柊織之助

小説を書いてます。温かくて幻想的な物語が好き。

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柊織之助を応援してくれる人が集まるファンクラブです 【柊織之助ってだれ?】 小説を書いています。大人も子どもも楽しめる小説が好き。幻想的な心温まる物語が好きです。 【こんな人におすすめ】 ・児童文学が好き ・幻想的な小説が好き ・心温まる小説が好き 【活動方針】 のんびりゆるくやっていきます。加入者限定で物語の先行公開とかをできたらいいなと思っています。

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最近の記事

VRぼっち、ときどきふたり(小説)

 夜空に月が二個浮かんでいる。  傾いたビールや、湯気の立つラーメンが空中に浮かんだまま止まっていた。飲み屋の立ち並ぶ通りには、人の声が溢れかえっている。  ネオンが輝く路地の真ん中で、マキは立っていた。狼が住む森に迷い込んだ少女のように、背中を丸めて上目遣いに視線をさまよわせている。桃色の髪と瞳は、怯えた子犬の尻尾みたいに揺れていた。  目の前から、猫耳を生やしたメイド姿の少女が走ってきた。マキとぶつかるのも気にせずに進んでくる。マキは体の向きを横に向けて、頭を抱えた

    • 【小説】宛先不明の愛「第五話」

       雪が止まない。真っ白な花びらみたいだ。わたしは、部屋の中で、明かりもつけずに机に突っ伏していた。机の上には、造花の百合と、落ち葉と、彼からの手紙だ。気分が悪い。胃の中が洗濯機みたいにぐるぐるしている。  手紙は、カッターナイフみたいな言葉で埋め尽くされていた。この刃の先が、わたしだったり、彼自身だったりして、血だらけになっている。手紙の中の彼は、混乱していた。当たり前だ。自分の彼女だと思っていたのに、赤の他人が受け取っていたのだ。それどころか、返信まで書いている。手紙には

      • 【小説】夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く「第四話」

         家の前に一本の木が立っている。平ぺったい楕円の葉を身に着けていた。風に揺られている。太陽が昇っては沈んでいく。繰り返すうちに、木の葉っぱが減っていった。  葉っぱが半分ほど消えた頃だ。エーデルはキッチンに立っていた。部屋の反対側で、ワイスが絵を描いている。  エーデルが紅茶をティーカップに注いでいった。やわらかな紫色に染まっている。ワイスが目を閉じて鼻で息を吸った。 「花畑みたいな匂いね」 「スイートピーの紅茶よ」  エーデルがカップが載せられたソーサーを手に持っ

        • 【小説】宛先不明の愛「第四話」

           控え目なエンジン音が、誰もいない町を独り占めしている。わたしは、郵便バイクを駅前に停めた。空はまだ青い。右手に中身が入ったレジ袋と鞄をぶら下げて、ベンチに座った。駅前は、観光客用の休憩所がある。テーブル付きのベンチや、案内板、駅舎の壁には近くの宿場町を宣伝したポスターが貼られている。ここから三十分歩けば、昔の町並みを観光できる。 「寒いなあ。指先から凍ってしまいそう」  テーブルに背を向けてベンチに座る。こうすると、町の様子がよくわかるし、空も見やすい。温かい吐息で手を

        VRぼっち、ときどきふたり(小説)

          【小説】宛先不明の愛「第三話」

           手紙は濡れていた。雨粒が落ちたみたいだった。もう乾いてはいたが、跡がくっきりとついてしまっている。わたしは、いつも通り、花さんの家に届けようとした。空は青々としていて、風が木々を揺らしている。ザワザワと葉っぱが擦れる音がした。  花さんの家の前に行った時、わたしは、落とし穴に落ちていくような脱力感に襲われた。空き家の看板が建てられている。真新しい緑のインクで、不動産屋の電話番号も書かれていた。わたしは、手に持った手紙をやんわりと握った。迷子で泣きそうになっている子どもの手

          【小説】宛先不明の愛「第三話」

          【小説】夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く「第三話」

           階段を降りる音が鳴る。エーデルは手を手すりに置きながら一階に降りた。誰もいない。キッチンには静けさが横たわっている。テーブルの上に皿とカップが置かれている。飲みかけの紅茶が、湯気を立てていた。皿はパンくずと、卵黄がはりついている。  エーデルが真鍮のドアノブをひねって扉を開ける。冬の風が鼻から染み込んでくる。エーデルが顔を横に向けた。視線の先から、声が聞こえる。美術館の前に、人が集まっていた。ワイスが怒鳴り声を上げている。ワイスの前には青髪の青年が立っていた。フランネルだ

          【小説】夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く「第三話」

          【小説】宛先不明の愛「第二話」

           窓の外で、空が赤色に染まっている。まるでワインだ。町の小さな郵便局で、パソコンのキーボードを叩く。配達報告を済ませてから、立ち上がった。奥にある更衣室に行って着替えを済ませた。制服は、疲れを吸い込んで重たくなっている。紺色のコートを着て、茶色いマフラーをしてから更衣室から出ると、人の姿がほとんどない受付を横切った。その時、青木さんが、こっちに視線を向けた。夕日が頬に当たったまま眠たそうにしている。四十歳ほどの男で、左手の薬指に指輪をしている。 「青木さんお疲れ様です」

          【小説】宛先不明の愛「第二話」

          【小説】夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く「第二話」

           村に車が滑り込んでいく。村は、花畑みたいに鮮やかだった。どの家も色が被っていない。ひと際大きな建物が通り過ぎていく。教会のような佇まいだ。入口に木の板が張られている。美術館、と書かれていた。タイヤが土をこすりながら止まった。目の前には白い家が建っていた。ドアの上に、白い鳩の絵が描かれた看板が吊り下げられている。  エーデルが家に近づいていく。薄い黄色が混じった白い髪が揺れた。腰まで伸びた髪は、貴族の馬みたいな上品さが漏れていた。  家の中からけたたましい物音が聞こえてく

          【小説】夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く「第二話」

          【小説】宛先不明の愛「第一話」

           青い空に、白い息が消えていった。  わたしは郵便バイクにまたがって、昼の町を走っていた。青々とした空なのに、夏みたいに騒がしくない。冷たい静けさが広がっている。ピアノの音をポーンと鳴らしたら、ずっと響き渡りそうだ。  わたしはバイクを駅前に停めた。それから、後ろの郵便ボックスから手紙を数枚、掴み取った。青い封筒、白い封筒、名前も知らない花が描かれた封筒。息を吐くと白くなるような真冬なのに、手紙を持った手だけが、じんわりと温かい。まるで人肌のような温もりがする。  古び

          【小説】宛先不明の愛「第一話」

          【小説】夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く「第一話」

          第一話「生きてる」  隣で姉のワイスが呟いた。真っ白な美術館の中だ。エーデルはひまわり柄のワンピースを掴みながら、顔を上げた。目の前に一枚の絵が飾られている。絵の下には、ゲルニカと書かれていた。 「積み木みたいな絵だわ」  エーデルが絵から視線を外して歩きだした。ワイスは一歩も動かない。エーデルが振り返って、体をゆすった。 「もう帰ろうよ」 「芸術を知りたいとは思わないの?」 「誰もわからないわよ」  エーデルがワイスの手首を握った。  どこからか車の音が聞

          【小説】夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く「第一話」