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いい声の鳥が鳴いている

今の家に引っ越してきてから、はじめての春。
いい声の鳥が鳴き始めた。

 前の家は、近所で有名なカラス屋敷のすぐ近くにあった。
ある日から、屋敷の敷地内にドッグフードが撒かれ始めたのだ。カラスの餌だ。
カラス達は頭が良く餌がもらえると分かると、どんどん増え始めた。
はじめは5羽くらいがウロウロしていたのが、引っ越す前には30羽以上と雀たちが集まり、それは盛大なパーティー会場と化していた。
家に帰るまでの道は、カラスのフンで白くなり、雨の日にはじめっとした鶏小屋の臭いが漂っていた。
 そして最大の難は、あの「カァー」という声である。1羽でも「あーカラスが鳴いてるなー」と耳につくのに、30羽の合唱は凄まじかった。
朝、5時頃にカラスのサウンドで目が覚める。1羽1羽の「カァーカァー」が重なり、「カァカカカカァカカカカァカカカ」という爆音がエンドレスで続く。
あまりの煩さにカーテンを開けると、鉄塔に黒いカラスの点たちが連なり、縦横無尽に飛び回る奴らの姿が見えた。漫画で見る世紀末の荒廃した街のイメージが、目の前にあった。
 そんなこともあり、昨年の秋に引っ越した。引っ越して最初の喜びは、カラスの声がしないということだった。
 そればかりか、いい声の鳥が鳴いている。
今年の3月頃から現れ、8時頃から静かに鳴きはじる。文字で表すと「ピヒョロロロリィ〜」といった具合で、濁音の一切ない、澄んだ美しい声なのだ。目を閉じれば、たちまち家が湖畔のペンションになる。こんな美しい声の鳥が住宅地にいることに強く感動した。だが、姿が見えないので名前がわからない。
 ある日、いつものように珈琲を飲みながら、「ピヒョロロリ〜」を聴いていた。すると、突然、「ホー・・・ホケキョ」と言った。
 すくっと立ち上がるほど、びっくりした。ピヒョロロリは、ホーホケキョの練習だったのか!
 だが、一度習得したはずのホーホケキョはその日限りで、相変わらずピヒョロロリ言っている。その日たまたまホーホケキョが言えたのか、全く別の鳥なのか未だに分からない。

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