高市幸男

元東京商工リサーチ取締役、リスク管理研究所代表、危機管理システム研究学会監事。与信管理…

高市幸男

元東京商工リサーチ取締役、リスク管理研究所代表、危機管理システム研究学会監事。与信管理、リスクマネジメントの研究をしています。 間違いだらけのリスク対応やいつまでもなくならない悪徳企業に対する対策について一言申し上げたく思います。

最近の記事

財務制限条項に関する問題の整理(2024.3改訂前)

金融庁はコベナンツ(財務制限条項)など債務状況の開示ルールを改定し、2024年4月以降に発行される有価証券報告書や臨時報告書から適用される予定にある。以上から本稿は改訂前のルールによる開示の実態を検証するものである。 財務制限条項(コベナンツ)は、金融機関が企業に協調融資などをする際に、一定の財務健全性維持を求める契約条項であり、元利払いの確実な回収を目的とし、条項に抵触すると返済期限前でも金融機関は資金返済を要求できるとされている。 1.財務制限条項の設定自体に大した意

    • 財務比率を統計処理した倒産分析のウソ!ホント?

       決算データや財務比率を統計処理することによって企業倒産を予測したり、判別計数を 見出そうとした研究には、数多くものがある。  基本的に倒産企業とそれに類似した非倒産企業を抽出し、決算書の勘定科目から算出される財務分析数値を、統計的な処理・分析によっ て、倒産をよく表す財務比率を見出し、「倒産を予測する数値」もしくは「計算式」をその 結論としている。  しかし、ここに次の様な問題点を抱えている。 1、分析対象企業の選定(企業数・業種・規模・態様・期間・財務内容)2、類似生存企

      • 財務分析で粉飾決算は発見できるか?

         企業の信用度やリスクの評価において、大部分が決算書の財務分析で占められ、その比重は高い。  極論では企業活動の全ては決算書に集約されており、決算書の財務分析で経営内容・リスクの全てが分かるとする意見もある。  しかし、経営に問題を抱える企業ほど会計の操作がされやすいとの実証研究がある。  これら研究は、分析が必要なリスクの高い企業ほど決算書が粉飾されやすいことを示している。  粉飾された決算書をどれほど分析しようと、真実は分からないという、決算書分析の限界を知らしめ、粉飾

        • 粉飾を前提とした経営分析

           人には固有の特徴を持った肉体が厳然と存在し、生まれながらにして人格が与えられ、権利・義務の主体になる。  一方、会社は概念としての存在であるが、法律によって法人という人格が与えられ、人と同じように権利・義務の主体になれる。従って会社は人を雇用し、商品を買い・売り、そして金を借りる事も貸す事も、物を所有する事も出来るのである。  しかし、年商数兆円の大企業であろうと、数百万円の零細企業であろうと、社名・事業内容・本社事務所・社長・社員・決算書、その全てが会社という概念を構成

        財務制限条項に関する問題の整理(2024.3改訂前)

          実態と会計処理と粉飾決算の関係

          実態を偽ることが粉飾である。  決算書の作成には商法・金融商品取引法・税法に基づいた会計・決算処理の規則があり、その規則によって実態を修正処理するため、決算書は「会計処理による粉飾」と言える。  しかし、この「会計処理による粉飾」は「仮想実態」として対外的に公表され、実態以上の存在になる。  会計規則の改正や追加を反映しない、または規則の解釈によって違った処理をした場合、粉飾決算とされペナルティーを受けることがある。  昨今の煩雑かつ複雑な規則改正が粉飾を生み出して

          実態と会計処理と粉飾決算の関係

          中小企業にとって被害件数の多いリスク BEST10

          中小企業は沢山のリスクに囲まれているが、経営力・資金面・人的資源から全てのリスクに対応する困難である。よって自社でリスクを発生度・損害度の両面から評価し、リスクに優先度をつけ、優先度の高いリスクから対応策を講ずるのが一般的な施策である。    中小企業が被害を受けたリスクの件数を調べてみた。  第一位は「取引先の倒産」で、43.6%の回答があった。    取引先の倒産は、売掛金の回収難が最大の損害であるが、入るべき金が入らないショックに加えて、仕入代金や外注費は支払わな

          中小企業にとって被害件数の多いリスク BEST10

          「与信管理」の講義(シラバス)・研修

           別稿で「与信管理は一般的に知られておらず、授業を実施している大学は極めて少ない」「与信管理を大学で講義するのは難しい」と書いた。その原因はすでに述べているが、教授自身、学問的に構築され体系づけされた正規の講義を受けたことがない、実務で経験したことがない。加えて実施している大学が少ないがゆえに、参考となるシラバスの公開もないことが大きい。  本稿では、筆者の会社での実務経験及び大学での教育経験をもとに、「与信管理のシラバス」を作成、提案する。  なお、対象は大学3ないし4年生

          「与信管理」の講義(シラバス)・研修

          危ない取引とは

           危ない会社は、商業登記、経営者、経営方針・姿勢、商取引、財務活動、決算書など、表面に現れる行動やデータの中に必ずリスク発生の兆候を現わしている。この兆候を見出すことができれば、危ない会社の発見、リスクの回避が可能となる。本稿では、企業であるなら殆どの企業があると思われる「取引」の中から、「危ない取引」について整理してみる。 1、粉飾に利用される取引 ①架空取引  実際の商取引ではなく、販売先と仕入先が相談の上、決算や資金繰りのために行う取引。反対取引がセットされるため、決

          危ない取引とは

          「やっての損失」と「やらない損失」

           「やっての後悔」と「やらない後悔」。日本人は欧米人に比べて「やらない後悔」が多いと言われている。  リスクマネジメントの損失ではどうであろうか?  リスクとは一般的には損害を被る可能性であるが、リスクマネジメントのリスクとは損害と利益の双方を生む不確実性であるという。つまり、対応次第では損失を回避したり、場合によっては利益を生むこともできるとされている。つまり、リスクは対応しなければ損害のみであるが、対応次第で利益に変えることもできるのである。   与信取引をした会社

          「やっての損失」と「やらない損失」

          信用管理と与信管理の違いは?

          「信用管理」と「与信管理」、実際の使用状況をみると、使用者によって明らかな違いがある場合と違いのない場合がある。またその違いを認識して使用している人と認識していない人がいる。ここで改まって両者の違いを考えてみたい。  先ず、「信用」と「与信」の違いを確認する。 「信用」とは、「一般的には信頼または信任を意味するが、経済上、信用を与える(与信、授信)とか信用を受ける(受信)、また信用を貸し付けるとか信用を創造するとかいわれる場合の信用とは、債権・債務関係のことを意味している

          信用管理と与信管理の違いは?

          「与信管理」の研究は偏っている

          与信管理には4人のプレイヤーがいる。1人目は与信を行い、債権管理を行う「与信者」。二人目は受信を得て、自社の信用管理を行う「受信者」。三人目は与信者の依頼を受けて受信者の信用調査を行う信用調査会社と、企業情報の収集・分析・評価を行う情報会社などの「仲介人」。四人目は企業情報や信用情報を提供する「外部関係者」(同業者、取引先、官公庁、業界団体・組合など)である。それぞれの立場における書籍や研究を確認する。 ①与信者  自社が保有する債権の管理を目的として、信用調査の仕

          「与信管理」の研究は偏っている

          「与信管理」を大学の授業にしたい3つの理由

           前稿「「与信管理って知ってますか?」では、「与信管理は一般的に知られておらず、講義のある大学は極めて少なく、講義の実施は難しい」と書きました。しかし筆者は大学に於いて絶対、講義を実施すべきだと考えています。その理由は次の3点にあります。 1.不当な債務不履行を撲滅し健全な商・金融取引を推進する  前稿「パクリ屋を撲滅する方法」では「①逮捕しやすくする」、「②過去の登記(閉鎖登記)を入手しやすくする」、「③前科を調べやすくする」、「④債務不履行DBの構築」の4つを提案し、

          「与信管理」を大学の授業にしたい3つの理由

          「与信管理」って知ってますか?

          「与信管理」という用語は、経営者や営業、経理、債権管理担当などの実務者にはよく知られている。しかし大学生には殆ど知られていない。筆者が確認したのは経営学部の4年生であるが、与信管理は知らなくても、リスクマネジメントはよく知られている。    与信管理は、与信リスクのマネジメントを行うものであり、リスクマネジメントの一施策である。販売や融資を行う企業にとっては必要不可欠の業務であり、内部統制の一施策としてのリスクマネジメントは、経営管理に於いて極めて重要な位置を占めている。

          「与信管理」って知ってますか?

          「パクリ屋」を撲滅する方法

           本サイトでは、「パクリ屋による取り込み詐欺事件の事例」及び「パクリ屋の見分け方」について掲載し、かつ「何故 取り込み詐欺事件がなくならないのか?」その理由を考察してきた。  その結果、「現在の社会・法制度はパクリ屋の存在を認め、守っている」とさえ思わせる実態が明確になった。  個別企業の与信管理のみに任せていては、パクリ屋はなくならず、このままでは業容が小規模で与信管理が十分にできない、売上の確保に汲々としている企業、主に中小・零細企業が被害を受け続けることを容認することに

          「パクリ屋」を撲滅する方法

          何故  取り込み詐欺事件はなくならないのか?

          本サイトでは、パクリ屋による取り込み詐欺事件を複数件紹介してきた。そして、その何れもが素人でもできる簡単な方法で、ほんの少しの手間と費用をかけるだけで、被害を回避できると指摘してきた。 実は、パクリ屋の手口ははるか昔から何ら変っておらず、その見分け方も昔から何ら変わっていないのである。いわば手口およびその回避方法は周知の事実であり、本来自然消滅すべきものなのである。しかし、現実は同じ犯罪が、時に同じ企業、時に同じ人によって繰り返し、起こされているのである。 何故、取り込み詐欺

          何故  取り込み詐欺事件はなくならないのか?

          「危ない会社」事例(10) ―パクリ屋のドン「武藤勝」の教訓―

          2022年1月14日、取り込み詐欺容疑で男4人が逮捕された。1人は警察では「パクリ屋のドン」、仲間からは「会長」呼ばれる大物「武藤勝(81)東京都台東区橋場」だった。「ドン」「会長」と呼ばれていた理由は、パクリの実績と詐欺の手法を指南し、後進を育てていたことによる。  武藤勝が逮捕されたたパクリ事件は、ネット検索で本件以外に2件見出すことができた。 (注:マスコミ報道の年月と武藤氏の年齢、住所、手口から同一人物と思われる) ① 2022/1/14 (株)七里物産 被害者数23

          「危ない会社」事例(10) ―パクリ屋のドン「武藤勝」の教訓―