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地方都市の新たな魅力に出会う ブロンプトンとローカル線の旅#12 満員御礼の「山線」と北の湘南③

明治初期にこの地を旅したイザベラ・バードがその豊穣な大地を褒め称えた「北の湘南」伊達へ。廃線が決まった函館本線の小樽〜長万部間を満員のディーゼル車で旅し、洞爺駅からブロンプトンに乗って、有珠湾と有珠善光寺の美しく静かな佇まいを堪能し、伊達市内へ入りました。【旅行日 2023年6月17〜18日】

▼ここまでの記録はこちらです。


◆ 「北の湘南」の一夜

伊達の旧市街地は、地方都市の御多分に洩れず、空き地や空き家が目立ち、人影も少なく静か。
その中では車の通行量も比較的多い生活道路に、今宵の宿がありました。

宿帳を記入したあと、女将さんにオススメの店を聞くと「今日は土曜日だから、どうだろう…」と言います。何年か前、やはり土曜日に自転車旅行で行ったオホーツクのある町で、なぜか営業している店がとても少なかった経験があります。もしやここも同じかと思い尋ねると「人気の店は、すぐ予約で一杯になってしまうんですよ」とのこと。

それでも近くで2軒ほどお勧めを聞いて、浴場で汗を流した後、今宵の酒場放浪記へ。

宿のすぐそばに飲食店街があり、女将さんのお勧め2軒もこの一角にありますが、まだ時間も早いので、市内を少し散歩しつつ物色してみることに。飲食店街の少し先に、比較的最近、区画整理か道路拡幅で整備されたのかな、という感じの商店街がありました。
事前に調べてチェックしていた店が2店ほどこの界隈にあったのですが、いずれも予約で満席。

いよいよの場合は、ラーメン屋でも探して、ビールと餃子かいな、などと考えながら宿近くの通りへ戻り、女将さんが勧めてくれたうちの一軒を覗くと、幸いカウンターが空いていました。
人当たりの良い夫婦二人で切り盛り。休む間もなくご主人は炭火で焼物、女将さんは飲み物やつまみを用意しています。テーブルや座敷は既に相当埋まり、空いている席も多くは予約が入っている様子。

あまりに忙しそうなので声をかけづらく、最初に注文した生ビールを呑みながら、ツマミに頼んだトマト、ツブ貝、しめ鯖などつついていると「お客さんは、初めてですよね」と女将さんが話しかけてくれました。

大将は地元出身ですが、女将さんは東京出身。東京で勤めていたが、大将のお父さんが高齢になったのを機に伊達へ戻り、店を継いだのだそう。
お勧めの「鹿ユッケ」を頂きます。クセがなく、いかにも鉄分豊富な感じでグッド。

▲ 鹿ユッケ、エリンギ焼き、芋常駐お湯割り

毎週、道央から釣りに来るというご夫婦もいました。この時期の噴火湾はヒラメが旬だとのこと。ヒラメのお造りを肴にもう一杯…という誘惑が頭をよぎります。

が、隣席からの美味しそうな匂いに釣られ、ついついザンギを注文。かつて「世界一おいしい食べ物」と南極料理人・西村淳氏が記していた、道産子のソウルフード。お酒も進みます。

大将も女将さんも、大忙しなのに、手を動かしながら色々と話しかけて下さり、おいしい料理と和やかなひと時を楽しみました。

もう一軒、バーでも見つけて…という気持ちもあったものの、少し飲みすぎたのでこれで打ち止めとし、日も暮れて過ごしやすい気温になった市内を散歩。
雲が強風で流れ去り、星空が広がっています。
旧市街地の外れにある伊達紋別駅へ行ってみました。学生の頃、旧国鉄胆振線沿線に大学のセミナーハウスや行きつけのユースホステルがあり、この駅で何回か乗り換えたことがあります。ホームに出てみると、3面の長いホームとそれを繋ぐ跨線橋は昔の面影を留めており、年末の雪の日にここで函館行きに乗り換えて帰省したことなどが思い出されました。

▲ 夜のホームで、昔を思い出す。

◆ 洞爺湖一周ポタリング

間もなく夏至の北海道、午前4時頃には日の出を迎えます。
6時半に朝食。7時半、ブロンプトンで走り出しました。
雲が流れているが、晴天。6月の太陽が降り注ぎます。
そして今日も「青嵐」。北西からの風が強く、木々がざわめいています。

今日は、新千歳空港15時40分発の便を予約しており、逆算すると伊達紋別を12時51分に出る特急「スーパー北斗」がタイムリミット。それまでに洞爺湖一周しようと考えました。伊達発着で約60キロ、道は概ね平坦。小径車でも5時間あれば余裕でしょう。

しかし、そこは小心者故、パンクなど想定外のトラブルも気になります。調べてみると、西岸の洞爺湖温泉から洞爺駅へ、1〜2時間に一本バスがあり、目的の列車にも接続しているよう。プランBとして想定しておきます。

大滝・喜茂別方面への道を北上。イオンのSCを過ぎ、その先はゆるい登り。
ジャガイモ畑の向こうに、青空を背景に有珠山が見えます。激しい崩落が何箇所もあります。まもなく、昭和新山も姿を現しました。この角度から見るとピラミダスな山容です。

▲ 左=有珠山 右=昭和新山

道央道をくぐった先で左折。トンネルを抜けて長和川を渡って国道453号線を進み、壮瞥町役場の前を過ぎて、洞爺湖畔に出ました。
湖面は強風で白波が立ち、岸にバシャバシャと打ち付ける音が聞こえます。昨日はまともに姿を拝めなかった羊蹄山が、対岸彼方に見えました。しかしきょうも山頂は雲の中。

▲ 洞爺湖と羊蹄山

今日の風向は、西ないし北西。このあたりは横風になりますが、森の中なので横っ面を張られているような厳しさはなく、踏んだ分だけスムーズに前へ進んでくれる感覚です。
道南バスの停留所もポツリポツリ現れます。1日2便程度の模様。

森と、所々現れる果樹園や牧草地の中を快調に走って行くと、キャンプ場が現れました。地図に「仲洞爺キャンプ場」とあります。昔はこの地域で鉄鉱が採掘されていたよう。
天候に恵まれた週末とあって、駐車場は満杯。世の中は本当にキャンプブームなのだな…

▲ 満員の仲洞爺キャンプ場

私は、キャンプも登山も20年以上前に熱中し、今では興味が失せてしまったお洒落な(←自称)人間。流行の波に乗ったり迎合したりするのが嫌、というより、混んでいる場所が嫌なのです。

その先まもなく、道は森を抜けて湖畔に出ました。湖水に浮かぶ中島、その向こうの洞爺湖温泉街がよく見えます。背景の有珠山は、南側の荒々しさと違い、こちらから見ると盾状の山容。

▲ 洞爺湖南岸・中島・有珠山•昭和新山を望む

新緑の斜面に頭を突き出している烏帽子岩を見上げ、森林を抜けてひらけた風景の中を、北西からの強風にまともに立ち向かいながら走りました。この辺は、地域の名前をとった財田米というブランド米の産地。壮瞥川の清流に加え、稲作に好適な土壌に恵まれているとのことで、高級料亭等でも使われているのだそう。昔は、北海道産の米など食えたものではないと言われていたのに、隔世の感があります。
のどかな田園風景が湖畔に広がっていました。

▼ 財田米

ちょうど9時に、湖の北端にある洞爺水の駅に到着。強風の影響を心配していましたが、ここまで実に快調。ここで大休止を取ることにして、飲み物を買ってきて湖畔の芝の上で身体を伸ばしました。
洞爺湖の水は透明感に溢れ、実に美しい。思わず潜りたくなってしまうほど。めちゃ冷たいでしょうけど。

▲ 洞爺湖北端

この先、洞爺湖の西岸を南下する道は、2015年の初夏に走ったことがあります。記憶にある通り、自動車の通行量も少ない、快適な湖畔の道でした。

概ね斜め後ろから風を受けて快調に回し、水の駅から30分ほどで洞爺湖温泉の手前にある「有珠山噴火記念公園」に着きました。万が一タイムアップになったら、ここからバスで洞爺駅へ向かおうと思っていたのですが、全くの杞憂、余裕をもって伊達まで戻れそうです。
国内外からの観光客で賑わう湖畔のプロムナードをのんびりと走ります。修学旅行の一団もいて、これから観光船で中島へ渡ろうとしている様子。

帰路は、昭和新山の西麓を越える道で伊達へ戻ることに。小径車では少々しんどい坂を登り切ると、今なお噴煙を上げる昭和新山が間近に迫ってきました。

▲ 昭和新山

長い坂を下り切って国道453号線へ出ると、正面に、噴火湾を隔てて渡島駒ヶ岳がくっきりと見えました。思いもかけぬ完走のご褒美。

▲ 噴火湾の対岸に聳える渡島駒ヶ岳

◆初夏の日のこの北の国 幸多し

伊達市内へ戻ったのは10時40分。新千歳空港へ向かう特急まで、2時間以上も余裕を残して戻ってくることができました。
伊達の商業の中心は、完全に国道沿いに移っているようです。道の駅もあるようなので、その辺りを目指して走っていきました。
静かな商店街を抜けてゆくと、スープカレーのお店を発見。昨日、札幌で食べる時間がなかったので、ちょっと残念に思っていたのです。昼ごはんはここにしようと決め、まずは先を急ぎました。

国道沿いには、多くのロードサイドビジネスが軒を連ね、多くの車が頻りに行き来していました。スーパー、ドラッグストア、家電量販店、100円ショップにリサイクルショップ。ドトールコーヒーも出店。伊達は人口32千人の小都市ですが、日常生活で必要なものは、選択肢は少ないものの、一通りは揃っている感じ。

その先にある「道の駅 だて歴史の杜」の広い駐車場も、多くの車で埋め尽くされていました。後で知ったのですが、ここは北海道の中で最大規模の道の駅。
その中の「伊達市観光物産館」を覗きました。

野菜の豊富さに驚かされました。
葉物、玉ねぎ、にんじん、ブロッコリー…80戸ほどに上る農家で育てられた様々な農作物は、はっきり言って、うちの近くのスーパーDやFより遥かに品揃えが豊富で、しかも安い。
鮮魚や生肉はないけれど、加工品は手に入ります。
伊達には日本酒の酒蔵やブルワリー等はないようですが、伊達の「きたひかり」や仕込み水を使った酒が販売されています。

▼ 道の駅 だて歴史の杜

こんな魅力的なマーケットに、人の集まらぬはずがありません。
次から次へと駐車場へ車が入ってきます。店内はごった返し、キャッシャーの女性たちはひと息つく間もありません。
こんな場所がもしうちの近くにあったら、毎週通ってしまうでしょう。

雑木林を何マイルも通ったあと、全く突然紋別の農業入植地に行き当たりました。政府が日本人600人の開拓村を置いたところで「谷間はとうもろこしがいっぱいで、みんな笑い歌う、原野と辺地は彼らのために喜び、また荒野は薔薇のように喜び開花するだろう」という詩が当てはまります…何もかもが日差しを浴びて輝き、申し分のないオアシスのようで、蝦夷が持つ大人口を支える食糧庫としての力の大きさを示しています。

「イザベラ・バードの日本紀行」時岡敬子訳 講談社学術文庫

かつてイザベラ・バードが称えた伊達紋別の豊かな光景は、今も、北国の幸が溢れるこの市場に息づいていると感じられました。

旅の終わりは、地域の食材をふんだんに使ったスープカレーで締めくくり。

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最後までお読み頂き、ありがとうございました。これからも、ブロンプトンを連れて地方都市やローカル線を訪ねていきたいと思います。
これまでのローカル線とブロンプトンの旅、こちらへまとめております。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは主に旅の記録を綴っており、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、また海外旅行のことなども書いていきます。宜しければ↓こちらもご笑覧下さい。


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