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CXは、売上にどう繋がるのか? -LTVモデルのビジネスを行う事業者がCXに取り組むべき理由-

前回(と言ってもだいぶ間が空いてしまったが)のnoteで、「ブランド」とは何かという禅問答的なテーマをCX(Customer Experience)の観点で私なりに書いてみました。
前回のnoteはこちら↓
https://note.com/hide_sato_note/n/n4ef80f66df1e

そこでは、ブランドとは

お客さまが、体験を通じて得た、瞬間的かつ継続的な価値認識

と定義しました。
つまり、CX(Customer Experience:顧客体験)を考えることは、ブランドを形作る活動(いわゆるブランディング)そのものであると、考えています。

私自身の仕事の話をすれば、スキンケアブランドにおける「CXマネージャー」として、主な販売チャネルであるEC/通販のCRM、UIUX、カスタマーサービスを管掌しながら、他の販売チャネルやフルフィルメント・ITと連携して一貫したCXの設計をしています。
要は、全ての事業活動が、CXとその先のブランドの形成に関与しているわけです。

でも、“CXはブランドを形作る(=ブランディング)”と言われてもピンとこないし、「それって売り上げに繋がるの?」と思われるかもしれないので、もう少し具体的に考えるフレームに落とし込み、KPIに関連付けて、CXが果たす役割について論じてみたいと思います。

先に結論を言っておくと、以下の通りです。

CXについて考え、正しく実装していくと、NRS(Net Repeater Score:お客さまの継続利用意向)の強化に繋がり、結果としてLTV(Life Time Value:生涯価値、お客さまが一生涯で製品・サービスを購入してくださる金額)を向上させます。


フレーム:CXによる効果実感×理解促進の向上=NRSの加速度的強化

前述の通り、ブランドとは、

お客さまが、体験を通じて得た、瞬間的かつ継続的な価値認識

です。
なので、私たちが追及すべきはお客さまの“価値”の“認識”です。当たり前ですが、理解できない(伝わらない)ものは、価値として認識されません。

そこで、

価値(Y軸):製品やサービスを通じて得られた「効果実感」
認識(X軸):製品やサービスの「理解度」

と考えてみます。

「効果実感」と「理解度」が高まるとどうなるか?
皆さんも消費者として体験していると思いますが、NRS(継続利用意向)が強化されます。

つまり、下図のような関係が成り立ちます。

理解度と効果実感がともに高まれば、また利用したいという気持ち(曲線の傾き:NRS)が加速度的に強化されます(上図の実線)。
逆に、理解度が高まっても、効果実感が得られなければ、曲線は下降曲線を辿り、傾きはマイナスになる、つまり、継続利用意向が弱くなります(上図の点線)。

さらに、この座標にお客さまの購買行動プロセス(AIPL)を重ねてみると、下図のようになります。

A(Awareness:認知)からI(Interest:興味)に進むに従って、理解度が高まります。
さらにP(Purchase:購買)を経て製品・サービスを体験して初めて効果実感に変化が現れ(マイナスも有りうる)、L(Loyalty:ロイヤリティ)のフェーズへと進んでいきます。

では、お客さまの購買行動は、どのようにすれば理解度が高まってAからIへ、そしてPへと移行するのか?
そして、効果実感を伴いながらLに移行し、NRSをプラスにするにはどうしたらいいのか?

実はここに作用するものが、CX:Customer Experienceであると私は考えています。
図に書き加えるとこんなイメージです。

ここでCXには、2つの作用があります。

作用1)AIPLの各フェーズにおけるCXの総和が次フェーズへの態度変容を促す

作用2)一貫したCXが蓄積されると、購入・利用後のNRSを加速度的に強化する

例を交えながら、順に見ていきます。

作用1)AIPLの各フェーズにおけるCXの総和が次フェーズへの態度変容を促す

A(Awareness)のフェーズでは、TVCMやディスプレイ広告、インフルエンサー投稿などによって、対象の製品・サービスを繰り返し目にするという体験が積み重なっていきます。
この体験の総和が一定の水準に達すると、お客さまはI(Interest)のフェーズに態度変容します。

同じように、Iのフェーズでは、お客さまはその製品・サービスに興味をもち、検索をしてSNS投稿や口コミを見たり、詳しい仕様を調べたり、買い方・利用方法を検討するという体験が積み重なっていきます。
ここでも、この体験の総和が一定の水準に達すると、お客さまはP(Purchase)のフェーズに態度変容します。

次に、Pのフェーズでは、お客さまは店頭での接客を受けたり、サイト上での購買体験をします。そして実際に製品やサービスを購入・利用し、その効果や便益を感じたり、アフターサービスを受けたり、その製品・サービスに関わるコンテンツにより多く触れることになります。もし製品・サービスがニーズを満たし、効果実感が高ければ、2回、3回と購入・利用を増やしていきます。
ここでも、これらの体験の総和が一定の水準に達すると、お客さまは製品・サービスを信頼し、L(Loyalty)のフェーズに態度変容します。

※なお、前述しましたが、ここでの体験がネガティブで、効果実感が得られなければ、曲線は下降曲線を辿り、継続利用意向は低下します。その場合、Lへの態度変容が起こることはありません。

作用2)一貫したCXが蓄積されると、購入・利用後のNRSを加速度的に強化する

そして最後にLのフェーズです。ここでお客さまに対して、A・I・Pの各フェーズから一貫した質の高いCXを提供し続けられると、お客さまは製品・サービスやそれらを提供する事業者を信頼し、発信される情報を好意的に受け入れたり、積極的に情報を取得したりしながら、場合によっては関連する製品・サービスの利用を拡大していくなど、製品・サービスとの能動的な接触機会が増えます。
CXの蓄積が、理解度と効果実感に慣性を与えると言い換えても良い。
それによって、NRS(継続利用意向)が加速度的に強化されていきます。


CXを考えるとNRSが強化される。結果としてLTVが向上する。

最初に結論を述べた通り、CX(Customer Experience)をしっかり考え、お客さまに適切に体験を提供していくことで、作用1と作用2が働き、NRS(Net Repeater Score:お客さまの継続利用意向)の強化に繋がります。そしてそれは、結果としてLTV(Life Time Value:生涯価値、お客さまが一生涯で製品・サービスを購入してくださる金額)を向上させます。

ここで、「LTVモデル」について改めて定義します。
一般に、一人のお客さまに継続的な購入を促し、LTVを高めていくビジネスモデルや手法は、「ダイレクトマーケティング」、「D2C」、「サブスクリプション」など様々な呼ばれ方をします。もっと狭い括り方をすれば、化粧品や健康食品等の通販の業界では、「単品リピート通販」なんて言葉もあります。
それぞれの言葉の細かな違いは置いておいて、ここではLTV向上をKGIの一つとするこれらのビジネスモデルを「LTVモデル」と総称します。

イメージしやすいように「LTVモデル」という名前を付けましたが、あくまでもLTVは結果であって、本質的な目的ではありません。LTVモデルの本質的な目的は、

お客さまに成功体験をしていただき、買い続けたい/使い続けたいと思ってもらうこと

であると考えています。

この「買い続けたい/使い続けたいと思ってもらうこと」とは、すなわちNRSです。
CXによってNRSを強化することは、LTVモデルの目的にフィットし、LTVを高めることに繋がるのです。
つまり、LTVモデルのビジネスを行う事業者にとって、CXに取り組むことは必然と言えます。

これは私見ですが、よく耳にするCXは残念ながら、顧客重視のお題目として都合よく使われたり、情緒的・感情的な演出やデザインのみを刺した狭義なものに留まっていたり、満足度調査のような曖昧な指標でのみ計測されたりと、事業への貢献度が分かりにくいバズワードになってしまっているケースが目立ちます。
「それって売り上げに繋がるの?」
これは、CXや、ブランディングといった取り組みにしばしば投げかけられる問いではないでしょうか?

私も実務家として、安易に口にされる「CX」や「ブランディング」というワードは嫌いです。
でも一方で、このnoteで提示したフレームでCXを捉えることで、それらは確実にLTVという売上・実利に繋がり得るものであると確信しています。

おわり。


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