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いただいたテーマをやる回 02

◆落語

仕事柄「好き」を自称する事は、情熱だけではなく豊富な知識や伴う経験が必要な場面も多々あり、厄介と面倒を背負う瞬間も少なくないし、恐れ多さが溢れる事もあるので、余程でない限り避けてはいるのだが「それなりに好き」程度のものでも、年中人様の前に出ているとやはりどこかでぽろっとこぼれてしまうものである。


落語に関しては、ちょくちょく色々な所で纏わる話をさせて頂いている。
末廣亭や上野広小路亭などは気が向けば足を運び、所属事務所は落語家さんが多数所属している事もあり、特別公演や寄席は見に行きやすい。
長年こんな世界に身を置いていると「知人に落語家がいる」という状態になったりもするので、そういった話を各所でさせて頂く事もあれば、ネタの中には落語に纏わるものがあったりもする。
めちゃくちゃそれが好きだというよりは、それなり好き、で、好きが故になんとなく日常的に触れているもので、納豆、とか、ユニクロの靴下、とかに近い。


何が魅力かと言われれば、当然「オチ」である。落語の語源でもあり根幹であるそれの気持ち良さといえば、私の場合本当にあらゆるストレスが吹き飛ぶほどに気持ちが良い。
(ちなみに江戸落語の基の呼称は「落とし噺」といい、上方落語の基の呼称は「軽口噺」だという。
自ら「噺を落とす」と言ってのけるお江戸と、自らを「軽口」と貶めておく上方、地域性が出ているようでこれもまた面白い)


オチが気持ち良すぎて大好きな演目は、おなじみ「饅頭怖い」や「お見立て」「立ちきれ線香」「水屋の富」なんかの、いわゆるうまいこと言ってる系、細く長い品のあるストレートホームランのようなものがとにかくたまらない。水屋の富なんてオチのために話を作ったのではないかというほど、オチ以外に褒めたい所は見当たらない。

もちろん「死神」や「芝浜」のような大ネタのサゲも好きだし、私は基本的に人情噺が好きだ。
桂ざこば師匠の「子は鎹」は他の名人たちに比べるとそんなに上手ではないとされているのかもしれないけれど、荒々しく力強くて最も好きな演目の一つだ。

お噺自体というより、三代目金馬師匠の「目黒のさんま」はおもしろさと共にちょうどの皮肉、愚かさの演じっぷりに痺れるのでこれもまた好きで、五代目小さん師匠の「たらちね」は意味がわからなさすぎておもしろくて大好きだ。


とはいえ、知識量や情熱ともに生半可なものではある。「落語めっちゃ好きやねん!」という出だしで語り始めるほどは別に好きではないし、全然チーズダッカルビとかのほうが好きである。
一部に存在する「落語とかの良さが分かるオレでありたい」みたいな連中にしのごの尋ねられるのも面倒なので、あまりこういう話題については舞台など以外で自分から話したりはしない。何より、生半可な知識と情熱でものを語る事は、とても恥ずかしくて浅ましいことに感じるのだ。


ここまで書いて思ったけれど、やはり「好き」を自称する事に対して私はなかなかのハードルを感じている気がする。
例えばタランティーノの映画は「好き」と言っても良いだろうと自ら判子を押せるし、印象派の画家たちとその作品についても「好き」と言って良いだろうとわりと思える。松浦亜弥と中島みゆきさんも「好き」だし、開高健も「好き」だ。
それらに関しては深くマニアックな部分まで知っているという自負もあれば「めっちゃ好き」という出だしから語り始め、何をどう尋ねられても瞬時に答えられる自信もあるからだ。逆に言えばそこまでいかなければ、やはり私は「好き」とは、とても言えない。

思い返してみれば「人並みです」という返事に散々お世話になっている。
読書好きなんやんな、と尋ねられれば、人並みです、と言うし、落語好きなんやんな、と尋ねられても、人並みです、と言ってきた。タランティーノが好きなんやんなと言われれば、それはもう大好きですと言うが、映画好きなんやんなと尋ねられたら、やっぱりそこは、人並みです、と言っている。


我ながら神経質でかわいげのない性格である。
何でもかんでも天真爛漫に好きだの好きじゃないだのとあっけらかんと言ってのける人たちの可憐さが眩しくもあるが、私はそちら側のプログラミングをひとつとして施されていないので仕方がない。
むしろ好きなものが一斉にこの世からぱっと消えてしまえば、のうなった、のうなった、これで苦労ものうなった、と、私も安心できるのかもしれない。



*頂いたテーマ「落語」でした。
いつもサポートありがとうございます。その調子でどんどんサポートしてください。
またテーマ色々と頂いて有難うございます。
全ては拾えないと思うのですが、気になったものから順に書かせていただきます。明日も読んでください。

#落語 #饅頭怖い #好き #自称 #三代目金馬 #五代目小さん #桂ざこば #子は鎹 #たらちね #目黒のさんま #お見立て #末広亭 #タランティーノ

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