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帝京高校の復活へ【後編】

社会を大きく混乱に陥れたコロナウィルス。
約3ヶ月の自粛期間を終え、6月2日。帝京高校の野球部は再開した。
何処の高校も経験したことのない前例の無い夏。

「甲子園中止」

この報せは日本中の野球部を大きく悲しみと不安により深く落とし込んだ。
それは帝京高校も例外では無い。

秋季大会では準優勝。確実な手応えを感じ、今年こそは本気で目指せるチームが出来上がっていただけに前田監督も肩を落とした。
それでも2年・3年の部員と連絡を取り、落ちた士気をもう一度取り戻す。
それは何よりも新チームを強い気持ちで厳しく引っ張ていた主将・加田の呼び掛けが大きい。

帝京


大阪から単身で上京。「前田監督を甲子園に連れて行かないと、帝京に来た意味がない」その目標は叶わなかったが、「大阪を出てきた意味」を考え、。人として、選手として、大きくなるために来た事を改めて強く意識する。

東京都高野連は1日に選手権大会に代わる
「2020年夏季東西東京都高等学校野球大会」の独自大会の開催を決めた。
最後の夏、全力で挑める挑戦の場が用意された事で、再び帝京は士気を高く持つ。

「東京No1」

最後の夏は何がなんでも1番を取りに行く。
加田主将をはじめ、チームの意識は高くそこに持ち、「特別な夏」が始まった。

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春季大会で冬練の成果を確かめながら、夏の大会に向けてメンバーの調整を行う。
そして5月・6月でベンチ入りメンバーが固まっていき、挑んでいく。

例年であれば春季大会や練習試合を重ねながら状態を確認するが、2020年にそんな余裕は無かった。
選手達は3ヶ月の自粛期間中、個々で自主練を重ねていたとはいえ、体力と筋力はやはり落ちていく。体力を取り戻しながら、熱中症には例年以上に気を付けなければいけない。

そして独自大会は例年と異なりベンチ入りメンバーの入れ替えが可能となった。
故に「3年生全員出場」が実現可能であり、それは帝京を始め全国の多くの高校が3年生主体で戦う意向を見せた。

ほぼ全てのチームが同じ条件下。言わば対等に戦力が揃い真価が問われる一戦。
昨秋10年振りの決勝まで進んだ帝京高校にとって独自大会とはいえ、重要な大会になる事は間違いない。

初戦の相手は「目黒学院」。猛攻を重ね15-0の5回コールドで初戦を勝利で飾った。投げては1年生の秋から先発を任されている左腕・田代。そして2年夏にエースナンバーを背負った投打の中心・武者と繋ぎ、以降は後藤、中埜と継投の完封リレー。チームは投打に渡り、格段の成長を見せつける試合となった。

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そして続く3回戦「目白研心」戦では、2年生の大型右腕・植草がベールを脱いだ。
1年生の時から、そのポテンシャルを高く評価され期待度の高い投手がこの試合で初めての公式戦登板を果たすことになる。

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身長187cmから繰り出す130キロ中盤の速球にバットは空を切る。
打線も繋がり、7回コールドで勝利を収め、植草は完封・9奪三振と、上上なデビューを果たした。

続く4回戦「成城」戦でも武者・柳沼・田代の3枚看板のリレーで完封勝利。

迎えた準々決勝の相手は昨夏と同じカード「日大豊山」。
当時2年生投手であった田代が好投しながらも、自らのミス絡みで敗れた。
「悔しさを忘れてはいけないと、思っていましたし、悔しさがあるからこそ、何が何でも勝ちたい、と思いました」と語る田代は見事成長した姿を見せ雪辱を果たす事になる。
試合を重ねるにつれ、打線もますます勢いを増し切れ目がない。
「倍返し」と言わんばかりの7回コールド勝利でリベンジ成功。

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チームは未だ大会無失点。正に帝京の3枚看板が一冬を超え成長を見せ、植草を始めとする下級生投手も育ったが故である。

そして迎えた準決勝の相手は「東亜学園」戦。
ここまで「修徳」を倒した「都小岩」を破り、「城西大城西」「実践学園」と下し勢いがある。

試合は終始緊迫した展開が続き、またこの試合で帝京は”大会初失点”を迎える。
8回裏まで東亜学園が1点リード。ここまで帝京サイドは塁に出すものの、東亜学園先発・鈴木を打ちあぐねていた。

そして8回裏。連打で1死満塁のチャンスを作ると、ここまで投げていた柳沼に代打を送り勝負に出る。2ボールの後の3球目をファウルにすると、前田監督は代打の小山に代えて、さらに代打の菊池を送る。名将の勝負勘。
過去幾度となく甲子園でも決め続けていた帝京の勝負所でのスクイズを、菊池が初球に見事に応える。
2ボール1ストライク。警戒して外せば3ボールになり、守備陣により緊張を高める状況を作り出しかねない。
相手ベンチは予測はしていながらも、リスクを選択し勝負に賭けた帝京陣に軍配が上がる。

そして捕手の1塁への悪送球を誘い、更に1点追加すると、続く杉本の右前安打で追加点。8回裏で粘り強く4点を奪取し勝負有り。

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9回表には武者を送り出し、140Km超のストレートで東亜学園を封じ込みシャットアウト。2014年振りとなる決勝戦進出を決めた。

そして決勝戦の相手は「関東第一」東東京の横綱対決は、レベルの高い、息詰まる熱戦となる。

関東第一、帝京共に両先発が試合を作り、それぞれが継投。息詰まる投手戦となり2-1のまま「関東第一」の1点リードで最終回を迎える。
一死後、4番・加田が粘って四球で出塁すると、5番・新垣の初球にエンドランを仕掛け、左前安打となり一死一、三塁。続く6番・武藤の初球にスクイズを敢行し、同点に追いついた。
自粛期間を経て満足に打撃練習も行えなかった帝京の攻撃の要であった機動力を絡めた小技。そして見事2試合続けて成功させる勝負強さ。

勝負はそのまま延長へ、帝京は9回から武者が、関東一は延長10回から市川をマウンドに送る。

迎えた11回裏。帝京は2番・尾瀬が決死の内野安打で出塁すると、3番・小松が送り1死2塁。4番・加田を申告敬遠で歩かせ1・2塁で5番・新垣と市川の勝負に全てが託された。
甘く入ったストレートを逃さず捉えると、そのまま打球はレフトの頭を抜けサヨナラ勝ち。

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見事帝京が9年振りの東東京の制覇を果たした。
1年生の夏から試合に出ている選手も多く、名門復活を託された世代であり、そして加田というチームを鼓舞できる主将を擁して、東東京を制した。
かつてのような長打量産の打のチームでは無く、小技を絡め守備で勝つ。
1点を何がなんでも執念で取りに行く、その凄みを強く感じるチームが出来上がっていた。

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「おれが帝京を変える」

そう意気込んで大阪から上京した。新チームでは主将を任せられ、昨秋の都大会は準優勝。最後の夏は当然、甲子園で輝くつもりだった。
 そんな未来はコロナでついえた。代替大会があると分かっても、気持ちは盛り上がらない。前田監督から「代替大会は3年生の引退試合じゃないんだぞ」と一喝されて目を覚まし、主将として、途切れそうになる気持ちを何とかつないだ。

正に2020年は名門復活に相応しい試合であった。それは3年生達の気持ちの強さもあるが、やはり前田監督からも過去No1の信頼度と称される加田主将の存在が大きかった。「馴れ合いはよそう」と厳しく仲間内で指摘し合い、ぶつかり合い高めあった。

「甲子園はないけど東大会の頂点に立ててうれしい」

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※写真左より小松副主将(大阪府出身)前田三夫監督・加田主将(大阪府出身)

そして8月10日。東東京優勝の帝京と西東京を制した東海大菅生が激突。独自大会とはいえ夏の東京NO・1を決めるのは選手権の代表校が東西に分かれる前の73年以来47年ぶり。

試合はまさに東西No1通しの勝負とあり名勝負に相応しい内容となった。

試合は左腕・田代が2安打に抑える完璧な内容で9回裏へ。
だが東海大菅生は1番・千田の中前安打で出塁すると、2番・玉木が四球。
そして3番・森下が左中間を破る3塁打を放ち、土壇場で同点に追いつく。

ここで帝京はエース・柳沼へスイッチ。2人を申告敬遠で歩かせ満塁策で勝負に出る。6番・臼井の打球はフラフラっと前身守備のセカンドの頭を超えて落ち、3塁ランナーが生還。
劇的なサヨナラ勝ちで東海大菅生が東京No1の座を勝ち取った。

最後に敗れはしたが、帝京高校は試合内容・結果ともに見事な戦いぶりを見せた。

新チームでは1年夏からショートのレギュラーを勝ち取り、「こういう選手が欲しかった」と前田監督の信頼が厚い武藤が主将として任命。
群馬県・桐生ボーイズでは首相としてジャイアンツカップベスト4まで勝ち進んだ実績を持つ。

新チームの秋季大会。前年は準優勝。同年夏は東東京制覇と成し遂げ、今年はどうか。期待度は高かった。

「聖パウロ学園」「京華商業」と破り本大会まで進出。初戦で「堀越」を破り迎えた2回戦は3年前の夏に敗れた相手「都立小山台」

好ゲームが予想された試合であったが、先発した植草。リリーフしたエース・安川が誤算。球に勢いもなく両者制球に苦しみ、甘く入った球を痛打される。
小山台の鮮やかな攻撃も相重なり終わってみれば10-0の5回コールドで敗退。

打っては散発3安打。守っても3失策と本来の帝京の緊張感と強さは影を潜めた。

「やり直し」と語る前田監督、そして武藤主将を始めどう立て直し、纏め上げ今年の夏を迎えるか。

「名門復活」と謳われる為、真価が発揮されるのはまさに今年次第である。
秋と崩れたチームがどこまで再び作り上げられたか、高く期待したい。

2020年夏季東西東京都高等学校野球大会 東東京大会戦歴
●2回戦 帝京15 - 0目黒学院(5回コールド)
●3回戦 帝京7 - 0目白研心(7回コールド)
●4回戦 帝京6 - 0成城
●準々決勝 帝京9 - 0日大豊山(7回コールド)
●準決勝 帝京6 - 3東亜学園
●決勝 帝京 3 - 2関東第一 【優勝】
2020年夏季東西東京都高等学校野球大会 東西決戦
●決勝 東海大菅生3 - 2帝京
2020年度秋季東京都高等学校野球大会 一次予選 第6ブロック
●1回戦 帝京2 - 1聖パウロ学園
●決勝 帝京26 - 0京華商業(5回コールド)
2020年度秋季東京都高等学校野球大会
●1回戦 帝京4 - 2堀越
●2回戦 帝京0 - 10小山台