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宗麟と芝浜

宗麟「困った。困った。」

作者「どうしたんですか?」

宗麟「何年か前の話なんだけど、正室のイザベルが、毛利軍が攻めてきて大変だから、早く起きて戦へ行っておくれ。もう十日も戦休んでるじゃないかってことがあったんだよ。」

作者「毛利元就が筑後に攻めてきたんでしたっけ?あの頃の毛利って大内軍を破り、イケイケでしたもんね。」

宗麟「毛利って嫌いなんだよね。不戦条約結んだのに攻めてくるし・・。銀山よこせっていったら朝廷にあげちゃうし。まあ、十日も休んでたんだ。決着ついてらあ、っていったらちゃんと立花道雪と吉岡長増行かせて膠着状態にしてあるから、後はあんたが行って指揮するだけだって言うんだよ。」(*部下の名前はご愛敬)

作者「それじゃ行かないといけませんね。」

宗麟「仕方ないから渋々、戦場に行ったんだよ。そしたらまだあたりが暗くて真っ暗。イザベルのやつ、合戦の時刻(とき)間違えやがったな。って浜で夜明けの風景を見ていたら足下に宝箱が落ちていたんだよ。開けたら中には金銀財宝ざっくざく。」

作者「宝箱!?」


宗麟 「これだけありゃあ、戦なんかやめて、もう好きなワイン飲んで、遊んで暮らしていけらぁと、お姉ちゃんを呼んで教会のザビエル呼んで昼間から飲めや歌えの大騒ぎをしたあげくに酔いつぶれて寝ちゃったんだよ。」

作者「宝箱、猫ばばしたんですね。」

宗麟「そうなんだけど、そうじゃないんだよ。翌朝にまたイザベルに起こされて戦に行けって言うんだ。」
作者「ほう。」
宗麟「戦に?冗談言うねえ、昨日の宝箱があるじゃねえか。と言ったらイザベルがなに寝ぼけて馬鹿なこと言ってるんだい。夢でも見たんだろう。この館のどこにそんな宝箱があるんだい。しっかりしてくれなきゃ困るよって言うから辺りをみたら、昨日の大騒ぎで館の中はちらかり放題だ。でも、確かに宝箱はない。部下たちもそんな宝箱は知らないって言うんだ。」
作者「夢だったんですか?」

宗麟「夢にしちゃあずいぶんとはっきりした夢、うーん・・・どうしても夢とは思えねえ・・・宝箱を拾ったのが夢で、ザビエル呼んで飲み食いしたのが本当の事か・・・?って思っていたらイザベルが『あたしを疑うのかい?』ってえらい剣幕で怒り出しそうになったので『いや、いや、すまねえ。・・・そうか、えれえ夢見ちまったもんだ。宝箱拾った夢なんて、われながら情けねえや。これというのもワインのせいだ。よし、もうワインはやめて戦に精出すぜ』と、すっかり反省、改名し戦に励むことにしたんだよ。」
作者「あ、それで改名して宗麟て名乗ったんですか?」
 *正確には休庵宗麟ですがご愛敬。
宗麟「そうだよ。毛利軍イケイケでさ。やばかったよ。あいつら一騎打ち好きなんだもん。鉄砲で撃てば一発なのに。一騎打ちばかり所望するから負けっぱなしでさ。仕方ないから南蛮国に、弾薬を毛利に販売しないでって頼んだり、キリスト教を広めるから南蛮船で砲撃してってお願いしたなあ。」
作者「当時ではかなり卑怯な手段ですね。」
宗麟「いやいや、小早川隆景、吉川元春、毛利元就に村上海賊。戦国時代のオールスターだよ。『なりふりかまっていられませんぞ!』って部下に怒られたからね。やったよ。」
作者「それでどうなったんですか?」
宗麟「毛利軍が筑後をほぼ手中に収めた頃合いに、うちで匿っていた大内の一族を山口に送り込み武装蜂起。さらには尼子の生き残りを援助して武装蜂起させたんだよ。村上海賊にはお金を積んで停戦協定。これで毛利は撤退。筑後は安泰となったよ。」
作者「やりましたね。」
宗麟「もともと部下が優秀なんだよ。外交上手なのもいたから、朝廷の信用も評判も上がり、領土もどんどん増えたんだ。戦馬鹿の道雪もいるしね。」
作者「それじゃあ、困ることないじゃないですか。」
宗麟「それがさ、大晦日にイザベルと苦労話をしていると除夜の鐘が鳴り出してさ。イザベルが『今日はお前さんに見てもらいたいものと、聞いてもらいたい話もあるんだけど・・・』と、宝箱の鍵を目の前へ出してきたんだ。」
作者「宝箱あったんですか?!」
宗麟「イザベルが『数年前にお前さんが芝の浜で拾った宝箱の鍵だよ。夢なんかじゃなかったんだよ・・・』って話をはじめたんだ。『聞いておくれ。あの時、お前さんがあの宝箱で遊んで暮らすって言うから心配になって、酔いつぶれて寝ている間に奈多八幡の神主さんに相談に行ったんだよ。”拾った宝箱なんぞを猫ばばしたら天罰がくだってしまう。おれが津久見の島に隠してやるから、全部、夢のことにしてしまえ”と言われて、お前さんに嘘ついて夢だ、夢だと押し付けてしまったんだよ。ずっと嘘をついていてごめんなさい。』とあのイザベルが謝ったんだよ。あの一度も謝ったことのないイザベルがだよ。」

作者「へー。そこで『おれがこうして気楽に正月を迎えることができるのは、みんなお前のお蔭じゃねえか。おらぁ、改めて礼を言うぜ。この通りだ。ありがとう』とか感謝の言葉でもかけたんですか?」

宗麟「へ?!なんで?」
作者「えっ?・・・・。」
宗麟「宝箱の鍵をぶんどって。『馬鹿野郎』『悪女め』と罵ってやったよ。」
得意顔の宗麟。
作者慌てる。
作者「いやいや、イザベルさんがワインを用意していて今日からは飲んどくれ的な流れじゃないんですか?」

宗麟「なんか知らないけどワインは飲んだよ。イザベルがお注ぎしますっていうからおまえがワイン注ぐなんて見たことないよ。痛快だって、一息に飲んじゃったよ。」
作者「一気に飲んだ?!・・・じゃあ、ワイン飲む前で『えっ、ほんとか、さっきからいい匂いがすると思ってたんだ。・・・じゃあ、このグラスについでくれ。・・・おう、おワインどの、しばらくだなあ、・・・たまらねえやどうも・・・だが、待てよ。よそう、また夢になるといけねえ』的なオチは無いんですか?」

宗麟「…ないね。明日からイザベルとは別居です。これからは津久見で遊んで暮らすんで。宝箱やーい。」
そう言うと宗麟は宝箱の鍵を持ってウキウキしながら去って行く。
去り際に宗麟が慌てて作者のもとに来て一言。
「そうそう、宝箱、津久見のどこの島に隠したのか聞き忘れたんだよ。よかったら聞いてくれない?」

作者「そこが、困ってた?」

宗麟は津久見で隠居すると今までの生活が嘘みたいに趣味やキリスト教に没頭した。そして正妻のイザベルとは離婚。宝箱をネコババしたのかはわかりませんが・・、バチが当たったようで、いろいろ大変な晩年を送った宗麟なのでした。

宗麟と芝浜でした。


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