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ある“女性”の孤独と絶望を描いた作品

 先日、東京の名画座「早稲田松竹」で「13回の新月のある年に」という作品を観てきました。

 監督はライナー・ヴェルナー・ファスビンダーというドイツ人です。ファスビンダーは1945年生まれ。40本以上の作品を作り、1982年に37歳の若さで急死しています。
 「13回の新月のある年に」は1978年製作。ファスビンダー自身が原案から脚本、監督、撮影、美術、編集、製作まで手がけているそうです。

 この映画は、男性から女性に性転換したエルヴィラという主人公の死ぬ前の5日間を描いています。
 男娼を買おうとして失敗したり、付き合っていた相手からも罵倒されて出て行かれたり、かつての孤児院を訪ねて母親に捨てられた過去を知ったり。エルヴィラには不幸ばかり降りかかります。
 雑誌のインタビューで過去について語ったことがきっかけで、かつて好きだったアントン・ザイツのもとを尋ねます。エルヴィラはずいぶん前、ザイツに好かれたいがために、カサブランカで性転換の外科手術を受けて、エルヴィンからエルヴィラに変わったのです。どうやらその恋は実らなかったようですが。
 再会してもザイツの反応は冴えません。それでもザイツはエルヴィラを家まで送るのですが、ザイツはたまたま家にいたエルヴィラの友だちの娼婦に夢中になります。
 絶望したエルヴィラは髪を切り、男性の服装で妻と娘、それから以前取材を受けたインタビュアーらのもとを尋ねますが、誰も孤独な彼女の話をきちんと聞いてくれません。そしてついにエルヴィラは死を選びます。

 ファスビンダーの書籍「映画は頭を解放する」によりますと、この映画の成立の背景として、ファスビンダーと暮らしていたドイツ人俳優のアルミン・マイアーの死が深く関わっているようです。主人公エルヴィラにもマイアーの経歴が半ば反映されているとのことです。

 この映画は精肉場での牛の解体シーンなどショッキングな映像がある一方で、やたらと饒舌な自殺者やシリアスなはずの再会の場でテレビから流れるミュージカル映画の真似をしたりと、ところどころにコミカルな演出も見られます。
 主人公はとんでもない孤独と絶望の中に生きるのですが、ジメっとした重苦しい作品にならず独特の魅力を持っていると感じました。

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