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保育所・幼稚園の働き方改革(私案)〜先生の心身の健康を守るためには〜

前回の投稿のように、今、保育者には厳しい目が向けられています。
もちろん、加害ー被害の関係がありますから、特に被害児童や保護者の思いに寄り添うことが最も大事ですし、再発防止を「産学官」ならぬ「園学官」で考えなければならないでしょう。
加えて、保育者が笑顔いっぱいに子どもに向き合うためにはどうしたら良いかを考えることも同時に必要です。
私は保育士として現場に立った経験がありません。しかし、社会福祉施設や行政、大学で仕事をするなかで感じたこと、海外の保育施設を見て思ったことを書いて見たいと思います。


「労働時間」で削ってはいけないこと=”本来の意味”の「休憩」

保育者は過酷な労働です。休憩時間も十分に取れず、一応「休憩」という時間にも様々な仕事をし、「休む」ということをしていないのではないでしょうか。
私が思うに、保育者は絶対に「休憩時間」(完全に子どもと離れ、仕事もしないこと)が必要です。
もちろん、パート勤務の先生など労働時間は人それぞれでしょうが、1日8時間勤務として書いて見ます。

労働基準法云々の話はさておき、保育者も人間です。いくら子どものことが大好きでも連続勤務は辛いです。
本来、休憩時間は何をしても良い時間ですよね?
オフィスワーカーなら同僚とランチをしたり、公園で日向ぼっこをしたり、SNSを見ていたり、自己啓発のために勉強したり…思い思いに過ごしているのではないでしょうか?
それを福祉ワーカーである保育士、教育者である幼稚園教諭には許されないということはないはずです。
でも実際は子どもと一緒に忙しない食事をし、お昼寝時間は連絡帳を書いたり、教材の準備をしたり。その間に子どもが泣き出せばお世話をし、保護者対応や打ち合わせなどなど。本当に休む時間があるのかな?と思います。「拘束9時間実働8時間」が「拘束も実働も9時間」に。あるいはそれ以上になっていることもあるのではないかと思います。これではいけません。

トラックドライバーはなぜ連続運転をしないのか?

ところで、日本の物流の中心である長距離トラックドライバーは4時間を超えて連続運転をすることができないそうです。
厚労省によると、4時間以内または4時間を超過した直後に運転を一時中止し、30分以上の休憩をとることが推奨されているみたいです。
トラックの場合、13時間を基準にしているので一概には比較できないですが、常識的に考えて、その理由は事故防止と労働者の健康に配慮してのことでしょう。連続して運転すれば、自分が、あるいは自分が他者を巻き込んで事故を起こすリスクがあるからです。
では、保育者はどうなんでしょう?
保育者は長時間稼働しっぱなしでも、事故は起こさず、他者を傷つけるリスクはないのでしょうか?
2022年に保育施設で起こった様々な事件、事故。もちろん長時間労働だけがその原因でないことは承知していますが、保育者の働き方をいよいよ真剣に考えるべきなのではないかと思うのです。
保育者は子どもの命を預かっているのです。子どもの心を預かっているのです。その保育者の心身の健康は当然に守られるべきで、ないがしろにすると「事故」が起こります。
この点、もっと真剣に考えるべきなのではないでしょうか。

本来の意味での「休憩」を義務に!(休憩室・補助員を必置に!)

ちょっと難しい話になりますが、保育所の設備や人員については「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」(以下、「基準」)に規定されています。結構細かいです。例えば保育所には「ほふく室」「遊戯室」「保育室」はもちろん「便所」まで設置義務として記載しているのです。よく話題になる「乳児3人に保育者1人以上」とかいう配置もこの基準に規定されています。
今、もっぱら世間の話題になっているのは後者の保育士の配置基準についてです。もちろん、この基準は諸外国に比べて子どもの数が多すぎますので(義務教育も同様ですが)早急な見直しが必要です。
ですが、今回私が取り上げたいのは、この基準に「職員休憩室」を必ず設けるよう改正してほしいのです。今ある園には努力義務、これから建てる園には設置義務。これくらいしてほしいのです。
やはり、常に子どもの声が聞こえていたり、ひっきりなしに電話がかかってきたりする環境を「休憩」なんて言いませんので。
加えて、保育士が完全な(本来の意味での)休憩を取りますと、おそらく現状の保育施設は業務が滞るでしょう。
そこで、保育士でなくてもできる仕事をする「事務員または保育補助員」を必ず設置して業務を回してほしいのです。(もちろん規定するからには補助対象にしなければなりませんけども)
そうすることで、保育者が疲労した顔ではなく、笑顔で子どもの前に立つことが現実的になるのではないかと思います。

オーストラリアの保育所内。保護者の休憩・懇談スペース

まとめ

もちろん、これだけで保育の様々な課題が解決できるとは思っていませんし、国レベルで相当な予算が必要です。ですから、あくまで私案であり(もしかしたら空論なのかもしれませんが)私が思う理想を書いてみたに過ぎません。
実は私が知的障害者施設に勤務していた時、休憩時間は1時間、確かにありました。寮を離れ、利用者とは距離が置けました。その点は恵まれていたと思います。しかし、その1時間に記録を書き、事務処理をしていました。決して「休んで」いたわけではありません。ですから、できれば1時間の休憩の他に1時間程度のオフィスアワーも必要なのではないかと思っています。
以前視察したオーストラリアの保育施設は休憩は「本来の意味の」休憩であり、その他に事務時間が保証されていました。加えて、保育時間の管理や宅配便の受け取りなどはレセプション(受付)の職員が行なっていて感心しました。もちろん保育者の「お持ち帰り仕事」はどうやら無さそうです。
保育者が心身ともに健康で、その健康を「維持」するためには、ドライバーさんの「安全運転」に匹敵する気遣いが必要です。
2022年に起こった様々な保育に関連する事件や事故。そのようなことが報道されるたびに「保育者の待遇」が話題に上ります。
しかし、その「待遇」の意味するところはもっぱら「給与」であるように感じています。
給与も大事です。
しかし、それだけではダメなのです。

それだけでは保育士は増えませんし、離職も止まりません。
もっとドラスティックに保育者の働き方改革を考えて欲しいと強く思っています。
わたしも研究者としてこの点は指摘していこうと思います。
保育者のみなさん、ともに頑張りましょう。


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