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備忘録〻ふるさと

実家の居間にあるテレビ台の上には「備忘録」と書かれたノートがいつもぽつりと置いてある。持ち主は父。数年前にその表紙を見つけた時、この人は本当に愛しい人だなと思った。

2022年のお盆休み、故郷で過ごした身体と脳と心の記憶。
また想い出せるように、ここに雑記しておく。



実家に帰る前に牧野植物園に寄り道。
水がたっぷり張られたかめ(?)に反射する植物が綺麗で写真を撮っていたら「何か(動物でも)おるんですか?」と不意に話しかけられたのが良かった。象としては存在するのだけど、居るかと聞かれたら居ないしなとか思って何も答えられずただヘラヘラしていた。


実家の最寄り駅に着くと父が迎えに来てくれてありがたい。
助手席に放り投げられた文庫本を片付ける手。
数分の待ち時間でも本をめくる意思を持った手。


実家の窓辺には、ジャガード織りで木々が表現された黄色いカーテンが掛かっている。内側のレースカーテンもまた木々の模様。その窓枠からさらに、庭に生い茂る木々が見える。
これは記憶からすっかり抜け落ちていた事。
模した木と実在の木が同じ視界に入り続ける事が何だか面白い。
インテリアの植物柄というのは、そこに「無い」ものを補強する時に用いる気がしていたのでそういう感覚が崩れる気持ち良さもあった。


金曜日の夜はロードショーだ。
という事で晩御飯の後にラピュタを観た。
冒頭から「こんな小さい羽で飛べるわけない」とドーラの乗る飛行物体にケチをつける父。「ええ…」とか「わっ」とか短くつぶやく兄。パズーのラッパが聴きたくてパズーの目玉焼きトーストを食べたくての私。母は片付けをしてくれている。最初だけわんわん言って、22時頃にみんな眠くなったので解散。自由。


朝6時の実家周辺。
小鳥と虫がセッションしつつ、ハトの声がたまに入ってくる音を聴く。
色んな声がする。
実家に戻ってきてからはスマホで音楽を聴いていない。
ここでは色んな音がするし。
聴き逃したくないという気持ちがあるのかもしれない。


恩師はもう65歳になったそうで、事務所に猫を2匹飼っていて可愛い。
キリが悪いからちょっと待ってと言われて仕事の後ろ姿を眺めてそれが美しかった。写真を撮りたかったけど戸惑いやめ。目が覚えているからきっと大丈夫。
さあ出発だと乗り込んだ車で流れた音楽は玉置浩二さんの「田園」でとんでもなく感動してしまった。その後は8 Mileのあの曲とかで田んぼを見ながらのエミネム氏のラップもすごい。あとは藤圭子さんが流れたりスタンドバイミーが流れたりとにかく自由奔放なプレイリストだ。こういう生活の中に雑然とある音楽は素晴らしい。


「嬉しいとか楽しいとかはあるけど感動はあんまりしない」「そもそも感動するって何だっけ?」「んー。喜怒哀楽では収まらない感情」という会話をして楽しい。音楽で感動したというのは記憶にあるそうで、音楽は即効性が強いのではないかという見解。初めて行ったライブは何だという話題に転がり坂本九さんだ。と言っていて良すぎてひっくり返りそうになった。


実家の車庫が父の趣味に侵食されており、鉄骨剥き出しの壁に絵画がズドンと飾ってあったり。かっこいい石がいくつも飾ってあったり。表紙が裏返った本が並べられていたりと面白い。後で聞くと、石やら絵画は今年亡くなった父の叔母の家から持ってきたものらしい。


夜も21時を過ぎるとあたりは真っ暗。
周りにある街頭は白い光のやつがひとつだけ。
暗闇に安堵するルーツはここにあり、と腹落ちした。





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