見出し画像

学習指導要領違反?奈良教育大附属小に対する指導の疑問と影響

奈良教育大学附属小学校にて学習指導要領違反の授業が行われていたとして、文科省は同校に回復措置を求めるとともに、同様の不適切な指導に対して注意喚起をすることになりました。教えるべき内容や指導が不足していることは公立校でも起こっていると考えられます。このニュースでの違和感と公立校への今後の懸念される影響についてまとめます。


概要

奈良教育大付属小(奈良市)で授業が学習指導要領に沿って行われていないことが判明しました。不適切指導は、国語、社会、理科、音楽、図画工作、体育、外国語、道徳、外国語活動の9教科31項目に渡りました。主な違反項目を以下に列挙します*1

  • 国語:3年生以上で年30時間程度の指導が必要な「毛筆」の授業が未実施。現在の6年生は最大120時間の授業が不足

  • 音楽:全学年必履修の『君が代』の指導が6年生以外未実施

  • 図画工作:検定教科書の未使用

  • 外国語:5年生以降で「代名詞」の指導不足、6年生での「動名詞・過去形」の指導不足

  • 外国語活動:話すこと(やりとり)、話すこと(発表)の指導不足(各学年で10時間程度)

  • 理科:年次違いの指導(4年生で教えるべき内容を3年生で教えていた)

指摘に対する疑問

高校英語教員の立場から、高校での影響や英語指導に関しての疑問点を述べます。

指導不足の判断基準の謎

音楽の授業での『君が代』の指導なしは、授業で扱ったかどうかが明確に判断できるものです。しかし、外国語(英語)の代名詞や過去形の指導が不足との指摘に関しては、疑問が残ります。なぜなら、授業で検定教科書を使用し、児童が英語に触れていればこれらの指導がない状況は考えにくいからです。

代名詞は自己紹介(Hello, I’m Ken.)、日常的やりとり(This is my favorite manga. It’s Blue Period.)など、英語では必ず使われます。さらに、過去形の使用も、What did you do during the summer vacation? What did you do last weekend?などごく日常的な内容を扱えば、必然的に使わざるを得ない文法事項です。これらを扱わずに授業ができる状況が想像がつきません。

外国語活動での、話すこと(やりとり)、話すこと(発表)も不十分と判断されました。確かに、話すことの指導状況にはグレーな部分があります。なぜなら、話すことは日本人にとって最も難しいため、スキットなどの原稿を全く見ずに純粋に『話すこと(やりとり)』ができる状況まで児童生徒の力を高められているとは言い難い状況だからです。これは、一体どこまで指導しなければ不十分との基準だったのでしょうか。

大臣発言との矛盾

先日の教育新聞の記事内で文科相は以下のように発言していました。これは文科省の今回の対応と矛盾すると捉えることもできます。一体どういうことなのでしょうか。

時代によって追加されるものはあり、そういうものも含めて学習指導要領を見直していく。

 ただ、追加、追加でどんどん増えていくだけなら、限られた授業の時間で全部教えるのは無理だろう。そうすると、今まで丁寧にやっていたものを軽くしたり、場合によってはなくしたりすることも必要となる。また、文科省はベースとなるものを学習指導要領としてお示ししているだけだ。実際には学校の先生や教育委員会の判断になる。

※太字は筆者による

【盛山文科相に聞く㊤】 「先生は子どもの好奇心伸ばして」

公立校への影響

話すことの指導不足は?

先進的な実践を行っている附属校にて、話すこと(やりとり)、話すこと(発表)の指導不足が指摘されるのならば、公立校はどうなのでしょうか。多くの学校で基準に満たない違反があると言われても仕方ない状況があるのではないでしょうか。

以下は、文科省実施『英語教育実施状況調査』の数値です。こちらの数値を元に考えます。

令和4年度「英語教育実施状況調査」概要

公立高校での言語活動に関して、文科省の調査では、半分以上の授業で言語活動をしている学校は50%となっています。残りの半数は、やるべき言語活動の実施割合が極めて低いのです。

令和4年度「英語教育実施状況調査」概要

また、話すこと・書くことのパフォーマンステストを実施している学校は約50%です。つまり、残りの高校では、話すことを適切に評価すらしていません。高校では、話すことの指導をほとんど行っていない学校すらあるでしょう。また、中学校ですらパフォーマンステスト実施率は100%ではありません。話すことの評価不足は明らかに学習指導要領違反です。

奈良教育大学附属小が違反を指摘される以上、今後、これらの該当する学校でも学習指導要領違反が指摘されるのでしょうか。また、補習などで補填しなければならなくなるのでしょうか。

教員不足により自習になった授業の扱い

全国的に教員の欠員のために授業がたびたび自習になるケースが発生しています。数ヶ月に渡って授業を受けられない児童生徒が出ることもあるようです。これは、授業者がいない以上教えるべき項目の指導不足と扱われても仕方ありません。今後、教員不足がますます深刻化する中で、授業が実施できない状況も発生するでしょう。

この場合も、学習指導要領違反として文科省が次々と指摘するのでしょうか。また、該当校に教員が充当され次第、補習等の補充を求めることになるのでしょうか。

進学校での授業の実態

理科の授業にて、年次違いの指導があったと指摘があります。例えば、4年生で学ぶべき『空気と水の性質』を3年生で学んでいた実態です。ところが、年次違いの指導は、進学校の高校では珍しくはありません。

高校では、3年生の秋までに3年間で学ぶべき内容をほぼ全て終えてしまうことがあります。その後の時間を、大学入学共通テストの演習に使うためです。そのため、1年生の3学期で2年生の内容が授業で扱われるという進度になっていることがあります。その場合、科目名は『◯◯ Ⅰ 』であるのに実際の学習内容は『◯◯ Ⅱ 』になっているなど、食い違いが起こります。

以前多くの進学校で指摘された世界史未履修問題と同様に、文科省の指導の対象が高校にも波及するかもしれません。

まとめ

奈良教育大附属小学校の件での英語・外国語での指摘に関しては違和感を感じます。程度の指導が不足と捉えられ、どの程度が十分なのか、が明らかではないからです。また、教えるべき内容を十分教えていない状況というのは、文科省の調査や教員不足の状況から、公立校でも発生していると考えられます。文科省と文科相の対応の食い違いも混乱を招いています。

引用文献

*1 奈良教育大学附属小学校における教育課程の実施等の事案に係る報告書 https://www.nara-edu.ac.jp/news/report20240117.pdf



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?