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魚はいなくなったのか

ちょこっと深掘りです。

今回は、東海新報2024年4月9日付の記事「数量低迷 金額は微増 大船渡市魚市場の5年度水揚げ実績」を取り上げます。3年連続で水揚量が低迷のようですが、街のスーパーマーケットの鮮魚売り場に魚がなくなったようには見えません。どうなっているのでしょうか。
(東海新報 https://tohkaishimpo.com/
※写真は大船渡市魚市場のホームページ(https://www.ofunato-fm.com/)のものを使いました。

記事は、大船渡市魚市場を運営する大船渡魚市場株式会社が令和5年度の水揚げ実績をまとめたとして、次のように報じています。

数量は前年度比24%減の2万1547トンで、金額(税込み)は同1%増の56億4022万円。数量では、定置網が前年を下回ったほか、多獲性魚種の一つであるサバ類が低迷し、3年連続で2万トン台に終わり、東日本大震災以降では最低水準となった。一方、平均単価は261.8円で、前年度比で33%上昇した。

東海新報 2024年4月9日付

続いて、魚種別実績、漁業種別実績の内容を説明し、魚種、漁業種べつともに数量減が目立ったこと、その一方で魚価の平均単価が260円を超える近年にない高水準であったことを伝えています。

さらにこれまでの経過として、東日本大震災が発生した平成23年度には3万731トン、38億円台と前年度比で大きく下回ったこと、水産施設の復旧が進んだことで平成26年度には5万2000トン台、70億円台と震災前の水準に戻ったことを伝え、

しかし、27年度以降は主力魚種の不漁などが暗い影を落とす。令和3年度は、昭和49年度以来47年ぶりの2万トン台となり、4年度、5年度も3万トン台に戻せなかった。

東海新報 2024年4月9日付

と不漁が続いていることを強調しました。これは水産庁が2021年6月に公表した「不漁問題に関する検討会とりまとめについて」で言及されていた、サンマ、スルメイカ、サケの漁獲量が2014年頃から急速な減少をしているとの報告と一致します。

記事は、大船渡市魚市場の現状やこれまでの水揚げ実績を踏まえて、ここ3年が特にも厳しい状況であることを丁寧に伝えています。

確かに水揚量は減っているのだと思いますが、街のスーパーマーケットの鮮魚などの魚売り場で魚がなくなったとは聞きません。なぜなのかちょこっと深掘りしてみます。


三陸沿岸にある魚市場では、その年の水揚量と水揚金額を公表しており、それらの情報はそれぞれの魚市場のホームページに掲載されています。

2013年から2023年までの大船渡市魚市場、宮古市魚市場、気仙沼市魚市場、石巻魚市場、八戸市魚市場における水揚量の推移を次のとおりまとめてみました。

三陸沿岸の主な魚市場の水揚量の推移

記事によると大船渡市魚市場の水揚量が低迷しているとありますが、同様の低迷は八戸市魚市場にも見られます。120,530トン(2014年)から37,605トン(2023年)と大きく減少しています。しかし、これ以外の3つの魚市場は、横ばいかやや減少傾向といったところでしょうか。

この違いは水揚の主力魚種の違いによるものです。

水産庁によって2014年以降、サンマ、スルメイカ、サケの水揚量が著しく減っていることが報告されていますが、大船渡市魚市場の主力魚種はサンマ、サケで、八戸市魚市場はイカとなっており、水産庁の報告に一致します。

一方、宮古市魚市場の主力魚種はタラ、気仙沼市魚市場はカツオ、マグロ、石巻魚市場はイワシ、サバ、タラとなっており、例年と同様の水揚を確保している状態です。このことからも水揚魚種の違いが水揚量の多寡に反映されているといえます。


特定の魚種だけとはいえ、著しく減少している状況において、水産物の輸入量はどうでしょうか。増えているのでしょうか。

水産物の輸出入については、財務省が貿易統計として把握し、農林水産省が「農林水産物輸出入概況」としてまとめています。水産物全体の輸入量が記載され始めた2017年と最新の2023年の数値を比較すると、

輸入量(前 2017年 後 2023年)
総量      2,478,679トン 2,156,329トン
さけ・ます   226,593トン 202,104トン
かつお・まぐろ 247,448トン 197,927トン
えび      174,939トン 141,110トン

と減少しており、国内の水揚量の減少と同様の傾向を示しています。
(農林水産物輸出入情報・概況
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html


では、魚食はどうなっているのでしょう。水産庁で毎年公表している水産白書の令和4年度版によると、国民1人1年当たりの食用魚介類の消費量は、2001年の40.2kgをピークに減少を続け、2011年には肉類が上回るようになり、2023年には23.2kgとピーク時の約半分の量となっています。
(水産白書 https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/

年代別の1人1日当たりの摂取量も示されていますが、年齢が上がるほどに摂取量が増える傾向にあります。ただ、すべての年代において2019年の摂取量は1999年に比べて減少しており、これが全体として消費量の減少に現れているのだと思います。

これらのことから分かることは、

  • 魚市場の水揚量は、水揚魚種の違いにより多寡が異なること

  • 水産物輸入は国内水揚量とはあまり関係してないこと

  • 食用魚介類の消費量が減少を続けていること

が挙げられます。まとめると需給バランスが取れているため、スーパーマーケットの鮮魚の棚が空になるという事態にはなっていないということになるでしょうか。確かに食料品である以上、消費者が食べる以上に生産しても食べられないということになり、どこかの時点でバランスが取られるのだろうと思いました。


いかがだったでしょうか。
魚食といった視点で見ると全体としては需給バランスが取れているということと思いますが、それはあくまで平均したということにすぎず、局所的に濃淡が出てしまいます。その濃淡にこそビジネスチャンスがあるのかもしれません。

今後も気になった記事をちょこっと深掘りしてみたいと思います。



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