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「和音機能の曖昧さを楽しまず、排除する」と何が起こる?

 前回は、淡々とモノゴトの列挙だけしておりましたが、なぜジャズでは「和音の機能の曖昧さを楽しまず、排除する」のでしょうか。

 これももう、

 の記事を読んでいただけるのなら、そちらが詳しいわけですが、
今回は「理由・経緯」というよりも、「排除する/したことによる音楽変化」という観点から、綴り直してみます。

「理由らしさのある理由」があるのは、誕生や変化の初めの方だけです。
後続の世代は、その「結果物の音楽」を好むから、追従する。
そう考えるのが、ヒトのリアルに近しいでしょう。


転調の理論崩壊

 まず、和音機能の曖昧さを(人工的に)排除することにより、転調技法に理屈が不要になります。というか ”無用” 化(オワコン化)します。

 概観的には、「何のキーの何度の和音か」を聴き手に確定的に認識させることが「転調の完了」であるはずなので、それが(やり口が出来レース的であろうが)一通りに定まる以上は、「1和音で転調完了」ということです。「準備」や「伏線」は、もはや求められません。


 前回とか以前の記事とかで、「7th音 まで積むことを必須化することで、Ⅴ度の和音(ドミナント)が弁別される」ことを書きましたが、

じゃあ最大まで積んでみます。

C△7(9, 11, 13)      = [ C E G B D F A ]
Dm7(9, 11, 13)    = [ D F A C E G B ]
Em7(-9, 11, -13)    = [ E G B D F A C]
F△7(9, +11, 13)    = [ F A C E G B D ]
G7(9, 11, 13)     = [ G B D F A C E ]
Am7(9, 11, -13)   = [ A C E G B D F ]
Bm7-5(-9, 11, -13) = [ B D F A C E G ]

「ドミソシレファラ、ド」で一周するため、「ダイアトニックの範囲」を前提とする場合、
コードは 13th までしか積む意味が無い。「15th音 = root 」となるから。

具体的に C: で書いたが、とかのディグリーと階名で考えられるなら、その方が一般化・的。
前回の図。

 Ⅰ度の和音とⅣ度の和音というのは、11th音 まで積むと、やっと C.Q. が変わります。9th音 までは「🍎△9」として完全一致してしまうわけです。

 一方で、13th音 まで積んでやれば、積むだけで C.Q. は一応 7種7様 に分化することも分かります。
具体的には「三度堆積の中で、(階名)シとファが出揃う」と、そこで他の6つと C.Q. が食い違います。

 逆に考えれば、「その和音が(特定のキーの)ダイアトニック・コードであると仮定する」という条件付きならば、コードってテンションマシマシにする行為のみで、その機能は(消去法的に)特定可能へ近づいていきます。

 この性質を利用したのが、Em7/A など「高テンションなコード」を経由した、突然の転調テクです。

 Em7/A という情報量(手がかり)の多いコードは、もしもこれがダイアトニック・コードであるならばD:Ⅴ上の和音 か、G:Ⅱ上の和音 か、C: Ⅵ上の和音、3択まで絞られます。

Em7/A
→ A7(9, 11) ならば、D: Ⅴ7(9, 11) ※現実的解釈は Ⅴ7sus4(9)
Am7(9, 11) ならば、G: Ⅱm7(9, 11)C: Ⅵm7(9, 11)

3rd の隙間に入る音が C# なのか C♮なのかが、未確定であることに留意せよ。
なお、上記の平行調でしかない「Em: Ⅳの和音の可能性」とかは、列挙を割愛しています。

 こういうのは理屈では考えません。ある程度 西欧音楽の演奏を極めたり、私のようにある程度 曲を作り尽くした頃には、実際の音を聴くだけで「そう」としか思えなくなっているものです。これは、「何か特定の言語に熟達する」ことに似ています。

あとこれを可能にしている聴覚の作用が、例の「調性スキーマ」です。

そして「言語は子供の内に習得しなければ…」的な言説が示唆する通り、
「何か一つに熟達する」=「別の物の習熟から遠ざかる」という一面は、常に伴います。
(そして「第一言語としてCSジャズは勧めない」という内容が前回。)

 以上は「本当にテンションをマシマシにしている」ので、西欧音楽一般的な話に近かったですが、ジャズ~CSジャズ(※前回参照)の文脈では、「テンションがマシマシになって(=情報量が充分で)なくとも、和音機能を決めつける」一面がある、と言えます。

 ジャズ~CSジャズ界隈には、調判定に「暗黙の了解」が多く存在します。
例えばそれこそ、「🍍m7 = (長調)Ⅱm7 」であるというバイアスです。

 勿論のこと、メロディその他を加味したり、その直後 Ⅴ7Ⅰ△7 と形が一致する進行が出揃ってから「確定」すると言うべきですが、「ジャズ用のヒューリスティクス」とでも言うべき思考法は、存在すると考えて良いでしょう。

 そしてこのことは、必然的に、次次項目の「ⅠのⅣ化、ⅥとⅢのⅡ化」に繋がります。

 尚、この手の ”バイアス” が存在しているのは、ジャズ界隈に限ったことではありません。

 吹奏楽マーチ(行進曲)の中間部は、99.9%「主部の下属調」と言って、過言ではありません。

「2000年代以降のJ-Pop のバイアス」として、「🍓△7 = Ⅳ△7 」というのは根強いはずです。
 曲がいきなり🍓△7 でスタートしたとして、これを「(どれかの長調の)Ⅰ△7 」だと仮定して聴き始めること、あまり無いと思います。
 それは「実際に大体 Ⅳ△7 だから」であり「Ⅰ△7  と仮定して聴き始めたとて、案の定 違ってて損する」という実体験の積み重ねによる誘導です。

尚、作曲を志すなら「これらのバイアスを把握し、逆手に取って裏切る」ことも考えるべし。

「(長調の)」というのを省略していますが、皆まで言わすな。

<余談コーナー>

ここは J-Pop の話です。(ジャズやCSジャズの話ではない)

↑ 開始和音は C△7 であり、メロディ(エレキギター)の頭は E G A B で、
この時点ではまだ C:Ⅰ△7 である可能性も捨てきれないはずである。
だが G: Ⅳ△7 (e: Ⅵ△7) であり、メロディは「ラドレミ」である。(2007年)

↑ Aメロの開始和音は C△7 であり、メロディの頭は B C G
こちらは C:Ⅰ△7 である。
なおサビの頭は Ab△7 であるが、Eb: Ⅳ△7 (c: Ⅵ△7) である。(2007年)

↑ トリッキー実例。
転調してサビ頭が Db△、メロディが Db なのであるが、この音が階名ファであり、Ab: Ⅳ△ (f: Ⅵ△) である。メロディがファ始まりのサビ。
なおBメロの頭は Ab△9 であるが、Eb: Ⅳ△9 (c: Ⅵ△9) である。(1999年)



変わった C.Q. 使用へのモチベーション

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