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とても個人的な静岡と東京日誌

 町田駅に到着すると、「バカーーー!」と叫びながら、猛ダッシュで駆け抜けていくおじさんがいた。ああ、故郷に戻ってきたのだな、と少し嬉しい。
 静岡に移住し、店をはじめて今年で5年。いまだに出身はどちらですか?と尋ねられる。「東京です」と言うと「どうして東京の人が静岡に!」という顔をされる。「東京・・・と言っても町田市ですが」と答えると、大抵、なーんだ、町田か。と安堵の顔をされる。
 東京都町田市、私が生まれ育った街である。
「町田は神奈川ではなくて東京」論争は有名であるが、町の至る所に神奈川県感が漂い、それと同じくらい犯罪の香りもする、東京屈指のディープスポットだ。
 代表的なところでは、「街を走るバスが神奈川中央交通(かなちゅう)」「JR横浜線が走っている」「東名高速が横浜町田IC」「JR町田駅の駅構内の一部が神奈川県」などがある。町田住民は、この東京とも神奈川とも言えない、少々間抜けで垢抜けない街を「町田は町田なんで」と言って、結局のところ愛している。ただし、神奈川県と言われると怒る。とても。 
 町田に住んでいると静岡のように、のんびりとはしていられない。常に犯罪が近くにあるのだ。静岡で路上に人が寝ていようものなら、「大丈夫ですか!」と駆け寄ってタクシーを呼び「運転手さん、この人を家まで」と言ってお金を渡すかもしれないが、町田では無視する。キリがない。
 遅く帰る時は、帰り道にも注意する。対向から歩いてくる人の懐に、ピストルが入っているかもしれない。カッターや包丁の可能性もある。いつでも大声で助けを呼べるように心構えをしていなければならない。
 というのは大袈裟かもしれないが、それくらい気を引き締めていないと、痛い目をみる街であるのは確かなのだ。
 長いこと町田に住んでいて、この街が日本のスタンダードだと思っていた。どこにでもある、普通の街だと。まったくそうではないことに、静岡に移住して初めて分かった。離れてみて、比べてみて、初めてこの街の「ヤバさ」に気づいた。
 少なくとも、静岡で雄叫びを上げながら走っている人は、この5年間みたことがない。

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