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サウンドエンジニア兼、音響会社経営 川島寛人さんにお聞きしました

コンサート・ライブにおけるサウンドエンジニアとして、音楽業界でさまざまな現場に携わっている川島寛人(かわしまひろと)さん。7年前に音響業務を手がけるRIME株式会社を設立して、現在は4人の社員とともに、コロナ禍でも今できることを考えて日々過ごしているそうです。

ー まず、川島さんの会社について教えてください。

弊社では、コンサート・ライブ・イベントなどにおける音響業務を行っています。音響機材(スピーカーやミキシングコンソールなど)をイベント毎に仮設して、それらをオペレート(操作)します。既に機材がある場所(ライブハウスなど)では、バンドなどの演奏する音を良いバランスで出してあげたりして、それらの音をお客さんへ届けるといった事をしています。

小島ケイタニーラブ ワンマンLIVEname

社員は現在、自分の他にエンジニアが3人と経理が1人います。7年前、31歳のときに法人化して、そこから2年間は自分1人でやっていたのですが、3年目に後輩のエンジニアや経理が入社しました。それまでは自宅兼事務所だったのですが、そのタイミングで新たに事務所を借りました。その後更にエンジニアが増えて、今は総勢5人でやっています。

ー 川島さんは海外の現場にも結構行っていましたよね?

たまたまですね。笑 元々学生時代は学校が横須賀にあって、街中で外国人と触れ合うことが多かったのもあり、海外に対する抵抗値は人より少ないですね。

音響の専門学校を卒業するタイミングでお世話になっていた音響会社が海外のアーティストの仕事も多かった事や、自分自身アメリカ西海岸の音楽シーンが好きだった事も影響していると思います。

24歳のときに急に思い立ち、アメリカを車で一周することと、その大好きな音楽シーンで生のライブを体感する為に全ての仕事を放り投げて、数ヶ月アメリカのカリフォルニア州で過ごしてみました。

そこでたまたまロサンゼルスにあるTroubadour(トルバドール)と言うライブハウスのエンジニアや会場のスタッフと仲良くなり、色々な海外アーティストのライブなどを体験させていただきました。仲良くなりすぎて、アメリカ一周をさせてもらえなくなりましたけど。笑

そういった経験からか、国内でも海外アーティストの来日公演の仕事や、日本のアーティストの海外公演の仕事を頂けるようになりました。

ー 最近では年に何回くらい海外の仕事をしていたんですか?

最近はアジア圏が多かったのですが、多い時で年に6回くらい、少ない時で年に1,2回ありました。今年は全てなくなってしまいましたが・・・。

ー この半年間の仕事の様子はどうでしたか。

2月前半は、「新型のウイルスがやってきたんだね~」くらいの会話を周囲としていましたが、2月の終わりには3月2週目に韓国で公演予定だったアーティストの仕事がキャンセルになってしまったんですね。その時に、これはしばらく海外に行けなさそうだなと思いました。

3月に入ったら週末の現場がなくなり始めました。その頃、知り合いの医療関係者と話していたのですが、その方に「今この状態で新型コロナウイルスに対する特効薬ができたとしても、それが世の中に出回るのは年明けくらいだよ。だから年内のコンサートなどは開催は難しくなると思う」と言われたんですね。

それを聞いて、もし本当にそうだとしたら、少なくとも年内は、今までのやり方は諦めて違うことを始めないとダメだと思ったんです。それが3月前半ですね。社員を集めて、シフトチェンジしてこう、何ができるか考えようと話し合いを重ねました。

対策案は幾つか出てきたのですが、その中でいろいろ検証をしつつ、配信ライブとドライブインシアターという案を進めていくことにしました。(※ドライブインシアター:駐車場等にスクリーンを配置し、車に乗ったまま映画鑑賞ができる施設)

そのための機材を揃えたり、勉強もしなくてはいけないので、緊急事態宣言の間に、社員には自宅でそれぞれ勉強してもらいました。そして緊急事態宣言解除後は、どの機材を買うかを考えて、いろいろ実験をしました。

また、補助金の申請などの事務作業にも結構追われていました。雇用調整助成金は3月の段階では1人につき提出書類が10枚ほど必要だったりしたので、なかなか大変でした。今はもっと申請しやすくなっていますが。

古川日出男 朗読収録

ー ひたすら出費が多いですね。大変でしたね。

4月は完全に仕事がゼロになりました。この業界に入って初めてのことです。

仕事がないのに会社では毎月百万円以上の資金が出て行く状況で、このまま仕事がずっとなければ何月まで生きられるのか、お金がなくなったら給料が払えないし、残ったお金を何に使うのか、皆で相談していきました。

そして配信の実験などをするために事務所をちょっと整えつつ、ノウハウを勉強しました。その甲斐があって、ライブ配信や企業のトーク配信などを、他のところに負けないクオリティでできるようになりました。

そして、自分の地元である神奈川県三浦市で、ドライブインシアターをやろうと動き出したのもこの頃です。これは3日間通しで行うイベントで、1日につき50台の車を入れるという規模でした。

しかし、自分たちは技術者なので、イベントを開催・運営するためには自分たち以外に制作の役割も必要だし、場所を借りるのも難しかったのですが、地元の仲間に協力をしてもらいました。

そして9月の19~21日に開催したのですが、動員もほぼ期待通りで、無事成功させることができました。

三浦野外上映2
三浦野外上映1

ー ドライブインシアターって、お客さんはどうやって音を聴くんですか?

方法は2種類あって、一般的なコンサートと同じ様にスピーカーから出力している音を窓を開けて聴くのと、FMトランスミッターでカーラジオから音を聴く方法があって、自分たちはFMの方式でやりました。これもちゃんと電波の強さを理解していないといけないので、これらを管理する方法も今回勉強して免許も取得ました。

ー スクリーンは借りたんですか?

500インチ(横幅11m程)のスクリーンを自作しました。足場を組んで、そこに細かいスクリーンを貼り付けていくものです。1枚もののほうが映像が綺麗に映るのですが、風のあおりを受けやすいなどの理由もあって、この形にしました。

ー ドライブインシアターは、今後も開催予定はありますか?

地元には実行委員会ができたので、また開催したいですね。そして今回初めて開催したことで、地元で取材を受けて、それを見た方々から結構問い合わせもきているので、今後も開催の機会があると思います。

正直、かなり昔のイベント形態ではあるのですが、今のコロナ禍には見事にマッチしたイベント形態だと私は思います。それぞれの車でプライベートスペースを確保でき、ソーシャルディスタンスも保てるので、今後映画だけでなく色々なイベントコンテンツを取り込んでいけるかと思いますね。

ー このコロナ禍で音楽業界はなかなか風当たりが強いなと思っていましたが、国や自治体に対して思うことなどはありましたか?

まあ、しょうがないかという気持ちでした。国に対してどうこうを思うよりとりあえず今できることを考えようという気持ちのほうが大きかったです。

ー なるほど。今もいろいろ模索しているんですね。最近の配信ライブに関してはどう考えていますか?

音響的な立場から言うと、一般的なコンサートやライブと比べて、(リアルタイムの)配信ライブは音のレベル管理や配信先の音質の違いなど、シビアな点もあり色々と大変ですね。

最近でこそ人数制限等をしてライブも行えてきていますが、普通にライブができないという状況で考えていたのは、配信では、視覚的付加価値があるようなアーティストが強いなと思いました。

ロックバンドでワーッと騒ぎたい、その瞬間が楽しいというバンドは、やはりその環境を共有していることが最高だと思います。でもたとえば、アイドルのライブだったら、カメラが近くに寄って一生懸命歌っているしぐさを、普段よりもずっと近い距離感で映すことができたら、お客さんにとっても配信の意味が強いなとかありますよね。

ヴィジュアル系のバンドも、顔や衣装が間近なカメラワークで観られたりとか、そういった付加価値が成り立つと、普段のキャパシティ以上のチケットが売れたりして、産業として成り立つなと思います。知り合いで、配信ライブで会場のキャパシティのおおよそ4倍の枚数が売れたというバンドもいます。

お客さんとしても移動や宿泊をしなくていいという利点もありますし、色々と事情があって会場に足を運べない方達にとっては、配信ライブは嬉しいかもしれませんね。

ー 会社としては、今後はどうなっていきそうですか?

とりあえずは融資を受けたので当面のお金はあるのですが、あとはここから売上を少しずつ乗せていけたらと思います。9月からはやっと少しは収入が見込めるようになってきました。もちろん、今のやり方で爆発的に何かが変わるという考えはさすがにありません。

普通のお店で全く収入が無くなって生き残るって、とても難しい事だと思います。自転車操業をしてたらもちろん無理だけど、普通の経営をしていたとしても、半年間無収入となったら続けていけないですよね。

うちはたまたま別のことで使おうと思っていたお金があったのですが、それでも融資してもらわないと年内続けていくのは到底無理でした。

配信やドライブインシアターは、なんとかつなぐという気持ちでやっていて、決定的に「これをやったら去年の売り上げが復活する」ということはありえないけれど、だからといって指をくわえて待っているよりは、少しでもできることをやろうという感じで動いています。

実際、新たに勉強しなければいけない技術がたくさんあったし、まだまだあるので、時間はもっと欲しいくらいです。自分も社員も、今までの仕事はなくなっても、暇な時間って実は今日まで全然なかったんですよね。

ー 素晴らしいですね...。

会社でよかったと思っています。自分のことだけ考えていればいいわけじゃないのは大変ですが、社員と一緒にチームプレイができたのが良かった。一人では到底無理でした。

最初の頃は、同業者の皆もこの状況はたぶん夏くらいに終わると思っていたと思うんですよね。9月くらいには元通りになるんじゃないかと。

自分は今、来年の3月くらいまでは耐えしのぐしかないかなと思っています。だからみんな来年春くらいまでをどう乗り切るか考えている、という感じですよね。

コンサートやライブに限らず、演劇・スポーツ観戦など、やはりリアルタイムにその場で共有・体感する事で得られる感動は、配信では間違いなく補えないと思います。それができる環境が早く戻ってきて欲しいと強く願いながら、今この瞬間にできることを1つ1つ頑張って音響という立場から、いろんなエンターテイメントを届けられたらと思っています。

-終-

社員達2

【会社情報】
RIME株式会社 (ライムカブシキガイシャ)
東京都練馬区関町東1-11-2ホワイトヴィラF棟 1F
https://rime-jp.com

お仕事のご依頼等は、ホームページのお問い合わせフォームからメールを頂ければと思います。

【川島さんがこの期間に音響のMIXを担当された動画の一部です】

ベイビー・アイラブユー/TEE&MHIRO【TEEチャンネル 3月15~16日 24時間生ライブ配信】
https://www.youtube.com/watch?v=RqJcy42ZbZQ

古川日出男、英語版『中国行きのスロウ・ボートRMX』を読む
https://www.youtube.com/watch?v=o3IKp3vx_18&t=240s

いろいろな方にインタビューをして、それをフリーマガジンにまとめて自費で発行しています。サポートをいただけたら、次回の取材とマガジン作成の費用に使わせていただきます。