推しのおかけで世界が広がる話

 この本を読んで感想を綴ることは私の夏休みの宿題でした。
「推しのおすすめを読んで推しの脳内の一部を理解した気になれたかな」
なーんて惚けた感想をこの作品を前に抱くなんて
なんて陳腐で浅はかで恥ずかしいことなのだろうと思います。
 でも、私がこの本に出会ったきっかけが天下の櫻井翔であることは紛れもない事実だから。アイドルでありながらさまざまな人に出会い、知り、伝える仕事をする今の彼を突き動かしているものであることを念頭におきながら読み始めた作品として、記します。

 ほとんど小説しか手に取らない私にとって、いくら推しのバイブルだとしてもほぼ自分の生まれ年に出版されたノンフィクションものを夢中に読めるとは思ってもいなかったわけで、だからこそ自分に課した「夏休みの宿題」のつもりで読み始めました。あるテレビ番組タイトルが推しの口から発せられた瞬間フリマサイトで次々に売れていく様子を目の当たりにし慌てて購入したこの本が、かなり年季の入ったものだったためかもしれません。

 だけど一度ページを捲ると、私は辺見庸氏の綴る文章に引き込まれました。彼は冒頭で、長年の飽食に慣れわがまま放題な自分の舌と胃袋が気に食わなくなり、異境でいじめてみたくなったと書きます。私はノンフィクションの、どこか自分事として捉えることを強要されている感に敷居を感じてしまうのだけれど、この冒頭は、そんな私の敷居をぎくりという音とともに見事に崩したのです。

 残飯の売買される国に止まらない紛争にエイズの蔓延に、放射線で汚染されたスープ、日本人の犯した許されざる罪。…さまざまな場で触れたことのある社会問題を、とっても身近な「食」を通して一気に浴びた気分になりました。
 そもそも「食べること」において自分を甘やかしがちな私にとって、紹介されるどれもが衝撃の連続でしたが、全て読み終えて何より頭にこびりついて離れないのは、タイの缶詰工場で日に猫缶5つほどの給料で働く少女と、理不尽という言葉ではとても片付けられない現実でした。ペットと暮した経験なんてないのに、なぜだろう。。


 なんて書き記してはいるけれど、筆者が実際に経験した「ほんもの」は著書にしかない。筆者の行動力には冒頭でとっくに脱帽していたはずだけど、実体験にここまで引き込まれる文才を持ち合わせているのが、改めてすっっっごいなあと思いました。そして、ここまで考えさせられる「もの」に出会わせてくれたこと、改めて自担に感謝するとともに、より一層彼への尊敬と憧れの念が増し増しになったことは言うまでもありません。

 良き夏休みの収穫でした。

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