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怒りの感情と上手につきあう(その4)

さて、アンガーマネジメントのお話も今回で一旦区切りをつけます。
今日は3つ目のコントロール、行動のコントロールについてお話いたします。


分かれ道を考える行動のコントロール

(その3)でご紹介した「思考のコントロール」で、起きていることがイメージした3重丸の「許せる」ゾーン、あるいは「まあ許せるゾーン」に入っていれば、コントロールはそこで終了、とご説明しました。
許せるわけですからね。

では「許せないゾーン」に入った時、どの様な振る舞いをするか?
これが「行動のコントロール」、分かれ道となります。
どういう分かれ道でしょうか?

まず、その事象や状況は「変えられる」ことなのか、あるいは、「変えられない」ことなのかを考えます。
そして、それぞれの選択の先に「重要なこと」と「重要でないこと」があります。

イメージは、十字に切った座標の横軸を左から右へ「変えられる」「変えられない」縦軸を上から下へ、「重要」「重要でない」と4つの領域に区切った形となります。
この座標上のどこを自分の立ち位置として「行動の選択肢」を考えるか?
これが行動のコントロールです。

変えられる、変えられない、は、出来ること、出来ないこと、あるいは
コントロールできること、コントロールできないこと、と言い換えることもできますね。

思考のコントロールで「許せない」とした怒りやイライラの対象はどこに入るでしょうか?
この「分かれ道」の選択に際して注意点が2つあります。

ひとつ目は、
ビッグクエスチョン(Big Question)に沿うということ。
ビッグクエスチョンとは、
「その判断が自分にとって、周囲の人にとって長期的に見た時に健康的かどうか?」という自らへの問いです。
例えば、力ずく、非常識な行動、などでも乗り切れるだろうから「変えられること」に入れてしまえ、という判断はアンガーマネジメント的には正解ではありません。

もうひとつは、
どこに入れるかは、あくまでも「個人の選択」ということです。
「みんなは普通そうするだろうから」とか、「常識的に」とか、を判断基準にしないことです。

行動のコントロールの狙いは、
できること、できないこと、重要なこと、重要でないこと、の線引きが出来ていないがために、自分が怒りに振り回されてしまっていることを知ることです。
ですから、この線引きは「個人の選択」でなければなりません。

4つの選択の事例

それでは、この4つの選択に応じる行動と、
その事例についてお話していきます。

  • 変えられる/重要である
    この領域にはいったものは、すぐに取り組む必要があります。
    そして、「いつまでに」「どの程度変われば気が済むか」を行動の指針とします。

    例えば、度々仕事に遅刻してくるメンバーに対して。
    思考のコントロールで「許せないゾーン」に入る。
    そして行動のコントロールでは、重要、かつ変えられること、従って、直ちにそのメンバーに対して、
    (いつまでに?)→ 明日から
    (どの程度状況が変われば?)→ 始業5分前に出社する、
    ように指示する、というのが行動になります。
    この指示の与え方は「叱り方」の技術も必要になりますが、これについては機会を改めたいと思います。

  • 変えられる/重要でない
    この領域に入るものに対しては、余力のある時に取組みます
    そして、これも同様に「いつまでに」「どの程度変われば気が済むか」を考えて行動します。

    例えば、最近社内のコミュニティスペースにゴミや、飲み残しのカップが残されていることが散見され、使い方がだらしない。「許せないゾーン」である。
    重要ではないが、変えられる。
    今直ぐではなくてもいいが、来週のチームミーティングの席で注意をうながそう。

    (いつまでに?)→ 来週から
    (どの程度状況が変われば?)→ ゴミや食べ残し、飲み残しは各自の責任で処分することと、目についたものがあれば自分のものでなくても撤去して、気持ち良いオフィス環境をお互いに作る。

  • 変えられない/重要である
    この領域に入るものについては、「変えられない」を受入れて
    現実的な選択肢を探す、ということが行動の基本
    になります。

    例えば、予想外の渋滞にはまってしまい、お客様との約束に遅刻しそうだ。イライラが募る。
    (変えられない、を受入れる)→ 交通渋滞なのだからコントロール不能。
    (現実的な選択肢を探す)→ お客様へ、電話をいれて遅刻の詫びと
    おおよその到着予定時刻を連絡。
    最寄りの地下鉄の駅で降りて交通手段を変更。
    同僚や部下と同乗している社用車であれば、自分だけ降りて先乗りする。
    等々です。

  • 変えられない/重要でない
    この領域に入るものについては、
    「放っておく」「関わらない」という判断になります
    思考のコントロールで、「許せないゾーン」になったものの、考えてみれば変えられないことだし、重要でもない、と判断したものです。
    例えば、隣の家のゴミの出し方がだらしなく、イラっとする。
    (変えられない、を受入れる)→ 何度も強く注意を促せば、
    変わるかもしれないが、その人の性格であれば容易に変えられない。
    それによって隣人との関係がギクシャクするのは、ビッグクエスチョンに照らして正しくないと判断する。
    (放っておく、関わらない)→ 隣人のゴミ出しの仕方については忘れる。考えないことにする。

自分が選択した行動の意味を考える

以上が行動のコントロールです。
少し、違和感を覚えたところもあるのではないでしょうか?

例えば、
「オフィスのコミュニティスペースを綺麗に保つことって、重要なことじゃないの?」とか・・・。
しかしこれは、ポイントの2つ目で述べたように、
どこに入れるかは、あくまで個人の選択ということです。

他には、例えば、
「イラっとして、「許せないゾーン」に入ったものを、行動のコントロールで、変えられない/重要でないに分類して、関わらない、忘れる、と決めても、それでもイライラは収まらないですよ。」とか・・・

しかし、行動のコントロールで大切なことは、自らが
「重要なこと」「重要でないこと」
「変えられること」「変えられないこと」
と判断した意味をよく考えてみる機会である、ということです。

自分にとって何が重要か、重要でないか?
何がコントロール出来て、何が出来ないか?
そんなことを普段の生活の中で考え、線引きをしてみるなんてことはしていないと思います。

これは思考の3重丸を考えてみることも普段の生活には無いことと同様ですね。
それを敢えてやってみる。
これが、アンガーマネジメントが心理トレーニングである所以です。

「3つのコントロールはわかりました。なるほど、なるほど。やってみたら簡単に即出来ました。」という、特効薬ではないということです。

自分の怒りを数値化してみる。
「まあ許せる」と「許せない」の境界線を考える。
自分にとって何が重要で、何が重要でないか、を考える。

アンガーマネジメントの中の3つのコントロールとは、こうした普段やらないことを、やってみて、少しずつ修得していく心理トレーニングです。

上述の例の、隣人のゴミ出しがだらしない、ということに対して、自分は、重要でない、変えられない(言っても意味がない)と考え、関わらない、と決めたわけです。手放す、という選択をしたわけです。
それに従った行動をすることで、自らの人格や品位などが侵されるものでは
ありません。

その線引きが出来ないがために、イライラの感情に振り回されて、もっと大切なものを傷つけるリスクもある、ということです。

かなり前の、米国の統計だったと思いますが、車で通勤中に交通事故を起こした人のかなりの割合の人が、朝家を出る時に配偶者と口論があった、という記事を読んだことがあります。
詳しい数値は忘れましたが、怒りに振り回されるという分かり易い事例だと思います。

それでも、「だらしないゴミ出しには腹が立つ」のであれば、考え直す必要がある場合もあります。
そうした場合でも、ビッグクエスチョンに照らした上で、例えば、
「変えられる/重要でない」に入れなおして・・・

(いつまでに?)→ 来月のゴミ収集日から
(どの程度状況が変われば?)→ ゴミの種類の分別を正しく行う。
分別間違いで残されたゴミは直ちに片づける。
その上で、
「自分で言うと角か立つから、自治会にお願いして回覧板に載せてもらうかなぁ。」
と、行動を変えてもらう策を考えるわけです。
これも自分自身が選択した立派な行動のひとつです。

アンガーマネジメント コンサルティング

さて、ここまで4回にわたってアンガーマネジメントの概要と、その中で核となる心理トレーニングのひとつとして、3つのコントロールをご紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。

説明が行き届かなかった点もあると思いますが、その点ご容赦の程お願いいたします。ご不明があれば、ご遠慮なくご質問をお寄せください。

また、最初にご紹介した様に、私はコーチング資格の他に、日本アンガーマネジメント協会認定のアンガーマネジメントコンサルタントでもあります。

感情のコントロールやコミュニケーションの良化についてのコンサルティングの他に、この関連サービスとして、「ハラスメント防止」や「上手な叱り方」についての、グループ、個人向け研修やコンサルティングもご提供しておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

最後はコマーシャルメッセージとなりましたが、
アンガーマネジメントのお話は一旦ここで筆を置きます。

安藤秀樹
株式会社ドリームパイプライン代表

公式ホームページ: https://dreampipeline.com
お問い合わせ先: hideki.ando@dreampl.com

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