令和を代表する大河ドラマ「麒麟がくる」1話を徹底分析

禅問答の答え

「大河ドラマの視聴率を取るにはどうしたらいいか?」

この禅問答のような問題に対し、2019年に確実な答えが出た。
それは

大河ドラマ「いだてん」と逆のことをすればいい。

以前述べたとおり、大河ドラマ「いだてん」は、民放裏番組、ひいては日本のテレビ史において完全敗北を喫したドラマである。それは「令和」という新しい時代が求めるものを浮き彫りにし、「昭和」「平成」に通用した武器を陳腐化させたことを証明した作品だったのだ。

大河ドラマ「いだてん」を踏み台に、徹底的に「いだてん」の反対をやる。
この強いまでの「意地」が見えたのが「麒麟がくる」の1話であった。

視聴者様は神様です

大河ドラマは生まれ変わったのです。
視聴者様を惑わすような、複雑な設定や伏線、暗い画面でわかりにくい。
そういう煩わしさから開放された大河ドラマを提供します!

1.大正昭和なんて冒険は絶対にしない、鉄板の「戦国時代」を舞台にする。

結局、令和の人間が見たいのは「戦争」である。それも人と人とが争い、傷つけあうようなもので、顔が見えない太平洋戦争なんざもってのほかである。

この結果大河ドラマの舞台は戦国から明治初期までのものになった。2022年の大河ドラマが「鎌倉幕府十三人合議制度」だというのは少々驚いたが、これは「研究成果がないから好き勝手にできる」のと「もうクドカンはこりごり」という三谷贔屓から選ばれたものだろう。

2.原色使いまくりの画面と衣装!! 重厚さなど一切不要!!

黒澤の娘が手掛けているらしいが、とにかく衣装が派手。
確かにバサラなんて言葉がある通り、この時代の衣装が派手の極みなのは言うまでもないのだが、それにしたって派手だ。
派手な上に、稲穂の黄色、草原の緑、服の赤ととにかく目がチカチカする
汚い、暗い、見づらいといわれた「龍馬伝」の反省を見事に活かすド派手な画面作り。
これが令和の大河ドラマだ!

3.原点回帰!懐古主義!極めに極めたOP

そしてオープニングがまたすごい。縦書き明朝体
1960年代の時代劇全盛の頃を思わせる配置に、ジョン・ウーフィールド(時空の流れが10分の1になる特殊なフィールド効果)をつけて流す。
これはかつて「独眼竜正宗」で使われた手法
そう!こうやってベテランの懐古主義、更新されない古い脳髄の記憶に訴える演出こそが、令和の時代を生き残るために必要なのです!!

ちなみに使われているフォントはフォントワークスの明朝体Hというものらしい。絶対フォント感持ちはすごいにゃー…

4.開始1分で見せたいであろう戦闘画面を描写!!

そして話が始まったら、設定や人間関係みたいな地味な話はしない!時代スキップもしない!とにかく「みんなが見たいシーン」を流す。

そう「殺し合い」だ!

野盗との戦い。鉄砲の登場(これは後のキーワードになる)に、屋根を突き破るような大立ち回り。とにかく話を落ち着かせる前にやりたことを全部やる!

5.毎話完結!伏線も必要ない!見ている人が満足できる浅薄なストーリー!

この「麒麟がくる」の1話は、長めの伏線を一切排除して進んでいる。最初の戦闘で登場した鉄砲が、その直後の旅に出る動機づけとなり、旅の交渉の最中に出た医者探しが、鉄砲入手後の出会いを生み、医者のスカウト話が火事場への突入とからむ。スカウトが落ち着いたところで「麒麟」という大目標が提示される。

この伏線を長く引っ張らず、一つの情報から一つの情報へと繋げていく形は、本来であれば「1時間ドラマ内で行うもの」なのだ、現にこの1話だけ切り取っても、この話はここで完結しているのだ。なんせ当初の目的である鉄砲の入手と医者のスカウトは「終わってしまっている」のだから。

言うなれば、ここまでの話は「ジャンプにおける連載前の読み切り」である。

おそらくは、NHKオンデマンドなどで単独で提供されることを前提として作られているからではないかと推測できるのだが、ここまで描写しないのも面白いものである。

6.人物の設定なんか一切見せない!!イケメン俳優のアップと台詞回しだけ!!

キャラに対する過剰な情報は、物語に埋没されるのにじゃまになる。古今亭志ん生はいらない。美川君もいらない。余計な情報はいらないのでテロップで名前を出すだけで、必要な関係性は全部べらべらと喋る。とにかく顔のアップに台詞回しに全力を集中させる!

特に長谷川博己という役者は台詞回しがいちいちかっこいい。声がいいのではないし、演技が特別に上手いわけでもないが、台詞回しにかけては日本一といっていいのではないかと思う。
滑舌の美しさ、セリフにのった感情に、知的さを思わせる顔立ちとのマッチング。よくもまあこの「切れる男」の代表のような人物を、明智光秀に抜擢したものだと思う。

7.研究発表!とにかくオタク要素を盛り込め!!

この令和の時代に視聴者様が肥えたものとして「オタク知識」というのがあって、たとえば斉藤道三は「斉藤山城守」と呼ばれる。これは諱など軽々しく口にしないということが、近年になって定着してきたことによるものだろう。

さらに付け加えられる最新の研究成果「松波庄五郎と斎藤道三は別の人物だった」ことも、松永弾正から語られる。

そういう「オタク知識」を挟むことも、大河ドラマを盛り上げる要素である。

以上7点を徹底的に追求した結果、
「浅薄」「派手」「役者重視」「伏線皆無」のノーストレスなドラマが出来上がった。
「複雑」「地味」「ストーリー重視」「伏線だらけ」の大河ドラマ「いだてん」とは、月とスッポンである。

これで、大ヒット間違いなしだ

徹底的に視聴者様に媚びに媚びた「麒麟がくる」
視聴者様のレベルにジャストフィットした令和の大河ドラマに、私は高視聴率を期待してやまないのである。

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