「与信管理」を大学の授業にしたい3つの理由

  前稿「「与信管理って知ってますか?」では、「与信管理は一般的に知られておらず、講義のある大学は極めて少なく、講義の実施は難しい」と書きました。しかし筆者は大学に於いて絶対、講義を実施すべきだと考えています。その理由は次の3点にあります。

1.不当な債務不履行を撲滅し健全な商・金融取引を推進する
 前稿「パクリ屋を撲滅する方法」では「①逮捕しやすくする」、「②過去の登記(閉鎖登記)を入手しやすくする」、「③前科を調べやすくする」、「④債務不履行DBの構築」の4つを提案し、同時に「法的解釈の変更または刑法の改正が必要である」、「登記情報システムの改修、その決定及び費用の調達が必要となる」、「社会の理解、個人情報保護法の改正が必要になる」、「十分な検討、理論武装、強力な推進母体、責任ある管理体制が必要である」など、実現の難しさを指摘しました。
 この解決すべき課題の中で最も重要なのは、「社会の理解」と考えられます。社会の理解を得るには、与信管理の考え方・手法をより広く社会に知らしめる必要があり、そのためには就職前の大学で教育するのが効果的と考えられます。
 日本企業の大多数を占める中小企業、しかも資金力・経営力が弱い企業がパクリ屋や詐欺師の餌食になることを回避するにも役立つものと考えられます。

2.産業・経済・企業の発展に貢献
 18世紀半ばから19世紀初めにかけて欧米で興った産業革命は、企業の生産力・輸送力を飛躍的に拡大させ、大量生産・大量輸送・大量販売を実現させました。従来の狭い地域内での顔見知りとの少額取引から、遠方での広範囲、見知らぬ企業との大口取引へと拡大し、それが掛け売りや手形取引などの信用取引を発生させました。
 信用取引の発生・増加によって、売り主には販売から回収までの資金を立て替える「資金負担」とリスクを抱える「リスク負担」、販売先の身元・信用度を把握する「信用調査」、債権を管理し回収業務を確実に行うための「債権回収」という4つの業務「与信管理業務」が必要になりました。
 その後、それぞれの業務はそれを専門に行う事業として、資金負担は「金融業」、リスク負担は「保険業」、信用調査は「興信業」、債権回収は「回収代行業」「サービサー」「ファクタリング」などの産業を発展させたのです。
 我が国の産業革命は欧米に遅れること約半世紀後の19世紀半ばに興りました。欧米と同様、産業の発展と同時に銀行の設立や興信所の誕生など与信管理業務の発生が確認されます。
 「企業間信用」や「金融機関による融資(与信)」が我が国の産業・経済・企業の発展に大きな貢献をしてきたことは明確であり、それは万民が認めています。
 しかし、これほど産業・経済・企業の発展に大きな貢献をしながらも、「与信管理」は、一部の関係者だけの経験、知識にとどまり、研究も不十分なまま放置されてきたのが事実です。
 よって、「与信管理」を大学の講義に加える事で研究を深め、更なる産業・経済・企業の発展に貢献するには、将来の経営者やビジネスマンが大学在学中に基礎知識を得ることが必要と考えられます。

3、社会及び経営・マネジメントに於ける必要性
 近年リスクの多様化や特殊化、巨大化、ヒステリック化、不祥事の多発もあって、些細なリスクでもその対応を間違えた事によって、新たなリスクを発生させ、企業の存続を揺るがすほどの甚大な損害をもたらした事件が多々見られます。
 リスクマネジメントを知らずして企業経営を行う事は、武器を持たずして戦争に赴くようなものです。
 リスクマネジメントは会社を守る為の社内の施策であるだけでなく、企業経営では内部統制の基本的要素として重要な役割を果たし、社会的な要請、法的に規定された責任・義務とされており、経営者およびビジネスマンにとって必要不可欠の知識・業務になっています。
 企業を取り巻くリスクの中でも、殆どの企業が、身近な、日常のリスクとして認識しているのが「取引リスク、与信リスク」です。この「取引・与信リスク」を管理するリスクマネジメントが「与信管理」です。個別企業において、与信管理の出来・不出来が企業の死活問題になる事件が多く発生しています。また、円滑な企業間取引、企業間信用の形成によって、当該企業だけでなく、産業、日本経済の発展に大きな貢献をしており、その重要性は十分認識できる筈です。
 よって、経営者及びビジネスマンにとって必須の知識となっている「リスクマネジメント」、その中でも特に重視すべき「与信管理」を、企業に就職する前の大学に於いて、学ぶことの必要性・重要性が認識されるのです。

以上

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