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刀匠・宮入法廣さんと刀子

 松本市美術館で開催された『よみがえる正倉院宝物』展の関連プログラムとして、2022年6月4日(土)に鼎談会「正倉院宝物の再現模造」が開催されました。
 キャストは、正倉院事務所長の西沢明彦さん、刀匠の宮入法廣さん、松本市美術館長の小川稔さんです。

 展示会と鼎談会については前回の記事で触れましたので、今回はその中でも一番に興味を惹かれた、宮入さんと刀子について書こうと思います。

前回の記事↓


刀子(とうす)とは

 私はこれまでその存在すら知らず、今回の展示会で初めて見知りました。ネットで調べても萌えキャラがヒットしてよく分からないので、自分なりにまとめます。

 刀子は古代の小刀で、日本刀をカッターナイフくらいのサイズにしたイメージのものです。武器としてではなく、文房具として使用され、木簡に書いた文字を削って消す、といった使われ方をしました。
 ベルト(腰帯)に下げられるように鞘に組紐がつけられたり、鞘や柄を象牙や紫檀などで作られたもの、それを金銀で装飾したり、撥鏤(ばちる)と言われる彫り物が施されるなど装飾性が高いのが特徴です。
 また機能面では、複数本の刀が納められる刀子や、刀と共に鋸や錐を納められる刀子もあり、持ち主の趣味などが反映したものといえます。

宮入法廣さんについて

 長野県坂城町の生まれ。長野県無形文化財。
 父親(宮入清宗)も伯父(宮入昭平/人間国宝)も刀匠で、江戸時代から続く刀匠の家柄。ただ、法廣さんは相州伝の宮入一門ではなく、備前伝の隅谷正峯さん(人間国宝)に師事されます。
 その後、39歳という若さで無鑑査刀匠という最高位の刀匠として認定されました。

 そんな宮入さんは、師匠の隅谷正峯さんが刀子を作っておられたことから、刀子にも興味を持たれていたそうです。
 刀子は日本刀と違って鞘も装飾も刀匠自らが作るそう。

 実際に再現模造品として作られた刀子が今展示会で2点(黄楊木把鞘刀子、白牙把水角鞘小三合刀子)展示されていましたが、日本刀と違って小さく繊細で、かといって刀ならではの機能美にもあふれ、思わず欲しくなってしまいます。

 宮入さんはFacebookページをお持ちなので、そちらもぜひご参照ください。

刀子の製作話

 さて、そんな宮入さんが鼎談会で刀子の作り方を事細かに解説してくれました。詳細は書きませんが、一部をご紹介します。

黄楊木把鞘刀子(つげのつかさやのとうす)

刀子の表面から銑(ずく)を使用
 再現模造にあたって本物の刀身を観察したところ、細かい穴(鬆(す))がたくさんあった。そこから、玉鋼(たまはがね)ではなく銑(ずく)を使って作られただろうと推察した。

 日本刀作りに欠かせない玉鋼はたたら製鉄によって得られるが、この刀子のように鬆は入らない。また、当時の技法という点から考えても、近世以降の日本刀のように数種類の鉄を用いたものでなく、たたら製鉄で得られる銑を用いたものと考えられた。

折返し鍛錬は4回
 日本刀は、刀身となる鉄を熱して、叩いて伸ばし、折返し、また叩く、を繰返して作ります。これによって鉄に含まれる不純物や炭素量を調節し、刀として必要な硬度や靭性を作り出します。
 この刀子に関しては、折返し鍛錬4回で仕上げた。

黒い部分は土にあり
 金象嵌の入った黒い部分〜鑢座は、粘土などをベースにした焼刃土を付けて熱して作る。焼刃土の厚さや付け方を工夫して、刀身への焼入れを調整する。


白牙把水角鞘小三合刀子(はくげのつかすいかくのさやのしょうさんごうとうす)

※見出し画像の刀子です。(出典は本記事末に)

鋸の目を立たせる
 
46mmの刃渡りの中に、鋸目を57枚作るのに苦労した。現代の鋸のような歯振り(あさり)がないが、その分歯を厚く、棟を薄く作ってある。
 刃は押切りして使うように付いている。引切りすると柄が抜ける。


最後にもう一度

 こんな話が聞けて、宮入さんと刀子のファンになったのは言うまでもありません。鼎談会の後、時間いっぱいじっくりと刀子を鑑賞いたしました。

刀子、いいな〜。欲しい。

 ちなみに、下世話な話ですが、刀子って幾らくらいするのかと思ってWebをあさったところ、宮入さんが工房を持つ東御市のふるさと納税の返礼として、宮入さんが刀子を作ってくれるというのがありました。
 完全オリジナルの本数限定で、お値段○万円。
 流石に簡単にお願いできる値段でないか(笑)

参考文献

[1] 宮内庁正倉院事務所 他. 御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 ー再現模造に見る天平の技ー. 朝日新聞社, 2020.


見出し画像出典: 正倉院Webサイト https://shosoin.kunaicho.go.jp/

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