学した県立高校は、国際交流の盛んな学校で知られており、毎年世界各国から交換留学生が来ていた。私は小さい頃から英語を使って人とコミュニケーションを取ることが好きだったこともあり、学校の交換留学制度を利用して、南オーストラリア州のアデレードという所に3か月間滞在した。

この3か月間は、私にとってとてもあっという間で、刺激的で、貴重な時間だった。限られた時間の中で体験できるすべてのことが新鮮で、正直に言えば、帰国の際も「まだ帰りたくない」と思うくらいだった。

そんな3か月の間で唯一、「これはホームシックだ」と感じたのが、タイトルに選んだ「麦茶の味」だった。

ホストファミリーとの生活の中で、自分の飲み物を用意する際に「あなたは何か飲む?」と、家族の飲み物も一緒に作ってあげる習慣があった。もともと珍しいもの好きな私は、実家にはなさそうなドリンクをひと通り試して、その中からお気に入りを見つけて飲んでいた。特に好きだったのは「モカ」と「チャイラテ」で、まだブラックコーヒーが「睡魔に打ち勝つために学校の自販機で買うもの」だった私は、砂糖とミルクのたっぷり入ったホットドリンクにハマり、顔が真ん丸になり始めていた。

ところがある日、ホストマザーに「何が飲みたい?」と言われたときに、今日はそこにピンとくる「今、自分の飲みたいもの」がないことに気が付いた。「甘味も、ミルク感も、フルーティーな香りや渋みもない、水でない飲み物」を求めていた私は、日本の実家の冷蔵庫にいつでも当たり前のようにいる「麦茶」を欲していたのだ。

10年ほど前の、しかもオーストラリアの一般家庭では、沸かしたお湯に入れるだけでできるミネラルが豊富な「麦茶」は、当たり前にあるものではなかった。チャイナタタウンの屋台でも、Teaというと砂糖のたっぷり入ったフルーツティーが出てくるか、時にはそれが炭酸入りでびっくりしたこともある(それはそれで美味しかったりもするけれど)。香ばしい匂いのする、砂糖とは違った甘味のある「お茶」が無性に飲みたくなる日が来るなんて、思いもしていなかったので、いろんな意味でショックを受けた。一度「麦茶が飲みたい」と思いだしたら恋しさが止まらなくなってしまい、最終的には日本の食品を取り扱うアジアショップで割高に購入した記憶がある。

今でこそ、モノや人、文化がかつてより簡単に国境を越えられるようになっている。ネットで何でも輸入できる世の中だし、海外の大きな都市にはアジアショップが必ずと言っていいほどあり、日本の代表的な調味料やお菓子などを手に入れられる。醤油やカップヌードルなど、日本食を取り扱っている現地のスーパーも増えてきているのではないだろうか。現地の人々が、「日本食を味わいたい」と手に取っている姿を見ると嬉しくなる。一方、同じくらい多くの駐在や留学の日本人が、日本食恋しさに手に取っているのだろうな、ともしみじみ思う。

いろんなことを思い出しながら飲む、相変わらず自分の家の冷蔵庫の常連の麦茶はやっぱり素朴でおいしい。

(アジアショップの話は、他にもいろいろありそうだから次の機会に。)


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