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教室のアリ 第1話 「4月9日」 〈絶望の初給食〉

オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。いつもの場所は窓側の前、先生の机のうしろのあたりだ。そこにいる理由はただひとつ、「給食を配る場所に近い」からだ。先生のよこ顔や怒った顔を観察しつつ、ひたすら、じっとお昼を待つんだ。12時25分を待つんだ。

今日は4月9日、もう我慢できないくらい待ったこの日がやってきた。もうみんな分かるよな。今日からやっとやっと給食が始まる。3月24日から給食はお休みだった。5年2組は大掃除をていねいにやったせいで、砂糖ひとつぶ、落ちていなかった。だからオレはじっとしていたんだ。無駄な体力は使えない。そういえば、先生がクマの冬眠を教えていた。オレを見つけて、オレを観察すればいいのにと思っていたよ。

6人で机をくっつけているその時、匂いと一緒に扉が開いた。大きい体の子も小さい子も同じように、同じ量が配られていく。メインはクリームシチューだが、オレはそれには興味がない。狙いはただひとつ、寒天ゼリーだ!詳しく言えば、寒天ゼリーを配るときにこぼれた「汁」だ!36人に配膳される間はまだ動かない。チャンスは給食係が「いただきます」を言った後、子供たちが一心不乱に食べているそのときだ。

結論を先に言うよ。この日は大失敗だった。新学年、新学期だから子供たちは丁寧によそいやがった。ただ一滴、配膳の時にこぼさなかった…「危険エリア」、みんなが食べている机の下に行くか迷った。ぺちゃクチャ話して、おかわりをする男の子の周りには多少、「汁」がある。だけど、幸いにもまだオレは体力があった。あと2日はもつはずだ。シチューと寒天ゼリーの匂いだけを嗅ぎながら、教室の隅、いつもの場所に戻った頃、5限が始まった。

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