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かまどのある風景

大きなかまどで炊き上げたごはん。

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こんなにたくさん作っても昔の皆さんがいたらすぐになくなっちゃうね。平助君と新八さんはおかずの奪い合いしてたし、あのころは屯所も貧乏だったからごはんはどんぶり1杯までだったし。すぐお腹が空くのか外に呑みに行ってたみたい。

いやいや呑みに行くのはおなかが空いてるからじゃないんだよ。若いからだよ。千鶴ちゃん・・・いや千鶴。

若い頃患った病で今でも激しく動くことはできないが千鶴が食事の準備を始めると必ずと言っていいほどちょっかいを出しに来る。だいたい邪魔になるだけだしアドバイスもわざとおかしなことを言うだけなのだがまあ昔からそうだったから。

火が弱くなってきたので風送らなくちゃ。

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太い竹筒を手に取り息を送りこむ。かまどの火に照らされた顔がその効果以上に真っ赤になるくらい真剣な表情。火が再び起きる。

今日はこんなにごはん炊いて何があるんだい。

忘れちゃったの?今日は鬼メンバーが来てくれるのよ!だから思い出の場所を借りてお招きの準備してるんじゃないの。いつもの場所じゃちょっと手狭だしね。

ちょっと単純な質問なんだけど「鬼ってご飯食べるの?」

連絡のついた隊士さんも呼んであるんです!まあ同窓会みたいなものです。ごはんとお汁作ってあとは持ち寄りって女子会みたいですね。

そういうことなら食事の余興に西瓜割りでもしたらいいかもね、そうそう斎藤に西瓜を居合抜きで切ってもらおうかな。いたずらを考えてる時の総司さんは楽しそう。平助に早食い競争挑ませて勝ったら千鶴お手製「石田散薬」プレゼントってのはどうだ?土方さん主催で歌会とかしてもいいかもね。お題は「花」かな?自分で言ってて少し笑いだしそうな表情だ。豊玉発句集に含まれてない未公開の歌でも披露してもらおうかな。天霧vs女子全員の腕相撲勝負ってのは?

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はいはい、もうすぐご飯炊けるからじゃましないで。と言ってる千鶴も少し懐かしそうなほほえみ。

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前々から聞きたかったんだけど千鶴。目を向けると真剣な顔つきからにやりといたずら顔で、「どうして僕を選んだんだい?千鶴」

どうしてかしらね?いろいろ分岐点はあったんだけど、大きな瞳をさらに大きくして見透かすように言う、私が看てないとすぐ死んじゃいそうだったからかな。あなた自分が死にそうになったときくらいから殺すよって言わなくなったでしょ。

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(それに私の血を吸った時からあなたは後ろから私を抱きかかえ手放さなかったから、他の隊士や鬼の寄りつく隙も与えないくらいだったってものあるかな)




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鬼っていつまで生きるのかしら・・・


当時とあまり変わらない身体、しわも増えたようには感じないし。自分の望んでいる年齢のままなのかしら。人は時間とともに忘れていくと言うけれど鬼は記憶がただ蓄積されて忘れることもない。志を持って集まってきた隊士たち。一人一人の命がその志ゆえに消えて行ったあの時代。ずっと見守ることしかできなくて思い出だけが鮮明に残り積み重なっていく。


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雪村千鶴 うささん  沖田総司 うささん