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夏の終わり

女の子と一緒に寝て、ぐっすりと快眠できたことなど一度もなかった。眠りが浅いと寝返りをたくさん打つ習性があり、そっぽを向こうもんなら、「どうしてそっち向いて寝るの?」などと思われるのではないかと思って、寝返りを打つのを躊躇してしまう。そっぽを向いたら向いたで、せっかく2人で寝てるので、触れていたい願望が募り、しがみつくように寝ると、それはそれで触れているという感覚センサーで眠りを浅くさせる。どっちにしろ寝返りを打ちたくなってまた背中をむける。
そんなことを繰り返すと翌朝、眠すぎて疲れているということがよくあった。

しかし彼女とは違った。彼女はいい意味でもう寝なさいと僕になにも構わないのだ。触れていようが、背中を向けようが、構わずに寝ている。その顔はいつ見ても同じ寝顔で幸せそうだった。気付いたら翌朝の6時半で、夜一度も起きることはなかった。このことは、自分1人で寝ることよりも快眠だったことを意味した。自由に寝返りを打てる1人よりも、彼女と同じ布団で寝た方がよく眠れたのだ。僕は少し驚いて、彼女にしがみついて二度寝をした。

この日は彼女が料理をつくってくれていた。ひき肉とナスときのこの炒め物、豚バラとお野菜がたくさん入ったお味噌汁。仕事で疲れているのに関わらず、疲れた素振りをいっさい見せずにつくってくれた。野菜がたくさんで凄く美味しくて、おかわりをした。ぶどう狩りに行きたいと言っていたのを聞いてたからか、シャインマスカットを買ってきてくれていた。その緑色はすごく輝いていて、優しさの分キラキラしていた。暑い秋だけれど、このシャインマスカットがこの季節に彼女と過ごした証になって、嬉しかった。仕事柄頻繁に会えるわけではないから。

9月がもう終わる。彼女と出逢った初夏から秋めいてようやく、季節が移りゆくのを感じている。中秋の名月らしいけれど、曇りがかっていて月灯だけを感じている。

「こっちの空は月よく見えないよ」

付き合った日に2人で見た満月を思い出して、夏の終わりと、秋の始まりを僕は迎える。

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