21:00の夜空よぞらに浮うかぶ美うつくしい月つきが光ひかりを落おとしている神秘的しんぴてきな自然しぜんの姿すがたとは裏腹うらはらに、ネオンの光ひかりが都市まちを輝かがやかせていた。

　このシカゴシティのいくつかあるホテルの一ひとつである『ホテル・ローグ』ではついさっきまで起おこっていた爆発ばくはつによって正面しょうめん玄関げんかんのガラスが粉々こなごなに砕くだけ散ちっていた。

　そのガラス片へんを箒ほうきで黙々もくもくと掃はき取とっていた緑みどり色いろの髪かみをした男おとこと、その子供こどもとおぼしき13歳さいかそこらくらいの少年しょうねんが二人ふたりいた。

　その3人にんの様子ようすを見みながら嬉うれしそうな顔かおをしている銀髪ぎんぱつの男おとこ、エリック・ブラウンが口くちを開いた。

エリック「いや〜〜！！俺おれ君きみ達たちのことをすっごい勘かん違ちがいしていたよ！！さっきはトンプソン兄弟きょうだいと戦たたかってくれて、このホテル守まもってくれたと思おもったら！！その後あとは『せっかくご厄介やっかいになるので掃除そうじくらいさせて下ください』なんてな〜！！」

　すると褐色かっしょくの肌はだをした黒髪くろかみの少年しょうねんが口くちを開ひらいた｡

源太げんた「声こえの大おおきい独ひとり言ごとだこった……」

光男みつお「こら源太げんた！」

　緑みどりの髪かみの男おとこ・藍川あいかわ光男みつおが黒髪くろかみの少年しょうねん・猿渡さわたり源太げんたを注意ちゅういしていた。

光男みつお「すいません！生意気なまいきなことを言いう子こでして！」

エリック「いやいや構かまわないよ全然ぜんぜん！！……それにしても…竜賀りゅうが君くんはずっと静しずかだね？」

　エリックが視線しせんを向むけた先さきには、黙々もくもくを散ちらばったガラスを慎重しんちょうに集あつめる青髪あおがみのセミロングの少年しょうねん・藍川あいかわ竜賀りゅうががいた｡

エリック「あんな凄すごい戦たたかいぶりを見みせていたのに全然ぜんぜんはしゃぐこともなく、礼儀れいぎ正ただしくって……いい育そだちしてるじゃないか？」

光男みつお「いやエリックさん…あれはただ掃除そうじしながらさっきの戦たたかいの振ふり返かえりをしてるだけですよ」

エリック「え？そうなの？」

光男みつお「だから今いまはそっとしておいてあげて下くださいね」

　二人ふたりがヒソヒソ話ばなしをしているのを無視むしして黙々もくもくと作業さぎょうをしていた竜賀りゅうがは、

竜賀りゅうが（今日きょう初はじめて実戦じっせんで天狩鉤爪あまがりのつめを使つかったけど上手うまくいってラッキーだったな…まだまだ使つかい方かたは色々いろいろありそうだし、そこは練度れんどを上あげていくとして防御ぼうぎょもパワーアップさせていかなきゃな…）

　そんな振ふり返かえりをしていたのであった｡

　そして掃除そうじが終おわった後あと、三人さんにんはホテルの食堂しょくどうに案内あんないされた。そこは玄関げんかんホールに負まけず劣おとらずの豪華ごうかな食堂しょくどうホールであった。三人さんにんは思おもわず声こえを漏もらした。

竜賀りゅうが「ふぁぁぁぁ〜〜〜」

源太げんた「すっっげ〜〜〜！！まるでお城しろみたい」

エリック「はっはっはっは！！すげーーだろ！？ウチの自慢じまんの食堂しょくどうなのさ！！前まえまではここに来きたいって客きゃくで大賑おおにぎわいしてたもんさ！！」

光男みつお「こんな豪華ごうかな食堂しょくどうにホテルのお客きゃくさん皆みんな食事しょくじするんですか？」

エリック「いやまさか！エコノミーなお客様きゃくさまは別べつの部屋へやに素朴そぼくな食堂しょくどうを用意よういしてあって、そこで大半たいはんの客きゃくが食事しょくじをするのさ！ここは当とうホテル自慢じまんのV.I.Pルームの一ひとつさ」

光男みつお「そんなところに我々われわれが食事しょくじしても本当ほんとうに良いいんですか？」

エリック「もちろんだ！！俺おれにとってここは宝物たからものだ！そんな場所ばしょを守まもってくれたんだ！！食事しょくじも寝床ねどこも無料タダだ！！サービスさせてくれや！」

光男みつお「……それじゃあお言葉ことばに甘あまえさせていただきます」

エリック「それよりもアンタらも良よかったのか？」

光男みつお「え？」

エリック「トンプソン兄弟きょうだいに留とどめをささずにアジトに送おくり返かえしちまってーーーーーー」

　ーーーーー数すう分ふん前まえ ーーーー

グレイブ「オイ…！ジェイコブ…！コイツらヤベェぞ…！！」

ジェイコブ「あ…ああ…！！」

　トンプソン兄弟きょうだい二人ふたり共ともフラフラの状態じょうたいで必死ひっしになって走はしっているつもりなのだろうが、足取あしどりがあまりにもおぼつかない｡

　光男みつおはその二人ふたりに速足はやあしで余裕よゆうで追おい着つくと、両手りょうてでそれぞれの首根くびねっこをガシっと掴つかんで二人ふたりに言いい放はなった。

光男みつお「オイ！！」

トンプソン兄弟きょうだい「ヒッ！！？」

光男みつお「今夜こんやは逃にがしてやるが……次つぎはないぞ？……ここは喧嘩ケンカをする場所ばしょじゃねぇんだ」

グレイブ「わっ！…分わかった！！分わかったから離はなしてくれ！！」

光男みつお「二度にどとここには近付ちかづくな…！！次つぎは気絶きぜつ程度ていどじゃ済すまねぇからな…！！」

ジェイコブ「分わかったから許ゆるしてくれ！！もう二度にどとここには関かかわらねぇから！！」

光男みつお「だったら…帰かえった時ときに、ボスに何なにか聞きかれたら、こう答こたえとけ……『道みちでドジを踏ふんで転ころんでこんな大怪我おおけがしちまいました』ってな……もしテメェらのボスに事実じじつがバレてここに来くることになったら、この道みちのド真まん中なかに大量たいりょうのお前まえらのお仲間なかまの死体したいで溢あふれ返かえっちまうことになるぞ？」

トンプソン兄弟きょうだい「ひいいいィィィィィィ！！！！」

光男みつお「分わかったら、とっとと行いけ！！！」

エリック「ーーーーーあんな風ふうに脅おどすと逆効果ぎゃくこうかじゃないか？アイツらは絶対ぜったいボスにこの戦たたかいでアンタの息子むすこのことを報告ほうこくするぜ？」

光男みつお「その方ほうが都合つごうが良いいんです」

エリック「なぜ？？」

光男みつお「奴ヤツらの背後バックにいる組織そしきがこちらに向むかって出でて来きてくれる方ほうがやりやすいですからね…歩あるいてたら偶然ぐうぜんでくわした方ほうがよっぽど危険きけんですからね」

エリック「汚きたない手てで襲おそってくる可能性かのうせいの方ほうがかなり大おおきいはずだ｡奴ヤツらのボスが誰だれであれアンタの息子むすこ達たちの強つよさを警戒けいかいして背後はいごから撃うってくることだって躊躇ちゅうちょなくしてくる」

光男みつお「どっちにしろ同おなじなんですよ……正面しょうめんからかかって来こようが搦手からめてを使つかって来こようが、こっちに向むかって来きていることで返技カウンターを打うち返かえせるんです…分わかりたいのは手段しゅだんじゃなくてタイミングです」

エリック「………よく解わかんないんだが……」

源太げんた「とりあえずお腹なかめっちゃ減へったんだけど？」

竜賀りゅうが「二人ふたりで勝手かってに盛もり上あがってないで御飯ゴハン用意よういして欲ほしいんですけど？？」

　竜賀りゅうがと源太げんたが腹はらをグ〜〜と鳴ならしながら待まっているのを見みてエリックは慌あわてて二人ふたりを宥なだめる様ように話はなしかけた｡

エリック「あーーっ！スマンスマン！今いまから急いそいで準備じゅんびするからそこで座すわって待まっててくれるかな？」

　エリックが指差ゆびさした長ながテーブルに光男みつお・竜賀りゅうが・源太げんたの順番じゅんばんで奥おくから詰つめて三人さんにん共とも座すわっていった。

竜賀りゅうが「さっきの戦たたかいですっかり腹はらペコだよ…！！」

源太げんた「伽霊能力ギアルスキルを使つかうとかなりの霊力ギーラーを使つかってるから、メチャクチャ疲つかれんだよな」

竜賀りゅうが「その霊力ギーラーって、一体いったい何なんなんだ？前まえから聞きいてみたかったんだけど？？」

源太げんた「適能者デュナミストの源力エネルギーみたいなモンだよ…何なんも知しらない奴ヤツって伽霊能力ギアルスキルが無尽蔵むじんぞうに使つかえると思おもい込こんでるのもいるけど、それってとんでもない大おお間違まちがいでな……1回かい『伽霊覚醒ギアルアクセス』を発動はつどうしたら使つかえる霊力ギーラーって大体だいたい決きまってんだよな」

竜賀りゅうが「ああ……RPGで言いうマジックポイントみたいなもんか」

源太げんた「マジックポイントって何なに？？」

竜賀りゅうが「俺おれの世界せかいにあるテレビゲームの冒険ぼうけんファンタジー物ものお決きまりのルールで魔法まほうとか必殺技ひっさつわざとかを使つかうと体力たいりょくとは別べつの、減へっていく魔法まほうを使つかう為ための源力エネルギーみたいなことさ」

源太げんた「そうそう！そんな感かんじ！…あっ、でもやっぱちょっと違ちがうかも？」

竜賀りゅうが「違ちがうの？」

源太げんた「そのマジックポイントってのは減へっても体力たいりょくに影響えいきょうはないかもしれないけど、霊力ギーラーは使つかえば使つかう程ほど、スタミナも消費しょうひするからな」

竜賀りゅうが「そうなのか〜〜」

源太げんた「だから霊力ギーラー使つかったら腹はらは減へるのは何なんもおかしいことじゃねぇのよ」

竜賀りゅうが「ふーーん……父とうさんどう思おもう？」

　竜賀りゅうがが父親ちちおやの方ほうに顔かおを向むけて話はなしを振ふったら、何なんの返事へんじも無なかった｡

光男みつお「……くー……くー……」

　光男みつおはテーブルに突つっ伏ぷして寝息ねいきを立たてていた｡

竜賀りゅうが「……父とうさーん……寝ねてるーー？……」

源太げんた「駄目ダメだね……完全かんぜんに寝ねてる、充電じゅうでん完全かんぜんに落おちちゃってる」

　光男みつおがテーブルに顔かおをベッタリ貼はり付つける様ように熟睡じゅくすいしているのを完全かんぜんに無視むしして竜賀りゅうがはV.I.Pルームを歩あるいて見みて回まわった。

　すると綺麗キレイな壁かべに掛かけられた1枚まいの写真しゃしんに気きが付ついた。竜賀りゅうがは一体いったい誰だれだろうと思おもい写真しゃしんをよく見みてみると、そこには小ちいさなボロ屋やを背せにして腕組うでぐみしている二人ふたりの若者わかものの姿すがたが写うつっていた。

竜賀りゅうが「……これってエリック・ブラックさんか……」

源太げんた「竜賀りゅうが？どうかした？」

竜賀りゅうが「この写真しゃしんに写うつってる人ひとって…エリック・ブラックさんとあともう一人ひとり誰だれだったっけ？」

源太げんた「ん？……何なに何なに何なに何なに？？何なになんだい？」

　源太げんたも席せきを立たち、竜賀りゅうがの傍そばまでやって来きて写真しゃしんを見みた｡すると途端とたんに源太げんたは写真しゃしんに写うつるもう一人ひとりの人物じんぶつに反応はんのうした。

源太げんた「え！…この人ひと俺達おれたちがシカゴに来きた時ときにこのホテル紹介しょうかいしてくれたおじさんだよ！」

竜賀りゅうが「え？……確たしかに…面影おもかげあるな…」

源太げんた「でしょ！？ここに来きた時ときなんか妙みょうに頭あたまに引ひっ掛かかってたんだよな……」

竜賀りゅうが「あの人ひと……エリックさんの友達ともだちなのかな」

　竜賀りゅうがと源太げんたがしばらくそうしてると、奥おくからカートをガラガラと引ひく音おとが聞きこえてきた｡

エリック「は〜〜い！お待またせしました〜！ホテルローグのスタッフのエリックが腕うでによりをかけて作つくった特製とくせい絶品ぜっぴん料理りょうりだよ〜！！」

　カートに乗のせられていたのはホテルの料理りょうりの数々かずかずであった。野菜やさいや、スープ、肉料理にくりょうりが出来立できたての湯気ゆげを立たてながら並ならべたてられていった。

エリック「おや？光男みつおさん！何なんだよ〜！せっかく料理りょうり用意よういしたのにすっかり眠ねむっちゃって！」

　料理りょうりを竜賀りゅうが、源太げんたの席せきに置おいていきながら寝ねている光男みつおに声こえをかけていた。

エリック「ん？…竜賀りゅうがくん？源太げんたくん？そこで何なにをやっているんだい？」

竜賀りゅうが「エリックさん？…この写真しゃしんに写うつってる二人ふたりの男おとこの人ひとって、エリックさんともう一人ひとりは誰だれなんですか？」

源太げんた「この男おとこの人ひと…俺達おれたちがこのシカゴに来きた時とき街中まちなかで会あったもん…そんで今夜こんや泊とまるとこ教おしえてくれって頼たのんだらここを紹介しょうかいしてくれたんだ」

エリック「……………」

源太げんた「でもその人ひと…理由りゆうは解わかんないけど何なんかすっごい寂さびしそうな顔かおしてたんだ…」

竜賀りゅうが「エリックさん…教おしえてくれませんか？…も、もちろん！できればで良いいんですけど…」

エリック「………まぁ…隠かくす意味いみは特とくにないし…話はなしてやっても良いいが…それは料理りょうりを食たべながらでも良いいかな？」

竜賀りゅうが「……！！是非ぜひ！！」

源太げんた「そりゃそうだ！！御馳走ごちそう！！御馳走ごちそう！！」

　二人ふたりは並ならべられている料理りょうりの前まえに電光石火でんこうせっかのスピードで座すわると両手りょうてを前まえで合あわせて声こえを揃そろえた。

竜賀りゅうが・源太げんた「「いただきます！！」」

エリック「そんなに急いそがなくても君きみらの料理りょうりは逃にげていかねぇから！！喉のどと詰つまるぞ！！」

　口くちの中なかに食たべ物ものをありったけ掻かき込こもうとする二人ふたりを見みて、エリックは半分はんぶん心配しんぱいそうに、そして半分はんぶん面白おもしろそうに声こえをかけた。

　ガツガツと目めの前まえの料理りょうりを食たべている横よこでまだ突つっ伏ぷしている光男みつおはイビキをしながら眠ねむっていた。

竜賀りゅうが「〜〜〜ッ！！……ゴクッ！！……も〜う父とうさん！！早はやく食たべないとせっかく作つくってくれた料理りょうりが冷さめちゃうよ！！勿体もったい無ないよ！！」

光男みつお「クカーー……クカーー……スピーー…スピーー…」

竜賀りゅうが「早はやく起おきてって！」

源太げんた「まぁまぁ…流石さすがに5時間じかん以上いじょう連続れんぞくで運転うんてんしたんだから無理むりもないって！」

エリック「5時間じかんも連続れんぞくで運転うんてんしてたのか！？そんなことしてたら事故じこ起おこすぞ！！一体いったい何なにがあったんだ！？」

竜賀りゅうが「実じつは我々われわれマクシム連合れんごうに追おわれているんです」

エリック「マクシム連合れんごうだと！？何なんであんな大だい組織そしきに追おわれてるってんだ！？」

源太げんた「具体ぐたい的てきに言いうと俺おれが追おわれてるんです」

エリック「君きみが？なぜ！？」

源太げんた「俺おれがインディアナポリス支部しぶから脱走だっそうしたからですよ。俺おれは元々もともとそこの実験体じっけんたいとして実験施設じっけんしせつに入いれられてたんですよ」

エリック「何なに！？」

源太げんた「そこで同胞どうほうが何人なんにんも実験体じっけんたいとして色いろんな薬くすりを打うたれてるのが嫌いやで監視かんしの目めを掻かい潜くぐって施設しせつから抜ぬけ出だしたんですよ」

竜賀りゅうが「源太コイツが施設しせつから抜ぬけ出だしてモートレートタウンの街まちの中なかで迷まよっていたところを、俺おれが助たすけたんですけど……それがバレてマクシム連合れんごうから逃にげてる途中とちゅうなんです」

　とんでもない話はなしを淡々たんたんと進すすめていく二人ふたりにポカーンとしながら、エリックは何なんとか話はなしを飲のみ込こもうとしていた。

エリック「え〜〜と…つまりだ……君きみ達たちは大だい組織そしきに追おわれる身みとなっている犯罪者はんざいしゃってことか？」

竜賀りゅうが「追おわれている身みであることは確たしかなんですけど、犯罪者はんざいしゃではないですね」

源太げんた「マクシム連合れんごうインディアナ支部しぶでは非合法ひごうほうの人体じんたい実験じっけんを沢山たくさんやってるんですよ……でもその実験体じっけんたいになってるのは見捨てられた町スノップルに住すむ市民権しみんけんを得えていない適能者デュナミスト達たちなんですよ……だからアメリカではどんなに殺ころしても痛いためつけても罪つみには問とわれないんですよ」

エリック「そんなことが……」

竜賀りゅうが「マクシム連合れんごうもそんな違法いほうな実験じっけんが行おこなわれていることを世間せけんにバラされたくないから、源太コイツを捕つかまえに追おわれてたんで父とうさんは5時間じかんぐらいぶっ通とおしで運転うんてんしてくれたんです」

エリック「それでこんなに疲つかれきっているのか……これはしばらく起おこさない方ほうが良いいだろう」

竜賀りゅうが「ところでエリックさん！」

エリック「ん？何なんだ？」

竜賀りゅうが「あそこにある写真しゃしんの人ひとって？」

源太げんた「俺達おれたちが会あったあの男おとこの人ひととこのホテルってどうゆう関係かんけいなんですか？」

エリック「ああ……その話はなしか……」

　エリックは懐ふところに手てを入いれ、ジャケットの内うちポケットから葉巻はまきを取とり出だし、何なにやら模様もようの付ついたシルバーのライターで葉巻はまきに火ひを着つけ煙けむりを吐はいた。

エリック「さって……どこから話はなしたモンか……」

源太げんた「…お友達ともだちなんですか？」

竜賀りゅうが「源太げんた！」

　源太げんたはつい気きになって口くちを突ついていってしまったが、竜賀りゅうがはそれを気遣きづかって源太げんたを止とめようとした。

エリック「いや……幼馴染おさななじみだよ」

竜賀りゅうが「え？」

源太げんた「幼馴染おさななじみ？」

エリック「ああ……幼馴染おさななじみ…腐くされ縁えんってところか……なにせ付つき合あいが長ながいもんでね…」

源太げんた「何歳なんさいからですか？」

　ホッと胸むねを撫なで下おろす竜賀りゅうがを無視むしして源太げんたはどんどん質問しつもん攻ぜめした。

エリック「丁度ちょうど君きみらと同おなじくらいの歳としくらいの時ときにあったんだよ……二人ふたりで同おんなじ野球やきゅうクラブにいてそこで会あったんだよ」

竜賀りゅうが「野球やきゅうクラブ？…ってことはメジャーリーガーとかになるって夢ゆめを子供こどもの時ときに語かたり合あったりした中なかだったんですか？」

エリック「え！？……竜賀りゅうが君くん？君きみ野球やきゅうを知しってるのかい！？」

竜賀りゅうが「え？え、ええ！！まぁ…たまたま知しってたんですよ！！」

源太げんた「？……野球やきゅうって何なに？」

竜賀りゅうが「…………」

エリック「これが普通ふつうの子供こどもの反応はんのうだよ？」

竜賀りゅうが「とりあえずその幼馴染おさななじみの話はなしを聞きかせて下ください」

エリック「ああ……その幼馴染おさななじみの名なはマーカス・ジャッジ……俺おれと同おない年どしで53歳さいだ」

　二人ふたりは食事しょくじの手てを止とめて、エリックの話はなしに耳みみを傾かたむけて聞きいていた。

エリック「高校こうこうまでシカゴとは違ちがう街まちで住すんでいた俺達おれたちは将来しょうらいどうすれば良いいのか分わからないまま『まぁどうにかなるだろう』って感かんじで生いきてたんだけどさ」

　葉巻はまきの煙けむりがユラユラと天井てんじょうに当あたって儚はかなく消きえていった。

エリック「マーカスと一緒いっしょに街まちであるいてた時とき、街外まちはずれからやってきたであろう少女しょうじょがやってきてな……明あきらかにスラム街がいから迷まよい込こんでいたような姿すがたをした少女しょうじょだったんだ……」

エリック「マーカスの奴ヤツと俺おれはその娘こをほっておけなくてな…最初さいしょは警察けいさつに預あずけるべきかどうか、スッゲー悩なやんだんだが、少女しょうじょはたった1日にちだけ雨風あめかぜを凌しのげる場所ばしょを欲ほしいとだけ言いってきたんだ」

エリック「だが屋根やねの付ついた場所ばしょなら、何なんでも良いいって雰囲気ふいんきじゃなかった……だから俺おれは少女しょうじょを自分じぶんの家いえに連つれて帰かえったんだ」

エリック「その少女しょうじょが何なにか言いいたげだったが……恐こわがっている様子ようすにも見みえた俺達おれたちはその時とき…『お腹なか空すいてんのか？』って聞きいてみたんだ…」

エリック「そしたらその少女しょうじょは小ちいさく…首クビを縦たてに振ふったんだよ……そん時とき俺おれは何なにを思おもったのか…『よし！じゃあ俺達おれたちが何なにか美味うまいモン食くわしてやる！』って言いったんだよ」

エリック「言いったは良いいが俺おれとマーカスはそれまで野球やきゅうばっかりしてて、料理りょうりなんかしたことは全然ぜんぜん無なかったんだ…だからとりあえずキッチンにあるありったけの食材しょくざい掻かき集あつめてさ……パンとハムエッグ、焼やきソーセージそれと確たしか…野菜やさいスープ…みたいなもんかな」

エリック「今いま、思おもい返かえしてもあんまり良いい出来できの料理りょうりだとは思おもわなかったんだが、その時とき俺達おれたちは人生じんせいで初はじめて他人ひとに自分じぶん達たちで作つくった料理りょうりを出だしたんだ」

エリック「そしたらその少女しょうじょは料理りょうりを一口ひとくち食たべて『おいしい』って……そう言いってくれたんだ……その時ときの笑顔えがおが今いまでも忘わすれられなくってな……」

エリック「その後あとも色々いろいろ世話せわしてベッドで安心あんしんして寝ねるところまでやったんだがな……朝あさ御飯ごはんの準備じゅんびをしようと、朝あさ急いそいで起おきたらその少女しょうじょは部屋へやのどこにもいなかった……」

エリック「ベッドの横よこのテーブルには小ちいさな紙切かみきれにたった一言ひとことだけ…『ありがとう』…って書かかれていたんだ…」

　物音ものおと一ひとつ立たてず聞きき入いっていた二人ふたりは表情ひょうじょうが徐々じょじょに柔やわらかくなっていた。エリックは聞きき手てである二人ふたりの表情ひょうじょうに安心あんしんしたのか続つづけて言いった。

エリック「その時とき決きめたんだ…！！俺おれとマーカスは、これからどんなことがあっても…こんな笑顔えがおを生うみ出だせる宿屋やどやを作つくっていこう…ってな…」

エリック「まぁ…宿屋やどやの仕事しごとってのはめちゃくちゃ大変たいへんでな…俺おれもマーカスも何度なんども心こころが折おれそうになることがあったんだ……だけどそんな時ときには決きまってあの女おんなの子この笑顔えがおを思おもい出だしてたんだ…」

竜賀りゅうが「それが…切掛きっかけですか？」

エリック「ああ……あの子こに出会であえてなけりゃ…俺達おれたちはシカゴの都市まちにホテルを建たてることもできなかったんだからな……それでもここにホテルを建たてるのは並なみ大抵たいていの苦労くろうじゃなかったな……」

源太げんた「ここの背景はいけいに写うつってるのってこのホテルなんですか？」

エリック「いいや、違ちがうよ…そこに写うつってるのは俺達おれたちが一番いちばん最初さいしょに作つくった宿屋やどやなのさ……シカゴの北きたの方ほうにある町まちで営いとなんでいたボロい宿やどだったんだけどな…経営けいえいを軌道きどうに乗のせるのに5年ねんくらいかかったかな…」

竜賀りゅうが「5年ねんもかかったんですか！？」

エリック「ああ……何なんせ一番いちばん最初さいしょに作つくった宿屋やどやは二人ふたりで資金しきんが僅わずかな中なかやりくりしなけりゃいけなかったから雨漏あまもりはするわ、虫むしがたかるわ、ベッドが壊こわれるわでクレームの嵐あらしだったんだ…」

源太げんた「そんなところからのスタートだったんだな…」

エリック「でも諦あきらめなかったんだ……ずっと借金しゃっきんもしながら経営けいえいを続つづけていきながら、ようやく手応てごたえを感かんじ始はじめた時とき、ある資産家しさんかからこのシカゴの都市まちのド真まん中なかでホテルをやってみないか？って言いわれてな……俺達おれたちは返事へんじに2秒びょうもいらなかったね」

エリック「このホテル『ローグ』は俺達おれたちの宿屋やどや2号店ごうてんなのさ……ここにももちろん思おもい出でが詰つまってるんだ…もう23年ねんは経たってるんだ」

竜賀りゅうが「23年ねん間かん……」

エリック「お前まえらが影かげも形かたちも無ない時ときからずっとこのホテルで沢山たくさんのお客様きゃくさまの笑顔えがおをここで見みて来きた……ここには俺おれとマーカスの“思おもい出で”が詰つまってんのさ…なのに……」

源太げんた「……そのマーカスさんがこのホテルから出でて行いっちゃった？」

エリック「……ああ……それもお前まえらにこんな手紙てがみを託たくしやがって……馬鹿バカ野郎ヤロウ…」

源太げんた「…………」

竜賀りゅうが「ここは二人ふたりにとって大切たいせつな場所ばしょなんですね」

エリック「ああ……ここは俺達おれたちにとっての宝物たからものさ……」

源太げんた「宝物たからもの？」

エリック「ああ、そうだ…誰だれかから見みて羨うらやましがられる物ものが宝たからってわけじゃねぇんだ……マーカスと俺おれにとって命いのちを懸かけてでも守まもりたい価値かちのある物ものかどうか？全すべてを懸かけたいと思おもえるかどうか？宝物たからものの定義ていぎなんてそんなモンなんだよ」

竜賀りゅうが「……大人おとなになると、皆みんなお金かねが一番いちばん大事だいじになってくるのに…そんなに大切たいせつな物ものがあるってすっごく幸しあわせですね」

源太げんた「何なんで大人おとなになると皆みんなお金かねが大切たいせつになるんだろう……」

エリック「金きん、銀ぎん、財宝ざいほうに意味いみなんざねぇさ……そんな物ものに心こころを奪うばわれちまうのは、そいつの心こころに本当ほんとうに大切たいせつな物ものが見みつかってねぇ証拠しょうこさ」

竜賀りゅうが「大切たいせつなもの？」

エリック「ああ…それは金かねには決けっして代かえられねぇそいつだけの“宝物たからもの”さ……金かねは所詮しょせんどこまでいこうが紙切かみきれや石いしコロでしかねぇと思おもってんだよ俺おれは」

竜賀りゅうが「ハハハッ！」

エリック「オイオイ…笑わらうとこじゃねぇぞ？俺おれは本気ほんきで言いってんだからな！金かねってのはあくまで“手段しゅだん”なんだよ！夢ゆめを叶かなえる為ためのな……それがいつの間まにか金かねを持もつことが“目的もくてき”に変かわっちまうんだよ！だから二人ふたりにこれだけは胸むねの奥おくに秘ひめとけ！」

　自分じぶんの話はなしを熱心ねっしんに聞きいてくれる二人ふたりに気分きぶんが良よくなったのか、徐々じょじょに声こえも大おおきくなっていた。しかしその後あと顔かおが暗くらくなり声こえのトーンが下さがっていった。

エリック「それが今いまとなってはこのホテルが『ブルガント団だん』の占領域せんりょういきの一ひとつになっちまった……」

竜賀りゅうが「ブルガント団だん？」

エリック「ん？知しらねぇのか？このイリノイ州しゅうではかなり有名ゆうめいどころの適能者デュナミスト集団しゅうだんだぞ？かなりの財力ざいりょくのあるマフィアなんだ」

源太げんた「やっぱり俺達おれたちが戦たたかったアイツらって…そのブルガント団だんの一員いちいんだったのか？」

エリック「ああ……以前いぜんから嫌いやがらせは受うけていたんだ…このシカゴの都市まちを力ちからと金かねで支配しはいしようとしていて何人なんにんもその被害ひがいを受うけているんだ。現げんに街まちに住すんでいた人達ひとたちがどんどん別べつの町まちに引ひっ越こす様ようになっちまった。今いまじゃこの都市まちは人ひとの住すんでいないゴーストタウン並なみに寂さびしくなっちまった」

竜賀りゅうが「でもエリックさんはここに残のこっていくことを決意けついしたんですね」

エリック「ああ…さっきも言いったがここは俺おれの宝物たからものなんだ…！！思おもい入いれがあり過すぎて簡単かんたんに捨すてられなくなっちまったよ」

源太げんた「……でもそれはきっと…マーカスさんも一緒いっしょじゃないかな？」

エリック「え……」

源太げんた「あの人ひとすっごい哀かなしそうな顔かおしてたから……口くちでは『もう終おわりだよ、この都市まちは』とか言いってたけど、本当ほんとうは抗あらがいたがっていたんだと思おもいますよ」

エリック「へ……餓鬼がきがいらない気きィ遣つかうんじゃねぇよ…！！ホラ！！折角せっかくのメシが冷さめちまうぞ！！さっさと喰くっちまえよ！！」

　勢いきおい良よくエリックは椅子イスから立たち上あがり奥おくの厨房ちゅうぼうに消きえていった。

　竜賀りゅうがと源太げんたは残のこっていた料理りょうりをドンドン口くちの中なかに入いれていった。冷さめても中々なかなかイケると思おもいながら御飯ゴハンを食たべていると、テーブルに突つっ伏ぷしていた光男みつおが漸ようやく目めを覚さました。

光男みつお「ふああああぁぁぁぁ……あ〜〜そっか俺おれ気きが抜ぬけて寝ねちまってたのか……ん！？」

　眼めを擦こすりながら伸のびをしている光男みつおは、竜賀りゅうがと源太げんたの食たべている料理りょうりを見みて絶句ぜっくした。

光男みつお「お前まえら！？先さきにメシ食くってたのか！！？」

竜賀りゅうが「うん」

源太げんた「お先さきに〜」

光男みつお「何なんで起おこしてくれなかったんだよ〜！！」

竜賀りゅうが「いや起おこしたって！」

源太げんた「にも関かかわらずスッゲェ寝ねむってたから…しばらくそっとしとこうってエリックさんが言いったんだよ」

光男みつお「俺おれのは！？俺おれの分ぶんは！！？」

竜賀りゅうが「もうしょうがないな〜…エリックさーーん！！！お父とうさんがやっと起おきたよーー！！！」

エリック「おお！！やっと起おきたか！！じゃあ料理りょうり今いまからあったかいの持もって行いく！！」

光男みつお「良よかった〜〜腹はら減へり過すぎて死しにそうなんだよ」

竜賀りゅうが「そりゃ良よかったね？今夜こんやのメシが美味うまくなるぞ」

　するとすぐに厨房ちゅうぼうからエリックが出でてきて、ワゴンに料理りょうりを乗のせてやってきた。

光男みつお「おおおお！！待まってました！！いっただきまーーす！！」

　子供こどもみたいにムシャムシャハイペースで料理りょうりを食たべている光男みつおを見みてエリックは

エリック「………やっぱり親子おやこだね…」

　そう呟つぶやいたのだった。

　食事しょくじが終おわった後あと三人さんにんは、ホテル『ローグ』のスイートルームに案内あんないされて、シカゴの美うつくしい夜景やけいを見みることのできる部屋へやに入はいった。

竜賀りゅうが「うわーーー！！めっちゃ綺麗キレイな景色けしき！！」

源太げんた「この部屋へやサイッコーーー！！！」

光男みつお「良いいんですか！？こんな良いい部屋へやで泊とまっても！！？俺達おれたちそんな金かねないですよ！？？」

エリック「ああ……金かねは良いいのさ…金かねには代かえられないくらい大切たいせつな宝物たからものを守まもってくれたお礼れいと思おもって今夜こんやはここでぐっすり寝ねてしっかり休やすんでいってくれ」

光男みつお「大切たいせつな…宝物たからもの？」

竜賀りゅうが「父とうさんはその時とき丁度ちょうど寝ねてたからね」

　エリックは竜賀りゅうがと目めが会あうとイタズラっぽくウインクして部屋へやを後あとにした。

To Be Continued