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COO/CTO目線で考える、KabuK StyleとHafHが向き合っている課題

KabuK Style COO兼CTOの後藤です。旅のサブスクHafH(ハフ)の5周年と2nd Stageへの移行にともなって、社内メンバーがHafHに対するそれぞれの立場や歴史からの思いを綴っています。当社とHafHのこれまでや現在について、いろいろな目線での記事を是非読んでみてください。

HafHは、サブスクリプション方式でサービスを提供しています。これは、サブスクリプション方式自体が、「ふらっと旅に連れ出す」ための一つの仕掛けとして機能すると考えているためです。分解するとさらにいくつかの要素に分けられ、定期的に旅に対してお金を支払うというコミットメント自体が旅への心理的障壁を下げたり意欲を掻き立てること、キャッシュを支払うという意思決定を先に済ませることで個々の旅に出る際の意思決定の総量が小さくなることが挙げられます。これに加えて、サブスクリプションによって、ユーザーの皆様と私たちサービス提供者は必然的に強い信頼関係を築くことになり、その信頼と安心感が、さらに旅へ出る心理的障壁を下げることに繋がると考えています。
この「ふらっと旅に連れ出す」ことをより広く提供していくために、私からは、現在のKabuK StyleとHafHが向き合っている業界レベルの課題がどのようなものなのか説明します。


価格の過変動に関する課題

ホテルや航空券の価格は日や時間によって変動する。学生時代に授業で「需要と供給の曲線、均衡点」について習ったために、この価格の変動が自然法則のように当たり前、もしくは仕方のないものと理解しているのではないでしょうか。価格の変動は、市場原理であり正当なものだと。

【経済】 「価格と需要・供給の関係」のグラフの見方 - 進研ゼミ中学講座

一方で、私達はそれぞれ、何らかのサービスに対して支払う金額と、それによって得られる価値の交換比率=コストパフォーマンスに対する基準を主観的に持っています。対象サービスのコストパフォーマンスが自分の基準から大きく上振れた場合、購入対象から外れます。
商品自体がそのような意図を持って値付けされたのなら、問題ありません。しかしホテルのように、サービスとしては同一(同じ部屋・同じサービス)にも関わらず、タイミングによって価格が大きく変動する場合、自分のスケジュール都合ということを除けば、得られる価値に本質的な差はないなかで、コストパフォーマンスが大きく変わってしまっています。市場原理として受け入れられる変動がどの程度かは個人によってばらつきがありますが、平日と土日とで2倍・3倍やそれ以上という価格差も生まれており、受けるサービス自体の価値と、タイミングの価値とで、利用者が何に対して対価を支払っているのか混乱してしまうのではないでしょうか。このような混乱は、ひいてはブランドイメージの毀損にもつながりかねません。
価格というのは、消費者へのメッセージに関わる大きな比重を占めるものであり、そうである以上一貫性は非常に重要なのです。
(ホテル側の方々にとってこれは百も承知であり、上記とは似て非なる、OTA間の価格一貫性=レートパリティの問題に長く頭を悩ませてこられているかとは思います。)

とはいえ現状、ホテルや航空会社などの供給側で、価格の変動をなくすことはそもそも現実的ではありません。供給側には供給側特有の経済原理があり、営利企業として持続的に利益をあげ続けなければなりません。また、「稼働率の経済性」とカテゴライズされる彼らにとって、一般論として、消費者向けの価格の変動幅を大きくしてでも、稼働率の変動幅を小さくすることにインセンティブがあるのです。しかし、だからといってホテルや航空会社の方全員が価格の変動に全肯定なのかというとそういうわけではなく、当社がお付き合いさせていただいている方の中には、たとえ供給サイドの経済原理といえど、大きすぎる価格変動は消費者のためにならない、満足度を下げると課題感をお持ちの方もいらっしゃいます。以下は、HafHを応援してくださっている星野リゾート星野代表の記事です。

2021年の以下の記事でも、当社が向き合っているのと同じ課題感について書かれています。

当社では、少なくとも消費者にとって価格が変動しすぎることは旅行体験を損なうし、また「ふらっと旅に連れ出す」ことを妨げると考えており、当社側でリスクをとって、価格の変動をなめらかにするということをしています。

HafHでは価格変動をなめらかに

上記を実現するためのテクノロジーとして、値付けのアルゴリズム開発と、供給側とのシステム連携を行っています。

統計的な利益コントロールと値付け

KabuK Styleも営利企業ですから利益を追求することは当然のミッションです。しかし、供給側と消費者側との間に立ち、価格変動を和らげるというソリューションをとっていることから、一般的な小売のビジネスのように個々の取引に利益を上乗せするというシンプルな考え方ではビジネスをマネージできません(個々の取引ごとに利益率は変動します)。そうではなく、HafH上で行われる多くの取引全体を見た時に、合計で得られる利益が想定範囲に収まるようにする、ということを行っています。この手法に正式な名称はないと思いますが、私はこれを統計的な利益コントロールと呼んでいます(呼びたいと考えています)。
当社では、ホテルや航空会社といったサプライヤーと直接契約による仕入れ、またはホールセラー(ベッドバンク)経由での仕入れを行っており、卸して頂く価格は完全にフラットなものから、平日・土日祝・ハイシーズンといったスタティック複数レートのもの、これらに供給サイドでのリクエストに応じて定期的に価格変更を行うことの組み合わせもあります。また、ホールセラー経由と航空券(JAL)については、完全にダイナミックレートでの仕入れを行っています。価格の変更頻度や幅は、ホテルごとに全く異なりますし、当社から見た仕入れチャネルごとでも異なっています。これら全体における取引の状況が、当社観点で適正な分散となるような値付けを行うようアルゴリズムを開発しています。

上記で「利益コントロール」と記載しましたが、これは単に利益を乗せるだけでなく、マイナス方向の要素も加味してコントロールすることを意味します。具体的には、旅行予約にはつきもののキャンセル料です。HafHでは、ユーザーに対して宿泊については前日までキャンセル無料、航空券においては前日まで100コインでキャンセル可能というシステムを採用していますが、仕入れ側すべてに同一条件で取引しているわけではありません。例えば航空券の仕入れにおいては取消手数料が厳密に定められており、これを変えることはできません。通常の旅行予約では、これをそのままユーザーに負担頂く形になりますが、私たちはそうはせず、HafHのコンセプトの一つである「ふらっと旅に連れ出す」ことを実現するためにシンプルな体系に仕立て直して提供しているのです。

これらを実現するための技術として、現在はどちらかというとデータサイエンスや機械学習よりの技術で精度を高めていくということを中心に行っています。まだまだ探索的要素の比重が大きい領域です。
一方で、アプリケーション寄りの技術も必要です。次に触れる供給サイドのシステムの話と関係しますが、値付けにおいて最重要となる卸値データを、如何に取得し最新の状態を維持し続けるかが課題になっています。

供給サイドのシステムとの折り合い

オンラインで旅行予約サービスを提供するための仕組みとして、現在では、チャネルマネージャー(またはサイトコントローラー)と呼ばれる、旅行予約サイトとホテルなどの供給側とをつなぐためのシステムを経由することが一般的になっています。チャネルマネージャーによって、主にホテルからは、ある部屋タイプの販売と在庫管理を複数の販売チャネルに対して一元化して管理することが可能になります。旅行予約サイトからは、ホテル側のシステムと個々に接続することなく、チャネルマネージャーを経由して統一された手順で価格や在庫情報の連携や予約情報の連携を行うことができるため、一度チャネルマネージャーとの連携を実装すれば、同じチャネルマネージャーを利用している多くのホテルとの連携をサポートできます。
HafHでは現在、チャネルマネージャーとしてTL-リンカーン、TEMAIRAZU、ねっぱん!++、SiteMinderをサポートしており、同様にホールセラーのHotelbedsともシステム接続しています。(システムを介さないマニュアルな連携も一部残っていますが、今後ゼロにしていく予定です。)
下図は、ホテル、チャネルマネージャー、OTA(Online Travel Agent=オンライン旅行業者)の関係を示したものです。

ホテル - チャネルマネージャー - OTA

供給側のシステム、ここではチャネルマネージャーおよびホールセラーのシステムとの連携において、次のような課題があります。

  • すべての在庫の価格を高頻度で同期することが想定されていない

  • 部屋タイプを、ベンダー横断で一意に識別する標準が確立されていない

1つ目は、当社側の事情によって生じている課題です。先に述べたように、統計的な値付けを行う必要性から、予約が発生する個々の取引の仕入れ値だけでなく、提供している全期間の仕入れ値を取得しなくてはなりません。KabuK Style以外の予約事業者は、ユーザビリティのためにカレンダー形式で価格を表示するために一括取得の必要性があっても、値付はあくまで1つの在庫単位が基本です。私たちの要件が特殊なため、チャネルマネージャーやホールセラーが価格情報の一括取得に対応していない場合が多く、提供されている機能を組み合わせて許容できる落とし所を探るということをしています。

2つ目は、さらに特殊な内容になります。現在私たちは、まだ道半ばですが、ホテル在庫の仕入れを、直接契約とホールセラー経由の2つのチャネルで行うことができています。この2種類(多数)のチャネルを、HafHを通じて透過的に扱う仕組みを実装予定です。このような機能は、大規模なOTAではすでに実装済みのもので、これによりエンドユーザーに対して価格競争力のある仕入れを可能にしています(このような仕入れチャネルの複合化戦略は、歴史的には、ホテルのレートパリティに関する問題を引き起こしてもきました)。この際問題になるのが、異なるチャネルで扱われている情報の名寄せです。一方で流れている部屋タイプが、他方で流れている部屋タイプと同一なのかどうか、旅行予約サイト側では部屋タイプ名くらいしか判断材料がありませんが、統一するような業界における標準もありません。ここにはかなり入り組んだ事態が現実には存在しています。
HafHでは、利用者に対する選択肢(もしくは選択行為)を極力減らすことで、「ふらっと旅に出る」体験を作ろうとしており、仕入れのチャネルが異なるからといって、利用者に対して似て非なるプランを数多く掲載するということはあってはなりません。
海外ではホテルのコンテンツ情報とそのマッピングをサービスとして提供しているGIATAという企業もあり、このようなサービスの利用や開発を通して、業界に流通する情報を整理することが、よりフェアでローコストな取引につながるはずであり、利用者と供給側の双方にとってよい世界につながるはずで、テクノロジーと企業努力によって、解決可能な課題だと考えています。

疑わしい利用方法に関する課題

昨今、旅行業界では不正決済やセキュリティに関連した問題が多く発生しています。また、アカウントを複数作成して値引きなどを規定より多く受ける行為(一般的に、利用規約などによって禁止されています)も目立ってきています。

前者はシステム開発の不備といった側面もなくはないのですが、クレジットカード自体のある種の脆弱性に加えソーシャルエンジニアリング的な手法を用いられるとシステムというより人間側の問題になってしまい、そこに関わっている人が多様であるほど防ぐことが難しいという構造になります。(最近ニュースになっているBooking.comのケースは、ソーシャルエンジニアリングが利用されています)。

後者も、システム的に複数作成を禁止できれば問題ありませんが、厳密に実在する個人かどうかを識別するための手法というのは、そこまで整備が進んでいないと言わざるを得ません。同時に、日本の旅行業に対しては、この問題への対応が進んでおらず、他の業種では必須になってきている本人確認などの要件が整備されていません。先に挙げた不正トラベルの例も、このような整備状況の影響もあると考えています。全国旅行支援といった国・地方公共団体が主導する施策ですら、非常に煩雑な手続きがホテル側と利用者側の双方で発生してしまう状況は、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

上で述べた不正または疑わしい利用に関する問題は、業界全体で取り組まなくてはならないものだと考えます。同時に、「新しい旅行をリデザインする」ビジョンを掲げる私たちは、率先してこの課題に取り組むべきだとも考え、HafHにおいては不正だけでなく疑わしい利用方法に対する取り締まりを強化しています。これは大変コストがかかることで、まだまだスタートアップである私たちにとっては小さくないコストです。しかし、少なくともHafHというサービスを通じて作りたい世界に必要なものだと信じています。また、HafHを普通に利用してくださっているユーザーの方々、そしてHafHを通じた利用者を受け入れてくださるホテルや航空会社の方々の双方に、より安心な、ストレスのない旅行(提供)体験を提供するために欠かせないピースだとも考えています。

今後は、不正および疑わしい利用について、様々なテクノロジーの導入によって効率的に、かつ正しく利用頂いている利用者の体験を損なわない形で取り締まれるように注力していきます。具体的にはまずeKYCの導入を進めていますが、不正の手口が高度化しており、これだけでは不十分なことも見えています。正しくご利用頂くユーザーには価値向上となり、同時に不正防止にもなるソリューションを生み出せないか、模索しています。

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旅行業界は大きく複雑です。その中にあって、KabuK Styleはスタートアップだからできるリスクの取り方、新しい構造の提案を行い、業界に対して一定規模のムーブメントを起こせていると自負しています。
同時に、旅を中心に据えたサービスを提供している会社として、業界の課題の解決が、利用者=旅をする方々にとって良いことであるという条件は外せません。
サービスが5周年を迎えた今、業界課題へのアプローチを強めていくとともに、サービスの価値を大きく増大させていくことも行います。これをHafHの2nd Stageと呼んでいます。
このHafH 2nd Stageに、新しい旅のあり方をともに考え作り出すユーザーとして是非多くの方に参加して頂きたい。興味を持った方は、私の招待リンクから登録すれば、プランに付帯するコインとは別に、追加で100コインを獲得できます。

引き続きHafHは実験的要素の多いサービスですが、「ふらっと旅に連れ出してくれる」ことには自信があります。是非参加して、このサービスの成長を見守って頂けたらと思います。


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