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選書訓練記

「ここにある本って、どうやって選んでるんですか」
よく聞かれる質問のひとつだ。どうやって選んでいるのか、1年経った今も分からず日々悩んでいる。
 ヒガクレ荘が始まって、1年ほどは入荷に関しての業務は全くやっていなかった。それ以前に、本屋をやりたいと思ったことがなかった。
 語弊があるかと思うので少し詳しく書くと、やりたい、やりたくない以前に「できない」と思っていた。本屋に勤務した経験もないし、自分で読む本はジャンルも偏っていて、大した知識もない。本屋を開く、いやいや、無理でしょう。と社長のMに珍しく真剣に伝えた。
「大丈夫!飲食経験なくてもヒトヤ堂の喫茶店できているし!」
と、納得できるのかよく分からない返答を経て、ヒガクレ荘は始まった。
(ちなみに、飲食経験は3ヶ月でクビになったチェーンの天丼屋以来、姉妹店のヒトヤ堂が初めてである)
 オープン後の1年間ほどは、社長のMが仕入れを担当していた。仕入れられた本を並べて、販売する日々だったが、次第に私の凝り性がムクムク湧いてくる。
 この本、動きがいいからもう2冊くらい入れても良かったのでは・・・。文庫が少なすぎる、最新刊の話題になってる、あの本入れたいのに・・・。
 時をして同じころ、おそらく社長のMも「この人、あんまり飲食向いてないな」と気づいたのか(なんせ3ヶ月でクビになっている)気がつけば「ほぼヒガクレ荘」の人となった。こうして開業から1年、晴れて入荷の実権を握ったのである。
 ヒガクレ荘の書籍は、全て「買取」で仕入れている。つまり、売れ残った分は全て「在庫」となってしまう。お店の大きさを考えても、たくさんの在庫を抱えるような仕入れは避けたい。その結果、毎回の仕入れは命がけの祈りとなる。「どうか、この本を買ってくれる方が現れますように」
 緊張しながら購入ボタンを押す日々が、少し和らぎはじめたのは、常連さんたちの存在のおかげである。「この本、入荷できる?」と何人かの方が欲しい本を注文してくださるようになった。その回数を重ねるうちに、今までは20代から40代くらいの女性(同性)の傾向しか見えていなかったのが、視野が広がり始める。特に、年配の男性の方からのご注文は、大変勉強になる。
 次第に、先回りして発注することが増えてきた。常連のOさん、この作家さんの本は毎回購入してるから仕入れておこう。Kさん、この分野の本、気になるはず・・・。
 実際には、その方がいらっしゃった時に、「これ入荷しましたよ!」とは言わない。そっと店内に置いて、気づかれない程度に様子を伺う。手にとって棚に戻す日もあれば、嬉しそうにレジに持ってきてくれることもある。
 その時は思わず「やっぱりなーーーー!!これは絶対好きだと思ったんだ!」と口に出してしまい、なんて馴れ馴れしい店なんだ、と反省する。その回数と冊数が、月日が経つにつれて増えていく。
 つい先日は、「この本はKさんが好きだと思って仕入れてたんだよね、実は」と打ち明けると、「僕以外にこの店で、この本買う人いないと思って」とさらに上手の回答を頂いてしまった。いつもお世話になっております。
 ヒガクレ荘の本を、どうやって選んでいるかのアンサーは、お客さんとのコミュニケーション、なのだと思う。1年経って、ようやく掴みはじめた。
 


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