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#3 浜松と宇宙ビジネス

前回の記事はこちらから

非宇宙の宇宙好き、永利(ながとし)です。新規事業開発を専門とする株式会社Relicで、日々事業アイデアの創出・事業化に向けた活動に邁進しています。2023年1月から、Relicが開設した浜松拠点の責任者を務めております。

今年に入ってから、宇宙ビジネスに本格的に参入したいという想いをnoteで綴らせていただいていますが、過去2回はどちらかというとビジョンについて書いていたので、今回は事業内容に関することについて言葉にしていきたいと思います。


なぜ浜松か?浜松で宇宙ビジネスに取り組む意味

さて、度々「浜松」というキーワードを使っているのですが、改めてなぜ浜松で宇宙ビジネスに取り組もうとしているのか、ということですが、その答えは一言

「宇宙ビジネスが生まれるポテンシャルの高い場所だと思っているから」

ということに尽きます。

言わずもがなですが、浜松は昔から製造業、特に自動車産業と楽器産業の集積地です。自動車産業で言えば、部品や素材などのメーカー、それらを加工するメーカー、組立を担当するメーカーまで、あらゆるレイヤー・工程の企業が揃っている稀有な地域だと思います。

自動車産業と宇宙ビジネス、特にロケットやスペースプレーンなどの宇宙機(ハードウェア)は親和性があると言われています。

堀江氏は続けて、自動車産業で発展した技術の蓄積を生かせることを挙げた。
「成長産業として注目されているバイオ分野とは違って、技術の蓄積とサプライチェーンが主に自動車産業によって作られています。サプライヤーが全部国内で揃うのです」

【単独】「100億あったら全張り」、堀江貴文氏が宇宙ビジネスに全力投球するワケ
https://www.sbbit.jp/article/cont1/108520

実際、トヨタやホンダなど、大手自動車メーカーの宇宙ビジネス参入も相次いでいます。自動車産業で培われてきた技術は宇宙機をつくるうえでも大きな力を発揮します。必ずしもローバーのようにクルマをつくるだけでなく、自動車に採用されている部品がロケットにも転用できるケースなどもあります。

そんな自動車産業のプレイヤーが多く集まっている浜松は、他の地域以上に宇宙機をつくる環境が整っていると考えています。

そして、もう1つ、浜松を起点として宇宙ビジネスに取り組むメリットがあります。それは「立地」です。浜松は東京と大阪のちょうど中間に位置し、主要都市へのアクセスは抜群です。加えて、宇宙ビジネスの観点でいうと、南側が海に面していることと、宇宙機を製造する工場とも地続きで繋がっていることが大きいと言えます。

日本が他の国よりも宇宙機の打上げで有利と言われる理由に、島国であり、東と南側が海に面していることがあります。宇宙に物体を打ち上げるということは、周囲に落下するリスクを孕んでいるということであり、ヨーロッパなど他の国と接している国々は宇宙機の打上げが難しいという問題があります。

また、特に人工衛星を打ち上げる際には、静止軌道や極軌道といった軌道に投入することになるのですが、静止軌道は赤道上空の軌道のことを指すため、通信や放送で使用される静止衛星はできるだけ赤道に近い地点から東側に向けて打ち上げることが理想的です。だから、例えばフランスは自国内(ヨーロッパ内)ではなく、南米にある仏領ギアナを打ち上げ地点として利用しています。一方の極軌道は、北極と南極を結ぶ軌道なので、北か南に向かって打ち上げられます。

どちらの軌道であっても打上げ地点周辺のリスクができるだけ少なく、静止軌道であれば赤道に近いほうが良い、ということになります。その点で、日本は他の国と比べて良い条件を備えている世界的にも珍しい国なのです。

地理的な特徴ともう1つ大事なポイントとして、宇宙機を打上げ地点まで輸送する「コスト」があります。ここまでお伝えしましたように、宇宙機の打上げにあたっては、周辺に対するリスクヘッジの観点で周りが海であることは有利に働きます。ただ、一方で宇宙機を輸送することが大変になるというデメリットも発生します。日本で最もロケットが打ち上げられる種子島宇宙センターには、ロケットをいくつかのパーツに分けて海上輸送し、宇宙センターに到着後に組み立てるという方法が取られています。

つまり、ロケットを製造する場所から打ち上げ地まで様々な工夫をしながら輸送する必要があるということで、もし製造場所から打上げ場所まで地続きかつ近い距離の移動で済ませられればコストを大きく下げられる可能性があるということです。

ここで話を浜松に戻します。浜松は製造業が多く集結していることに加え、他の地域へのアクセスもよく、海にも面しています。これは、宇宙機をつくるうえで良い条件が多く備わっているということだと思っています。もちろん、全部が全部浜松で完結するとは限らないですし、事業を浜松から他の地域・国に広げようと考えれば、また条件は変わってきます。ただ、特に自動車のサプライチェーンが揃っていることも踏まえると、最初に取り組むにはこれ以上ない環境なのではないかと考えています。

そして、自動車産業はEVシフトや自動運転といった流れが今後さらに加速することを考えると、新しい事業に挑戦する必要性が高まってきていると言えます。地理的特性、産業構造、時代背景といった観点で、浜松で宇宙ビジネスに取り組むことは意味も意義もあると考えており、そこに関わっていきたいと思っています。

浜松でどのような宇宙ビジネスをはじめたいのか?

ここまで、浜松で宇宙ビジネスに取り組む理由について述べさせていただきましたが、具体的に何を作りたいと考えているか書いていきたいと思います。

以前#1の記事でも書きましたが、自分は「様々な星を人が自由に行き来できる世界」をつくりたいと本気で考えています。

今は、普段の生活にしても旅行にしても、地域や都市、国などを単位として生きており、なかなか地球を単位とすることはないと思います。でも、さまざまなSFで描かれているように、将来的には「星を単位とする生き方」に変わっていくと思っており、その世界の実現に自分も寄与したいと思っています。ではどうするか。やはり、宇宙に飛び出し、星々を飛び回ることのできる船をつくることなのではないかと考えています。

もちろん、世界をつくるということは(某新世界の神みたいなことではなく)、移動手段だけあればいいわけではなく、環境のデザインやルールの整備、衣食住に必要なサービスの提供など、さまざまな要素が絡んできます。そういったことに対しても、自分の専門であるシステムズエンジニアリングが活きてくると思っていますし、ぜひ考えていきたいと思っています。ただ、まずは宇宙を自由に移動するための手段をつくるところからだと考えているということです。

とはいえ、いきなりそのレベルまで到達するのは相当なジャンプがあるので、段階を経てたどり着けるようにしていきたいと思っています。星々を飛び回ることのできる船をつくる途中のステップとして、宇宙から地球へ貨物を輸送するための機体や、民間の宇宙旅行のためのスペースプレーンなどの製造に取り組んでいけたらと考えており、浜松を起点にメーカーの皆さまと共に挑戦させていただきたいと考えています。

宇宙から地球への貨物輸送とは、今であれば国際宇宙ステーションからの貨物輸送ということです。今後民間の宇宙ステーションも複数登場してくるなかで、軌道上のサービスやビジネスに対する需要は増えてくるはずです。その1つとして、貨物の輸送があると考えています。宇宙ステーションからの輸送には、大気圏の再突入というハードルを超える必要がありますが、これがなかなかに大変です。

今は宇宙飛行士の帰還がそのタイミングになっていますが、どうしても持ち帰ることのできる量も頻度も限定的です。それが、もっと高頻度かつ安価に持ち帰ることができるようになったら。漫画「宇宙兄弟」で、伊東せりかさんがALSの治療方法を見つけるためにISSでタンパク質の合成実験をしていましたが、そういった活動の機会をもっと増やしていくことができるようになります。無重力(微小重力)環境下であればできることは意外と多くあります。宇宙兄弟の例のような新薬開発もあれば、半導体開発においても無重力環境は不純物の混入防止や、均一分布、乱れのない結晶の作製など、大きなメリットがあります。

せりか基金(https://landing-page.koyamachuya.com/serikafund/)

他にもまだまだ需要はあるはずですが、上述のように貨物輸送のハードルが高いこともあって、顕在化していないことも多いのではないかと思っています。高頻度かつ安価な貨物輸送を実現することによって、新しいニーズの掘り起こしにも繋がると考えています。

そして、貨物輸送も含めて、宇宙機の開発と自動車産業はそう遠いものでもありません。複数の記事でも取り上げられているように、自動車製造のために長く培われてきた技術やアセットは、その多くを宇宙分野にも転用していくことができます。もちろん、シーズ(自動車産業側の強み)とニーズ(宇宙産業側の要求)には隔たりがあるので、その距離を埋めるための工夫が必要です。そこを私たちが担わせていただきたいと思っています。システムズエンジニアリングはそういった学問でもあります。

おそらく最初は人工衛星をつくって打ち上げるところから始めていくのではないかと想定しています。まずは宇宙機を打ち上げたという実績をつくることが必要です。その次に、貨物輸送のための宇宙機があるんだと考えています。そこからステップを踏んで、今はまだ夢に近い宇宙船の開発につなげていけたらと思います。

読んでくださった方へ

ここまでお読みいただきありがとうございました。事業内容と言いつつ、ビジョンに近い話ではありましたが、なぜ浜松なのか、何をやろうとしているのか少しでも伝わっていましたら幸いです。そして、この挑戦は自分たちだけでできるものでは全くありません。これまでも進めてきましたし、これからも取り組むことですが、ビジョンや事業の構想に共感いただける方を1人でも増やしていくことが私たちのやるべきことだと考えています。

ぜひ同じようなビジョンを持たれている方がいましたらぜひお声がけくださいませ。また、周りに宇宙が好きな方がいらっしゃいましたらぜひご紹介いただけたら嬉しいです。どんな形でもなにかご一緒できればと思います。

引き続きnoteを含めて発信していきますので、これからもよろしくお願いいたします。

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