肌寒はだざむいミシガン湖こから流ながれる風かぜが、ネオンに彩いろどられたシカゴの都市まちを通とおり抜ぬける。都市まちの南みなみ側がわに位置いちするホテル『ローグ』と看板かんばんに書かかれた建物たてものの正面しょうめん玄関げんかんの前まえで二人ふたりの男おとこがそれぞれの武器ぶきを携たずさえて向むかい合あっていた。

　一人ひとりは身みの丈たけ程ほどもある巨大きょだいなスピア型がたの鎚矛メイスを右手みぎてに持もつスーツ姿すがたの大男おおおとこウイリー・べドナー。

　そしてもう一人ひとりが緑みどり髪がみに180cmの細身ほそみの長身ちょうしんでジャケット姿すがたをした日本人にほんじんだった。腰こしには漆塗うるしぬりの鞘さやを差さし、右手みぎてには鞘さやと同おなじ漆塗うるしぬりの柄つかをした青あおい刀身とうしんをした日本刀にほんとうを握にぎっていた。その男おとこの名なは藍川あいかわ光男みつお。

　二人ふたりの間あいだに流ながれる息いきの詰つまる様ような闘気とうきは辺あたり一面いちめんから音おとを掻かき消けす様ようだった。

　都市まちの灯あかりを受うけ光男みつおの握にぎっていた刀かたな『聖剣せいけん・藍風あいかぜ』の刃やいばが妖あやしく光ひかり輝かがやいていた。

ウイリー「……フン……良いいのか？」

光男みつお「何なにがだ？」

ウイリー「無適能者アンチステージが適能者デュナミストと戦たたかう際さいには重火器じゅうかきを所持しょじする……常識じょうしきの筈はずだぜ」

光男みつお「……フッ……御忠告ごちゅうこくどうも……だが残念ざんねんなことに俺おれは銃じゅうとか火炎かえん放射器ほうしゃきとかの類たぐいの重火器じゅうかきを触さわったことさえないんでね」

ウイリー「……ほう？」

光男みつお「息子むすこにも良よく言いってることさ……扱あつかい馴なれてない武器ぶきなんて危険きけんだし無駄ムダな争あらそいの本もとになるから師匠ししょうが見みつかるまで決けっして触さわるなってね…」

ウイリー「今いままさにその争あらそいを起おこそうとしている最中さなかの筈はずだがな」

光男みつお「俺おれはこう言いった真剣しんけんの取とり扱あつかいに関かんしては、剣道けんどうを教おしえてくれた師匠ししょうである義父とうさんのお陰かげで馴なれてんだよ」

ウイリー「少すこし腕うでに自信じしんがある程度ていどで過信かしんすると血ちを見みることになるぞ」

光男みつお「その言葉ことばお返かえしさせて貰もらおうか……偶然ぐうぜん手てに入いれただけの借かり物ものの能力チカラを自力じりきだと思おもい込こんだら地面じめんを這はいずり回まわる羽目ハメになるぞ？」

　その瞬間しゅんかんウイリーは巨大きょだいな鎚矛メイスを光男みつおの胸むねに向むけて猛もうスピードで突撃とつげきしてきた。光男みつおはそれを見みて刀かたなを少すこし下おろし、身みを屈かがめた。

ウイリー「もう遅おそいッ！！」

　完全かんぜんに鎚矛メイスの先端せんたんが光男みつおの顔かおを捉とらえた。ウイリーはそれを確信かくしんした。

　そして次つぎの瞬間しゅんかん光男みつおはウイリーの視界しかいから消えた・・・。

　　………スッ……

　突然とつぜんのことに驚おどろき、咄嗟とっさに立たち止どまってブレーキをかけるとウイリーは自分じぶんの首クビに刀かたなの刃やいばが静しずかに添そえられていたことに気きが付ついた。

光男みつお「後あと半歩はんぽ…」

　首クビに添そえられていた刃やいばを辿たどった先さきにいた刀かたなの持もち主ぬしである藍川あいかわ光男みつおがウイリーの懐ふところで静しずかに呟つぶやいた。

光男みつお「踏ふみ込こみが深ふかかったら……アンタの首クビは今頃いまごろ地面じめんに転ころがっていただろうぜ」

　ウイリーは状況じょうきょうを理解りかいすると身体からだ全身ぜんしんから冷ひや汗あせがドッと吹ふき出でてくるのを感かんじた。今いま一体いったいこの男おとこはどうやって攻撃こうげきを躱かわして自分じぶんの懐ふところに飛とび込こんで来こられたんだと、ウイリーは理解りかいができない何なにかに恐怖きょうふした。

ウイリー「……どんな能力チカラだ？」

光男みつお「ん？」

ウイリー「高速こうそく移動いどう系けいか？それとも瞬間しゅんかん移動いどう系けいか？」

光男みつお「……ふ……この程度ていどのことも解わからないとはね…今いまは伽霊能力ギアルスキルじゃねぇよ…技術テクニックだよ」

ウイリー「何なに？」

光男みつお「古武術こぶじゅつ式しきの内うちの一ひとつ……“縮地しゅくち”だよ…」

ウイリー「シュク…チ…？」

光男みつお「ああ……子供こどもでもできるし、年寄としよりでも、もちろんアンタでもできる簡単かんたんな技術ぎじゅつさ……まぁ少すこしコツが要いるけどな」

ウイリー「…ほう……」

光男みつお「人間にんげんの体からだの移動いどうってのは即すなわち、人間にんげんの重心じゅうしんを移動いどうさせることだ…だから人間にんげんは自身じしんの重心じゅうしんを速はやく移動いどうさせる為ために脚力きゃくりょくを鍛きたえようとする」

ウイリー「そりゃそうだろ……最もっとも強つよい筋力きんりょくが速はやいスピードを生うみ出だすのが常識じょうしきってモンだ」

光男みつお「だが実じつはそうじゃないんだよ…スピードってのは最高速さいこうそくの大おおきさだけじゃねぇんだよ…」

ウイリー「………」

光男みつお「スピードには3Sスリーエスってのがあるんだよ」

ウイリー「3Sスリーエスだと？」

光男みつお「ああ…まず最初さいしょのSエスが『STARTスタート』…速度そくど０ゼロからMAXマックススピードまで持もっていく“加速力かそくりょく”…そしてその次つぎのSエスが『SPEEDスピード』、MAXマックススピードを常つねに保たもち続つづける維持いじする力ちから…そして最後さいごのSエスが『STOPストップ』、MAXマックススピードから速度そくど0ゼロまで瞬時しゅんじに落おとすことができる“減速力げんそくりょく”…これがスピードの3Sスリーエスって言いうんだよ」

ウイリー「…なるほど……」

光男みつお「アンタの言いってんのはMAXマックススピードの大おおきさだけだ……まぁ今いままで会あって来きた適能者デュナミストのほとんどがそうだったがな…能力のうりょくを解放かいほうして身体能力しんたいのうりょくが上昇じょうしょうしたことに胡座あぐらをかいて技術テクニックの向上こうじょうを疎おろそかにする奴ヤツばっかだ」

ウイリー「それで？その縮地しゅくちってのがお前まえの言いうスピードの3Sスリーエスと何なんの関係かんけいがあるってんだ？」

光男みつお「…アンタ今いま俺おれが一瞬いっしゅん消きえた様ように見みえたんじゃねぇか？」

ウイリー「……！」

光男みつお「無適能者アンチステージが消きえる訳わけないだろ？……今いまのはスピードの3Sスリーエスの中なかで最もっとも重要じゅうような『STARTスタート』…つまり加速力かそくりょくを高たかめる技術テクニックさ…日本にほんの古武術こぶじゅつの身体からだの使つかい方かたの、一ひとつで脚力きゃくりょくを極力きょくりょく使つかわず重心じゅうしんを移動いどうする力ちからを大おおきくする特殊とくしゅな歩法ほほう……それが“縮地しゅくち”だ」

ウイリー「なるほど…トップスピードではなく加速力かそくりょくを上あげる技術テクニックか…それが解わかれば同おなじ手ては通つうじまい…二度にどとな……」

光男みつお「二度にどとねぇ…」

ウイリー（要ようは動うごき出だしがあまりにも速はやかった為ため消きえた様ように錯覚さっかくした…そう考かんがえれば驚おどろくことは何なにもない…）

　ウイリーは鎚矛メイスを再ふたたび構かまえ、光男みつおの返技カウンターを警戒けいかいした。

ウイリー（つまり鎚矛メイスの攻撃こうげき範囲はんいの内うち側がわに入はいり込こませなければ良いい…武器ぶきの届とどく距離きょりで攻撃こうげきし続つづければコイツは消耗しょうもうする…！！）

　ウイリーは鎚矛メイスを片手かたてで振ふり回まわし始はじめた。そして辺あたりに大おおきな風かぜが渦うずを生うみ出だした。

ウイリー（…こんな奴ヤツに…霊力ギーラーを無駄ムダに消費しょうひして堪たまるか…！！霊段階ステージ2ツーの『土貫鎚矛サンドスピア』だけで仕留しとめてやらぁ…）

　　ブオン！！ブオン！！ブオン！！ブオン！！

ウイリー「おりゃあ！！！」

　そして巨大きょだいな鎚矛メイスが縦たてに振ふり下おろされ光男みつおの頭あたま目掛めがけて落おちてきた。

光男みつお「……あらよっと…」

　　　ドン！！

　光男みつおは攻撃こうげきを紙一重かみひとえで避よけると鎚矛メイスは地面じめんに凄すさまじい轟音ごうおんを立たてて叩たたき込こまれた。

ウイリー「…チィ！！」

　しかし、ウイリーが次つぎの瞬間しゅんかん次つぎの攻撃こうげきに移うつる為ために鎚矛メイスを引ひき上あげようとしと時とき、目線めせんを何なんとなく右みぎに向むけるとそこには光男みつおがビリヤードの様ような構かまえで刀かたなを構かまえていた。

ウイリー「〜〜シット！！」

光男みつお「遅おそい！！」

　　グサッ！！！

　右手みぎてから放はなたれた強烈きょうれつな刺突つきの刃やいばがウイリー・べドナーの右肩みぎかたを貫通かんつうした。

ウイリー「ガアアアアアアアアアアアアアアアア！！？」

　光男みつおは素早すばやく刀かたなを引ひきウイリーの肩かたから刃やいばを抜ぬくと、ウイリーの肩かたから一気いっきに血ちが吹ふき出でて来きた。

ウイリー「ああアアアアア！！血ちがァ！！血ちがァ！！」

光男みつお「出血しゅっけつの一ひとつや二ふたつでピーピー喚わめくな！！」

　　　ドンッ！！

　光男みつおはウイリーの右肩みぎかたの傷口きずぐちを左手ひだりての拳こぶしで殴なぐり、さらに血ちが溢あふれ出でた。ウイリーは激痛げきつうに身みを悶もだえ、うつ伏ぶせで地面じめんに疼うずくまってしまった。

ウイリー「あああああああああ〜〜〜！！！」

光男みつお「痛いたいか？…痛いたいよな！？…でもな！！お前まえに裏切うらぎられたお前まえの仲間なかまの心こころの傷キズは……」

　光男みつおは思おもいっ切きり右足みぎあしを後うしろに振ふりかぶって、まるでサッカーボールを蹴けろうとする構かまえを取とってウイリーに狙ねらいを定さだめた。

光男みつお「こんなモンじゃねぇぞ！！」

　　　ドスン！！！

　光男みつおの右足みぎあしが渾身こんしんの力ちからでウイリーの脇腹わきばらに突つき刺ささった。ウイリーの身体からだが少すこし宙ちゅうを浮うく様ように飛とんで、地面じめんをゴロゴロと転ころがっていった。

ウイリー「〜〜〜〜ッ！！！」

光男みつお「……はぁ…もう歳としだな……今いまので筋肉きんにく攣つったかも…」

　少すこし痛いたそうな素振そぶりを見みせながら刀かたなに付ついた血ちをそこに落おちていた布ぬので拭ふき取とり、鞘さやに刀かたなを納おさめた。そして皆みんなが向むかった方向ほうこうに歩あるき出だそうとした。

光男みつお「さて皆みんなそろそろ支部しぶに着ついてるかな…？」

ウイリー「……待まて…よ…」

光男みつお「……タフだな…適能者デュナミストってのは…」

ウイリー「まだ…終おわっちゃいねぇよ…戦たたかいが…まだ終おわってねぇのに……敵てきに背中せなかを向むけてんじゃねぇ…！！」

光男みつお「……もう終おわってるよ…無理むりすんな…右肩みぎかたを貫通かんつうしてんだぞ？下手ヘタに動うごくと出血しゅっけつ多量たりょうで命いのち落おとすぞ？」

ウイリー「ウルセェ…！！…ここまでコケにされて黙だまってられるか…！！」

光男みつお「そんなに悔くやしいのかよ……無適能者アンチステージに負まけるってのは…人生じんせい生いきてりゃ負まけるのの連続れんぞくだろ…」

ウイリー「黙だまれ！！無能むのうの分際ぶんざいで！！俺様オレサマを見下みくだしたみてぇな口くちきいてんじゃねぇ！！俺様オレサマが！！テメェごときに！！！」

光男みつお「…はぁ〜〜〜…めんどくせぇ自尊心プライドだねぇ……いや…ここは誇ほこり高たかいとでも言いっておくべきか…？」

ウイリー「このまま終おわって堪たまるか…！！このまま…！」

光男みつお「最後さいごに聞きいて良いいか？」

ウイリー「何なんだよ…！！」

光男みつお「アンタは何故なぜブルガント団だんに協力きょうりょくしてんだ？…そして何故なぜアンタはマクシム連合れんごうインディアナ支部しぶの違法いほうな実験じっけんを隠かくしてたんだ？」

ウイリー「……！！」

光男みつお「答こたえられねぇか？…そんな生命いのちの危機ききを迎むかえても隠かくし続つづける必要ひつようのある秘密ひみつなのか？」

ウイリー「………」

光男みつお「そこまでして……秘密ひみつを墓場はかばまで持もって行いく価値かちのある仲間なかまなのか？」

ウイリー「……ただの腐くされ縁えんだ……」

光男みつお「腐くされ縁えん？」

ウイリー「ああ……アレックス・ブルガントと俺おれは昔むかし…この都市まちに住すんでいた幼馴染おさななじみさ……この都市まちは多おおくの無適能者アンチステージ共どもで溢あふれ返かえっていた…奴ヤツらは俺達おれたちを恐おそれ、俺達おれたちを迫害はくがいしていた」

光男みつお「迫害はくがい？」

ウイリー「そうさ…奴ヤツらは俺達おれたちに能力チカラで敵かなわねぇことを悟さとって…適能者デュナミストに対たいして不利ふりな法律ほうりつや条例じょうれいを次々つぎつぎに可決かけつして俺達おれたちを飢死うえじにする様ようにしてきた……俺おれはこんな糞クソみてぇな世よの中なかを変かえる為ために大おおきな組織そしきに入はいって地位ちいを手てに入いれ…ようとした…」

光男みつお「それで良よかったんじゃねぇのか？」

ウイリー「だがそうはいかなくなっちまった……その為ために入はいった筈はずのマクシム連合れんごうでさえ金かねと利権りけんの前まえに組織そしきの上層部じょうそうぶは太刀打たちうちできなかったんだ」

光男みつお「…よくある話はなしだな……」

ウイリー「このアメリカを支配しはいしようにも圧倒的あっとうてきに数かずが上うえなのは無適能者アンチステージ側がわだった…しかも大半たいはんのマクシム連合れんごうの隊員たいいんは霊段階ステージ5ファイブ以下いかの低適能ウーファーばっかりだ…これじゃあどんなに足掻あがいても軍事力ぐんじりょくや資金力しきんりょくでも政府せいふに太刀打たちうちできない…だから俺達おれたちマクシム連合れんごうの上層部じょうそうぶは組織そしきの軍事力ぐんじりょくアップの為ための計画プランに着手ちゃくしゅすることになった」

光男みつお「それが…」

ウイリー「適能者デュナミストの霊段階ステージを強制的きょうせいてきに引ひき上あげる研究けんきゅうだ……そうすりゃ適能者デュナミストの質しつが上あがり組織そしきが大おおきな力ちからを持もち、投資家とうしか達たちから莫大ばくだいな資金しきんを調達ちょうたつすることができる」

光男みつお「だったら適能者デュナミストの個々ここの能力のうりょくを訓練トレーニングで伸のばしていけば…」

ウイリー「当然とうぜんそれはやったさ！しかし伽霊能力ギアルスキルの成長せいちょう自体じたいにも限界げんかいがあったのさ！！個々ここの能力チカラの成長せいちょうには肉体にくたい的てきな成長せいちょう以上いじょうに精神せいしん的てきも大おおきく関係かんけいしていた！どれだけ情報データを集あつめてマニュアル通どおりの訓練トレーニングカリキュラムを組くんでも、どこか壁かべにぶつかり成長せいちょうが止とまる者ものが続出ぞくしゅつした……だから組織そしきは倫理りんりに反はんすると解わかった上うえで禁忌タブーを犯おかした」

光男みつお「それが人体じんたい実験じっけんってことか？それも同志どうしである筈はずの適能者デュナミストの…！」

ウイリー「そうだ…」

光男みつお「源太げんたも…あの子こも…その実験材料じっけんざいりょうの一ひとつだったってのか…！！」

ウイリー「そうだ……それが“より大おおきな善ぜんの為ために”であれば必要ひつような未来みらいへの犠牲ぎせいとして語かたり継つがれるだろうってな…」

光男みつお「残念ざんねんながらそれはないな…」

ウイリー「……」

光男みつお「歴史れきしに名なを残のこすのはいつだって最初さいしょに常識じょうしきに反逆はんぎゃくを起おこした者ものだけだ…犠牲ぎせい者しゃはいつもその偉人いじん達たちの下したに埋うもれる踏ふみ台だいとしてしか扱あつかわれないってのは、これまでの歴史れきしが証明しょうめいしてしまってるんでな」

ウイリー「……なるほど」

光男みつお「それで？アンタはなぜアレックスと手てを組くんだんだ？」

ウイリー「……金かねさ…」

光男みつお「…は？」

ウイリー「聞きこえなかったか？金かねだよ……腐くされ縁えんのダチかどうかなんてどうでも良よかった…アイツは『俺おれに協力きょうりょくすれば金かねになるビジネスに力ちからを貸かしてやる』って言いってきたんだよ」

光男みつお「それに手てを貸かしたってのか…！？」

ウイリー「ああ…お陰様かげさまで俺おれのマクシム連合れんごうでの地位ちいはかなり上あがったよ…ポイントを稼かせげたからな……」

光男みつお「ポイント？」

ウイリー「マクシム連合れんごうでの信頼しんらいを得えられる実績じっせきを表あらわすポイントだよ……俺達おれたちがこのシカゴの都市まちで犯罪はんざいを犯おかしているブルガント団だんを捕つかまえて牢屋ろうやに入いれていると言いう実績じっせきを積つめる上うえに、守まもってやっている愚民ぐみん共どもから税金ぜいきんを多額たがくに徴収ちょうしゅうすることができる一石二鳥いっせきにちょうのビジネスさ…」

光男みつお「それを分わかった上うえでアンタ何なんヶ月げつもそんな茶番ちゃばんみてぇなことに協力きょうりょくしてやがったのか…！！」

ウイリー「随分ずいぶん稼かせげたさ……ただ最大さいだいの誤算ごさんは…お前まえらだったよ」

光男みつお「？」

ウイリー「お前まえらが来こなければ、この都市まちの秘密ひみつを暴あばかれることなく済すんでいた……そして、インディアナポリスで行おこなわれていた…伽霊能力ギアルスキルの実験じっけんもバレなくて済すんでいた筈はずだった…」

　ウイリーは横よこになった状態じょうたいからゆっくり立たち上あがって再ふたたび地面じめんにあった鎚矛メイスを左手ひだりてで拾ひろおうとした。

光男みつお「……やめておけ……死しぬぞ…？」

ウイリー「よってその行為こういは死しに値あたいする…！！」

　ウイリーは血塗ちまみれになった右手みぎてでポケットの中なかをゴソゴソと探さがし始はじめた。

光男みつお「何なにを探さがしてる？」

　するとウイリーは金属きんぞく性せいのケースをポケットから出だし、その中なかからカプセルを取とり出だした。

ウイリー「……認みとめてやるよ藍川あいかわ光男みつお…貴様キサマを殺ころすにはこれぐらいやらなきゃな…」

光男みつお「何なんだそのカプセルは？…ただの薬くすりや治療ちりょう薬やくじゃねぇよな」

ウイリー「さっき話はなしただろ……マクシム連合れんごうが秘密裏ひみつりに行おこなっていた実験じっけんの……その素晴すばらしい成果せいかの一ひとつがこれなんだよ！！」

光男みつお「！？待まて！！止やめろ！！」

　ウイリーはカプセルを一気いっきに口くちに2、3粒つぶ入いれ、喉のどを鳴ならし飲のみ込こんだ。

ウイリー「…はぁ…はぁ…はぁ……これはまだ試作品プロトタイプだ…現段階げんだんかいで霊段階ステージ10テンに上のぼり詰つめている俺様オレサマがコイツを使つかえば一体いったいどうなるか…」

　するとウイリーは自分じぶんの胸むねを押おさえ、呼吸こきゅう困難こんなんであるかの様ように息いきが荒あらくなり始はじめた。

ウイリー「はぁ…！はぁ…！はぁ…！はぁ…！」

光男みつお「お、おい！！大丈夫だいじょうぶか！？」

ウイリー「はぁ…！は…ハハッ…ハハハハハハ…ハハハハハハハハハハハハ！！最高さいこうだ…！！身体からだの内側うちがわから能力チカラが止とめど無なく溢あふれて来くる様ようだ！！！」

　ウイリーが鎚矛メイスを拾ひろい上あげ、高たからかに笑わらい声ごえを上あげ始はじめた。不気味ぶきみな空気くうきを感かんじ取とった光男みつおはウイリーから距離きょりを取とり、相手あいての出方でかたを窺うかがった。

ウイリー「さぁ…まずは…能力チカラの大おおきさを試ためしてみるか？」

　ウイリーは伽鍵礼符キーカードを3枚まい取とり出だした。取とり出だした礼符カードは異様いようなまでに光ひかりを放はなって辺あたりを照てらしていた。

ウイリー「Mr.ミスター藍川あいかわ…この能力チカラの増幅ぞうふくを計はかる為ための実験じっけん…まずはお前まえをサンドバックにして試ためさせてもらおう！！」

　ウイリーは何なにも持もっていない左手ひだりてを上うえに挙あげると辺あたりの風かぜが徐々じょじょに渦うずを巻まく様ようにウイリーの周まわりに集あつまり始はじめた。そしてその渦うずは巨大きょだいな塔とうの様ように天てんにそびえた。

ウイリー「喰くらえ！！！」

　左手ひだりてを光男みつおに向むけて振ふり下おろすと竜巻たつまきの中なかから三日月みかづき形がたの何か・・が猛もうスピードで飛とんで来きた。

　　　ザン！！

　光男みつおは直感ちょっかんでやばいと悟さとり全力ぜんりょくでそれ・・を躱かわした。すると重苦おもくるしい引ひき裂さく音おとと共ともに、地面じめんに真まっ直すぐなヒビ割われた切きり口くちができていた。

光男みつお「マジかよ！ようやく本気ほんきになってきたってことか！」

ウイリー「いちいち攻撃こうげきにビビってる暇ヒマなんざねぇぞ！！」

　巨大きょだいな竜巻たつまきはまるで生いき物ものの様ように蠢うごめきながら、さらに周囲しゅういの砂すなを引ひき寄よせているようだった。

ウイリー「俺おれの伽霊能力ギアルスキルは砂すなや泥どろを操あやつる能力チカラだ！！この周囲しゅういにある建物たてもの全すべてを砂すなに変かえて自身じしんの武器ぶきに変かえる能力チカラだ！！」

　　ドン！！ドン！！ザン！！ドン！！

　光男みつおは次々つぎつぎと襲おそい掛かかってくる砂すなの斬撃ざんげき、球体きゅうたい形がたの砂すなの塊かたまりをギリギリで躱かわしまくった。

光男みつお「へ！…霊段階ステージごとの能力のうりょく自体じたいがてんでバラバラの筈はずなのに何なんでアンタは自分じぶんの能力のうりょくをこれだって断定だんていしきれるってんだ？」

ウイリー「フフフフフフフ…！！この伽霊能力ギアルスキルはな…実じつは霊段階ステージ10テンの礼符カードの能力チカラこそが…その適能者デュナミストの能力のうりょくの“本質ほんしつ”そのものなのだ！！」

光男みつお「何なんだと？」

ウイリー「霊段階ステージAエースから霊段階ステージ9ナインまでは適能者デュナミストの成長せいちょうに環境かんきょうが大おおきく関係かんけいしてくる！！そしてそこまでの成長せいちょうの集大成しゅうたいせいの能力チカラが手てに入はいる！！それが霊段階ステージ10テンなんだよ！！」

　ウイリーの足元あしもとのコンクリートがサラサラした砂すなに変かわっていき始はじめた。そしてその砂すながどんどん渦うずを巻まきながら光男みつおに向むかって近付ちかづいて来きた。

ウイリー「この俺様オレサマにこの礼符カードを使つかわせたことに敬意けいいを評ひょうして……本気ほんきを見みせてやらぁぁ！！」

　巨大きょだいな砂嵐すなあらしは当あたった建物たてものを鋭するどい斬撃ざんげきで粉々こなごなに斬きりながら光男みつおに接近せっきんしてくるのを、光男みつおは全力ぜんりょくで走はしって逃にげた。

光男みつお「やべぇやべぇ！！当あたり構かまわず容赦ようしゃ無なしかい！！」

ウイリー「ハハッ！！ハハハハハハハ！！能力チカラを普段ふだんは抑おさえて使つかってたんだ！！人生じんせいで一回いっかいは“全力ぜんりょく”って奴ヤツを試ためしてみたかったんだよなぁ！！」

　鎚矛メイスを肩かたに背負せおって光男みつおに近付ちかづきながら攻撃こうげきしてくるウイリーは完全かんぜんに正気しょうきを失うしなっていた。光男みつおはウイリーのその様子ようすを物陰ものかげに隠かくれて窺うかがった。

光男みつお「ウイリーアイツ…完全かんぜんに自分じぶんを見失みうしなってやがる…普段ふだんなら隙すきだらけで格好かっこうの餌食えじきなんだが……なまじこっちの戦闘せんとう力りょくが、この藍風あいかぜ一本いっぽんだけって乏とぼしいモンだからな…」

　光男みつおは手てに持もっていた藍風あいかぜに再ふたたび目めを向むけ、自分じぶんの武器ぶきの頼たよりなさを感かんじていた。

ウイリー「おいおい！！もう終おわりか！？まだまだこっちは暴あばれたりねぇんだよ！！折角せっかく俺おれの能力のうりょくの実験台じっけんだいになるんだったら！！手足てあしが全部ぜんぶもげる最後さいごまで足掻あがけよ！！」

光男みつお「あっちは周囲しゅういを全すべて武器ぶきにできて弾幕だんまくを張はれる反則はんそく級きゅうの攻撃こうげき範囲はんいの伽霊能力ギアルスキル……それに控ひかえこっちは刀かたな一本いっぽん…もう詰つんだかな…」

　光男みつおは自分じぶんに助たすけは来こないことを考かんがえ、ここまでかと悟さとった。

光男みつお「あんまし格好かっこうつけるモンじゃなかったな……でも…」

　光男みつおは自分じぶんの刀かたなの強つよく握にぎり締しめた。死しを目前もくぜんにした男おとこが最後さいごに辿たどり着つく境地きょうち、

光男みつお「どうせ死しぬんだったら、侍さむらいらしく格好良カッコよく散ちってやらぁ…！！」

　漢オトコが覚悟かくごを決きめた瞬間しゅんかんだった。

ウイリー「出でて来こいコラァ！！ずっとそうやって逃にげんのかよ腰抜こしぬけの臆病者チキンが！！」

光男みつお「誰だれが臆病者チキンだと？…」

　するとウイリーの背後はいごに刀かたなを構かまえた光男みつおが立たっていた。

ウイリー「……テメェに言いってんだよ……」

光男みつお「卑怯ひきょう者ものに背せを向むけて逃にげる程ほど…俺おれは落おちぶれちゃいねぇんだよ…！！」

ウイリー「何なんだよ……それが侍さむらいスピリットってやつか…？」

光男みつお「まぁ…そんなとこだ…」

ウイリー「戦たたかいから逃にげるくらいなら、戦たたかいに散ちって死しにたい……日本にっぽんはそうやってアメリカに負まけたんだ！！負まけを認みとめて無様ぶざまに降伏こうふくする方ほうがずっと楽らくに生いきられたんだ！！歴史れきしはそれを証明しょうめいしている！！弱者じゃくしゃが讃たたえられる歴史れきしなんざどこにもねぇ！！評価ひょうかされんのは常つねに勝者しょうしゃだ！！」

光男みつお「だったら……俺おれだろ！！！」

　光男みつおは刀かたなを鞘さやに納おさめ、抜刀ばっとう術じゅつの構かまえを取とった。

　ウイリーの鎚矛メイスに砂すなの竜巻たつまきが蛇ヘビの様ように渦巻うずまきながら巻まき付つき、まるでウイリーが右手みぎてに巨大きょだいな竜巻たつまきの剣けんを握にぎっている様ようだった。

ウイリー「死しねぇぇぇぇぇぇぇ！！！」

　竜巻たつまきの剣けんが何なんメートルも離はなれている光男みつおを襲おそい掛かかってきた。

　光男みつおは目めにも止とまらぬスピードで刀かたなを鞘さやから抜ぬき、高速こうそくで振ふり抜ぬいた。

　　　ザンッ！！！

To Be Continued