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やる気がずっと見つからない

やる気がずっと見つからない。最後に出会ったのが六月の初旬だったので、かれこれ二ヶ月ほど見かけていない。さすがに三十一年も自分をやっているので、やる気の出し方についてはいくつかの必勝パターンを持っている。例えば、やる気が出るまでとことんドラマなどを観てリラックスする、とりあえず机に向かってみる、湯船に浸かるなど。だが、今回は何をしても無気力な、胸の奥に熱いものが灯る感じがしないのだ。

 そもそも、何にやる気をだしたいかと言うと、自分の制作だ。私は年中けしごむはんこを彫っている。別に誰に頼まれた訳でもないのだが、かれこれ五年、ほぼ毎日のように何かしらを作っている。大抵はポストカードや自社製品のパッケージで使用するもので、季節のものを作ることが多い。そのため「秋分だ、暦の上では秋だから秋ものを作りまくるぞ!!」というスイッチがこまめに押され、結果毎日作ることになるのだ。

 だが、今年はどういうわけかやる気が見つからない。早朝に秋の風を感じても、鱗雲を発見しても、秋の虫たちが鳴き始めても、やる気がない。最初は「まあ、そのうちに作りたくなるでしょ」と悠長に構えていたのだが、次第に「自分のやる気はついに枯渇したのかもしれない」と恐ろしくなってきた。

 恐ろしいと言いつつ、一般的な人は仕事が終わってから家で消しゴムを彫らない。きちんと食事をし、掃除し、洗濯物を畳むので、消しゴムを彫っている場合ではないだろう。そうでなくとも、YouTubeを観たり、録画した連ドラを観たり、ゲームしたりして過ごすに違いない。その時間をすべて「消しゴム」に費やしていたのだから、どう考えても今までが異常だったのだ。私もついに、一般的な三十代の生活を営むようになったのだ。と、折り合いをつけていたら、ひょっこり帰ってきた、やる気が。

 なんてことない、雨が降って少し涼しくなったのと、ほこりが積もっていた自宅を大掃除したのだ。二十代で乗り越えられていた夏バテに、完敗したまでだ。もう、今はやる気しかない。この世のすべての秋を、この手で彫ってみようではないかと、また誰に頼まれた訳でもないのに燃えているのだ。

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