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歯ブラシとホッチキス

2017年に発売された「うんこ漢字ドリル」は空前の大ヒットとなり、今も子供たちの間で根強い人気を誇っているようです。実は私も「うんこ先生」の可愛らしいLINEスタンプを密かに愛用しております。

今も昔もなぜか子供たちは「うんこ」が大好きですね。これは本当に不思議です。うんこと言っただけで手を叩いて笑い転げる子供たち。私自身も例外ではなく、子供の頃はうんこが大好きでした。

私がまだ小学校低学年だった頃だと思います。ある日、母が家族みんなの分の新しい歯ブラシを買ってきました。母がその一つひとつに名前を書いていっている時、何を思ったか私は母に自分の歯ブラシには「うんこ」と書いて!と懇願したのです。母は「なんねそれ」と言いながらも仕方ないねぇという様子で、私以外の三本の歯ブラシには父、母、兄の名前を、私の歯ブラシには「うんこ」とマジックで書いてくれました。私は大変満足して、丁寧な文字で「うんこ」と書かれた歯ブラシを大切に使っていたことを覚えています。

同じ頃、私が家の文具入れからホッチキスを取り出して遊んでいたことがありました。私は当時それが何をするための道具なのかわからず弄っていました。その時母が飛んで来て、私からホッチキスを取り上げると、それの間に自分の左手の人差指を挟み強く押し当てました。母の指先には銀色の針がねのようなものが突き刺さっており、そこには赤い血が滲んでいました。私は言葉もなくじっと母の指先を見つめていました。「これは危ないけん、遊んだらいかんよ。こげんなるけんね。」と言った母。彼女の指先に滲んだ赤い血。私はその色を今でも忘れません。

ドラッグストアで新しい歯ブラシを選んでいる時。仕事中にホッチキスで書類をバチンと留める時。そんなふとした瞬間に、在りし日の母のすがたを思い出すことがあります。あなたのように朗らかで、あなたのようにしなやかな優しさを持った人に、いつか私もなれるでしょうか。

線香に火を灯し、静かに手を合わせる。南無阿弥陀仏。写真の中の小さな母はいつも柔らかな笑顔で「大丈夫、大丈夫」と、私に語りかけてくれます。何だかそんな気がするのです。そうして今日も、私の一日が始まるのです。


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