インフォメーション

昔、高速道路のSAやPAには冊子型のガイドマップが置かれていた。インフォメーションには制服を着た女性がこじんまりと座っており、渋滞情報などを問い合わせると穏やかに答えてくれたように記憶している。質問が終わると、「お気をつけて、行ってらっしゃい」と言う。今もあのサービスは、提供されているのだろうか。

私は高速道路の冊子型ガイドマップを見ることがとても好きだった。行ったことのない場所でも、高速道路を走れば必ず辿り着ける。どのように読むのかすらわからない地名、休んだことのないSA、複雑な形状のJCT。さまざまな地域に蜘蛛の巣のように広がる道路網をじっと眺めていると、いつかはどこかへ、少しずつ這うように移動しても、走り続けれていれば必ず到着できるような気がした。走ったことのない道路を指でなぞる。建設中区間、新直轄区間。ICを降りて、有料道路へ変更し海沿いを抜けるのも良い。上りから下りへ。空気圧とリアルタイム渋滞情報は確認を怠らないことが大切だ。

姿形を見たことすら無い人とも、ある時突然合流することがある。レーンに沿って走っていても、名神が東名に変わるように道は常に変化する。目的地は違っても、車両はある場所までは並走する。どうかその日までは、お互いに安全運転で。故障物や落下物、道路の破損物にも注意しながらロングドライブを。

義務教育の1つが終わりを迎える子が、突然の進路変更を伝えてきた。いわゆる受験だ。受験を想定していなかった私には寝耳に水で、塾にも行っていなかったので正直「厳しい戦い」になることは明白であった。母は受験後の結果に備えておかなければならない。

どういう結果になろうとも、お母さんはあなたのハートを守るつもりだし、どんなにかっこいい空中ブランコ乗りにだって、下にはセーフティ―ネットが敷いてある。思いっきり飛んだ後に、どんな景色が広がっているのかまでは、私には見せてあげることはできないから、飛べるだけ飛ぶと良いと言うと、まぁでもさ、セーフティーネットが無くても飛ぶんだけどねと言う。

彼女の決断は数人の保護者や同級生に影響を及ぼしたようで、私に電話があった。電話の内容を簡潔にまとめると、「今からの進路変更で、良い結果になるのか」というものだった。正直私の子の決断に、私やその他の家族以外の人から、求めていないアドバイスがもたらされるとは思っておらず、びっくりした。電話を切った後に、セーフティーネットなんか無くても飛んでしまえば良い、飛ぶことに価値があると思い直した。私はどこかで、彼女に良い結果がもたらされないことを想像していた。彼女が深く傷つくことを恐れているのだ。

子どもは驚くほど速いスピードで成長する。心も身体も頭脳も、予想以上の速さで大きく実る。よちよちの徐行運転を見届けるつもりが、並走するほどの速さになり、あっという間に追い抜いていく。安全運転になるようにと、祈りながらも、私にできることはセーフティーネットになることではないのだろう。だが、インフォメーションになることならできる。こじんまりと座り、これからのロングドライブに備えて聞いておきたいことを、質問に応じて穏やかに答えたい。走ったことのない道を今から指でなぞろうとする彼女は、きっと心からドライブを楽しむだろう。






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