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自分の前世は人魚かもとお茶目に話すマダムに教えてもらった大切なこと

人生には時折、意外な出会いや言葉が私たちの心に深い影響を与えることがあります。
カナダに移住してまだ間もないころ、私にはそんな出会いのひとつがありました。

これは、私が10年以上前に出会ったマダムの話です。


◆別荘に招待され

ある日、義父の友人ミスターシモンがランチに招待してくれました。
義父が休暇でミスターシモンのところにしばらく泊まっていたので、ついでに招待してくれたのです。

彼はビジネスで成功したいわゆるミリオネア。
義父は全くの一般人でミリオネアでもありませんが、社交的なせいか交友関係が広くて驚きます。

私たちが招待を受けたのは彼の別荘。
ある程度裕福なカナダ人は、みんな森や湖のそばに別荘を持っています。

別荘のことはシャレー(Chalet)とよび、お天気の良い週末には別荘に移動する車で渋滞する地域も。
日本だと別荘所有=大金持ちというイメージだが、フレンチカナダでは定年後のセカンドハウスとして購入する人が結構いる。
親戚家族を探せば誰かはシャレーを持っているというくらいの所有率。

彼の別荘も、紅葉と美しい森や湖で有名なロレンシャン地方の湖にたたずんでいました。
朝は部屋から見える緑と湖がとっても爽やかで、夜は天の川がはっきり見えるほどの満天の星空なんだとか。
うらやましいかぎり。
ちなみに、別荘はこれだけではないそうで。
お金持ちの世界過ぎて、持ち家なんて1軒で十分だと思う庶民の私には感覚が分かりません。

↑実際に訪れた別荘

ミスターシモンは「いかに社員のモチベーションをあげるか」という講演を行うことも多いらしく、今回のランチも自分で料理をふるまいながら、私たちを楽しませようと様々な話を聞かせてくれました。

ビジネス界で成功を収めた彼の豊かな人生経験や異文化交流の話はとても興味深く、田舎娘の私にとっては刺激的であり、学びに満ちたひとときでした。

◆マダムとの午後のひととき


ミスターシモンは奥さんに先立たれ、子どもたちも独立した後はしばらく1人でした。
ですがその後、とても素敵なマダムに出会い、今はその女性と一緒に暮らしています。

別荘の敷地内には泳げるくらいの小さな湖がありました。
マダムはとにかく水のそばにいるのが落ち着くらしく、ちょっと寒いくらいなら、ウェットスーツを着てでも泳ぐのだとか。

当時でおそらく60歳前後だったと思うのですがとにかくパワフル。

「私の前世は人魚だったに違いないわ」

マダムはお茶目に笑いながら言いました。

私は午後のひとときをマダムと楽しくおしゃべりをしながら過ごしました。

彼女はこれまで、アメリカとカリブに長い間住んだことがある他、 自分のボートで世界中の海を旅したことがあると教えてくれました。
その時撮った写真や買ったお土産を見せながら語ってくれた話の数々は、まるでおとぎ話を聞いているようでした。

◆バイリンガルなマダムが教えてくれてこと

色々と話をする中で、語学の話になりました。

マダムは英語とフランス語のパーフェクトなバイリンガル。
そのことを生かして、シ ャレーにある会議室でロレンシャンに住む人に英語またはフランス語を教えていました。
フリースピリットな人柄のマダムがまとう自由な空気感に、普段はなかなかガードの固い私もすっかり心を開いていました。

私は英語が母国語の人のように綺麗に発音できないことをいつも悔しく思っていました。 まして、フランス語となったら、いつになったらペラペラ話せ るようになるのかと思うと気が遠くなる思い………………。 そのことをマダムに打ち明けました。

するとマダムは言いました。

「あなたは日本人なのだから、外国人として英語を話し続けるのでいいのよ。完璧である必要はないわ」

一見するとシンプルなこの言葉は、私の心に深く刻まれました。

彼女はさらに、

「相手があなたの英語を聞いて日本人だと気が付けば、“日本人なのにここまで話せてすごい”っ て思うわ。母国語じゃない言葉をこれだけ話せるのだから誇りに思わなくちゃ!」

と続けました。

目からうろこなアドバイスでした。

確かに日本語を話す外国人に出会うと、多少たどたどしかったとしても
「難しい日本語をこんなに話せるなんてすごい!」
と毎回感心します。
母国語以外の言葉で誰かと会話できていることは本当はすごいことなのです。

◆完璧じゃなくていい

マダムのアドバイスは、完璧さを求めることよりも自信を持って笑顔でコミュニケーションを取ることの大切さを私に教えてくれました。

その後、私は移民者のためのフランス語コースに通うことになりました。
ところが自分が思っていたよりも上の、中級者クラスに入れられました(文法ができて会話ができない典型的な日本人)。
クラスメートのほとんどが英語がネイティブの人やフランス語と同じラテン系の言葉を話す南米や東ヨーロッパの人たち。
彼らの会話レベルに圧倒され、最初は緊張していました。

ですが、マダムの言葉を思い出しました。

上手に話すことよりもまずは相手に言いたいことを伝えよう。

結果、私はつたないフランス語と英語を駆使しながら積極的にクラスメートと交流しました。
学校の外で会うような友人も数名できました。
学校外ではお互い得意な英語で会話していたので、フランス語はどこいった?状態だったのですが……。

* * *

マダムのお茶目な笑顔や明るい姿勢からは他者との交流を楽しむ心が伝わってきました。

お金があるから心にも余裕があるのか、フレンチカナダ人がもともと持つイージーゴーイングな気質なのかは分かりません。

ですが、年を重ねても毎日をパワフルに楽しんでいることは確かです。

彼女の豊かな人生観とフリースピリットな生き方。
それは私に、

人生は新しい発見や学びと冒険の場であり完璧である必要はない、
どこに住んでいようと、肩の力を抜いて自分らしくいることが大切である、

ということを教えてくれている気がします。

私もマダムくらいの年齢になっても、笑いながらお茶目なことが言える女性になっているといいなと思います。


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