20240406曇

通勤電車の中で本を読んでいる。
この間まで中井英夫の『虚無への供物』を読んでいたが、今日は『新装版 レミは生きている』(平野威馬雄・ちくま文庫)。
平野威馬雄は、1900年生まれ、籍は日本人、父はフランス人で籍はアメリカ、母は日本人。父はほとんど日本にはおらず、生涯2度、父とわずかな時間を過ごしただけだったという。
「日本の少年少女に、ほんとうのことをわかってもらいたいと思って、この本をかきました。/おなじ人間として生まれながら、顔かたちがかわっているというだけで、差別あつかいされ、毎日、悲しい思いで暮らしている「混血児」にかわって、ぼくは、この本をかいてみました。」と書き出される自伝。
日常的に、周囲や同世代の子供、学校の教師、軍人から受けるひどい排斥や嫌がらせ。戦時中はスパイ容疑で取り調べも受けたのが、敗戦後は手のひらを返したように白米とかを持ってやってきた憲兵たちのこと。

すべての偏見と差別とが、新雪のようにとけさって、平和な日がつづくかぎり、レミは、きっと、みなさんのいい同胞として、明るくのびていくでしょう。

新装版 レミは生きている 平野威馬雄 ちくま文庫

本文はそう締めくくってあるが、あとがきには、

たしかに、今日では、もう表面的には、いちおう差別や偏見のようなものこそ、姿をうすめているようだが……それは、うわべだけなのだ。ぼくのところには、今日でもなお、「石をもて追われる」ごとき、残酷な仕打ちが、社会のいたるところで、隠微のうちにくりかえされている事実が、多くの成人した混血児たちの口から、訴えられてくるのである。

新装版 レミは生きている 平野威馬雄 ちくま文庫

もう70歳をこえたおじいさんなのだが、まだ、とび出していって、理由のない冷酷な差別と、真っ向から対決しなければならないばあいが、ときどき、やってくるのである。〜だから、まだまだ、この本の役割はつづくだろう。

新装版 レミは生きている 平野威馬雄 ちくま文庫

とある。
「レミ」とは、平野自身が父からもそう呼ばれていた呼称で、『家なき子』にちなんだ名だという。
敗戦後、「レミの会」を結成し、米国軍人と日本人女性のあいだに生まれた子が無戸籍にならないよう、養子にしたり、認知をしていたことが解説に詳しく書かれており、また、マイクロアグレッションに辟易する様子、海外旅行は晩年までせず、いつも和服を着ていたことなども書かれている。
同じ著者の、大人向け、文人たちとの交流や薬物中毒のことも書かれている「アウトロウ半歴史」もあわせておすすめしたい。


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