見出し画像

Danbooruの無断転載とAIを咎めるのは難しいよねというお話

だいたいこのツイートのツリーにも書いてますが、もうちょっと整理します。

事の発端

2022年10月3日、NovelAIが有料サービスとしてアニメ風のイラストジェネレーターを開始します。

そのジェネレーターを学習させる際に、DanbooruというWebサイトの画像を使用していたことが公式のツイートから明らかになりました。

Danbooruは海外のアニメ系イラストに特化した画像投稿サイトの1つです。どれか画像を見れば分かるかと思いますが、その画像のほとんどは転載画像で占められています。

論点

この記事の論点は主に7つほどあります。(不毛な論点の多さも炎上の原因だと思いますが……)

  • 絵の無断転載が(法的/倫理的)に問題があるか

  • 絵の無断転載をなくすことはできるか

  • 絵の無断転載[サイト]をなくせばAIの学習は止まるか

  • 無断転載画像をAIの学習に使うのは(法的/倫理的)に問題があるか

  • 無断転載画像のAI学習をやめさせるよう法改正できるのか

このうち倫理的問題に関してはこの記事ではほぼ触れません。すでに日本が機械学習ビジネスで主導を取れてない時点で、日本語で倫理面について議論・発信するアドバンテージを失ってきているというのも理由の1つです。

絵の無断転載は法的に問題があるか

当然ですが、日本国内で無断転載をしたら著作権の侵害および著作人格権の侵害となりますので違法です。

問題は海外で無断転載をした場合です。

日本から海外(主にアメリカ)の転載サイトを訴えるのはほぼ不可能に近いです。その理由は主に2つあります。

  1. アメリカ人を日本法の著作権法侵害で裁くことが不可能に近い

  2. アメリカの法律にはフェアユース条項がある

準拠法の観点から見ると「日本人が日本で作った著作物をアメリカでアメリカ人がダウンロードして、アメリカのサーバーにアップロードする」という行為が行われた場合、日本法で裁くことはほぼ不可能に近いからです。国外犯として処罰される行為は日本法で厳密に指定されており(刑法2条~4条の2)、その条項に著作権法侵害は含まれません。

また、米国法が準拠法となった場合にフェアユース条項から非常に難しいです。フェアユース条項とは、アメリカ著作権法にある一定の条件を満たした場合に著作物を無断で使用してもよいという条項です。この法律があるため、Googleなどの検索エンジンはインターネット上の著作物を無断で使用できています。とはいえ、フェアユース条項はケースバイケースで判断されるものであるため、無断転載がフェアユース条項に該当するかどうかは実際に裁判をしてみないとわかりません。

転載サイトはフェアユース対策を一応していて、非営利で経営していたり、転載元のURLを必ず記載していたりと本人の利益を損なうことがないように気を使っているようです。

一応、アメリカの裁判所で裁判を起こすことも不可能ではないですが、たった1枚の無断転載のために何千万円単位でお金が掛かることを考えれば現実的には不可能であるという結論に至るでしょう。

よって、「海外(アメリカ)の無断転載は法的にグレーゾーンだが、いずれにしても国内から訴えることは現実としてほぼ不可能である」というのが結論です。

絵の無断転載をなくすことはできるか

前項の通り、海外での無断転載を訴えることは現実的にはできませんが、無断転載をなくすことは可能でしょうか。
以下の3案が考えられます。

  • 絵を自ら海外の転載サイトにアップロードする。

  • 転載サイトから絵を削除する

  • DMCA申し立てをする

このうちDMCA申し立ては相手とネット上に実名を晒したくない場合は弁護士を立てる必要があり難易度が高いです。また、転載サイトが検索エンジンから見えなくなるだけのため、転載サイトに画像は残り続けますし、転載サイト内での人の巡回は止められません。

次に転載サイトから絵を削除する方法ですが、これは転載サイトが世界中に星の数ほどあるので意味がないです。一度でもインターネット上に画像を上げた場合、必ずクローラに画像は拾われますし、全部の転載サイトから画像を1つずつ消すことはものすごく非効率的ですし、転載サイト側が必ず応じてくれるとも限りません。

よって一番現実的な防衛策は自ら転載サイトにアップロードすることだと考えています。

そもそも転載される一番の理由はTwitterやpixiv、pixiv FANBOX、Fantiaなどの英語による検索性の悪さが原因です(Twitterは日本語でも検索性が最悪です)。

海外からの検索性の悪さを解消してやれば本来の問題は解決するのです。それの一番手っ取り早い方法が、自分の絵がよく見られる転載サイトに自ら画像をアップロードしてしまうことです。

これは本来pixivが先行して解決するべき課題だったと思っていますが、現在の今ひとつ盛り上がりに欠けるpixivが今更タグを改修してももう遅いです。

ただこの方法の一番の問題は、画像転載サイトからのAIによる学習を阻止できないことです。あとズボラな人とか、転載サイトに画像載せるというのが許せない人には無理。

ネット上に絵を上げている限り、無断転載は誰かがやるのでそれをすべて止めるのは現実的ではない、というのが結論でしょう。

絵の無断転載サイトをなくせばAIの学習は止まるか

無断転載がいやなら、それじゃあ無断転載サイトを潰せばいいじゃないという考えの人がいますが、もう既に一部のAIが学習し終わってるので意味ないです。

AIはどうせpixivやTwitterやDanbooruやArtstationやe621をもうクロールしているので、ネット上に絵を載せてる時点でもうAIからの学習を阻止するのは無理だと思います。

Danbooruのタグ付けを元にAIを学習させているので「それじゃあAIにDanbooruのデータを使わせないようにするならDanbooruのタグ荒らしたろ」って言いながらDanbooruのタグ荒らししてる人いますけど、既にオープンソースで公開されているWaifu DiffusionやNovelAIが学習済みなので今更やっても遅いです。マジでWaifu DiffusionやNovelAIにはノーダメージだし、NovelAIに倫理を持って対抗するための後発のAIの足引っ張ってもしょうがないしで本当に不毛だし意味ないのでやめましょう。

いずれにしてもAIの学習を止めるのはもう無理な段階に入ってきています。

無断転載画像を使ってAIを学習するのは法的に問題があるか

2021年1月1日に施行された日本著作権法47条の7によれば、無断転載だと分かっている画像をダウンロードし、その画像を元に機械学習を行うことは日本では合法です。それどころか、データセットを研究者間で共有したり、法解釈によってはデータセットを公開することも合法なのではないかと言われています(このあたりは判例がまだないのでなんとも言えません)

米国では詳しくないですが、活発に研究が行われているところを見るとフェアユース条項に該当すると思われます。(米国法に詳しい人、教えて下さい)

いずれにしても、日本、海外のどちらでも法的な問題はなさそうです。

AI学習をやめさせるよう法律を変えることはできるのか

米国法を日本から変えさせることは当たり前ですがほぼ不可能です。唯一可能性があるとしたら、AIに関して倫理的な発信をして、ある程度世界的なAIのデータ倫理に関するリーダーシップを日本が取るぐらいでしょうか。

これは私の感覚ですが、AIデータ倫理の主導を日本がある程度取れる可能性は1%未満だと思ってます。現状mimicやら何やらで遅れを取ってしまった日本勢が、これからアプリケーションを出して挽回するのはほぼ不可能ですし、主導を握れていないのに倫理的な意見が通る可能性は非常に低いからです。

余談:無断転載禁止の意味のなさ

ちなみに「無断転載禁止」「AIへの学習利用禁止」というのは法律上は全く意味がありません。これはお互いが承認しあって結んだものではなく一方的に書いているだけのものであるため、契約としての効力は持たないのです。

もし契約を交わしたいのであれば、利用規約に承認しなければ画像を見ることができないようなシステムを組む必要があります。Webサイトにアクセスして画像を見ただけで契約が成立したものとするというのは、現在の日本法では無理があります。
仮に誰かと契約をしたとしても、契約していない人が別の場所で見つけた画像を法律の範囲内で利用しているのを止めることはできません。

これを書くことは、お気持ち表明以上の意味合いはないです。
家の庭に「立ち入り禁止」って板を立てれば、勝手に人は入らないと思う人はどうぞ。

まとめ

法的問題はほぼないというのが結論です。無断転載も防げません。

今イラストレーターにできることは、考え方を変えるか我慢すること……なのかなぁと思います。
なんだかんだ、「絵描きの欲しいAI」に上がっていた、AIでラフ画を仕上げたり、自動着彩したりすることができるようになりましたから。(どっちもStable Diffusionをうまく使えばできます)
うまく使えば、絵描きにとってもとても強力な武器のはずです。

最後に以下のツイートを引用して、不毛な議論に終止符を打ちたいと思います。この記事ではそれほど私の意見の主張を含めませんでしたが、これが私が倫理的な話や主張をあまりしたくない一番の理由です。


キャラクターの創作費に使わせていただきます。