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声は語る

今、私がどこにいるかというと、病院のベッドだ。消灯後の真っ暗な4人部屋の、窓側のベッド。ピンク色の綿の掛け布団にもぐりこんで、お隣さんの寝息を聞きながらこのnoteを書いている。

入院中である。
「痛み」なんてタイトルで、水の底にいるようなうす暗い痛みについて書いたけれど、まったくもって段違いの痛みがやってきたのだった。

こりゃダメだ。
と判断して、救急車のお世話になった。
救急隊員の方は、すべてに無駄がなく、患者に寄り添い続けてくれた。頑張りましょう、痛いよね、頑張ろう、もう少しだよ。繰り返される言葉は、私を取りこぼさないよう、励ます。

陣痛ばりの痛みが休憩無しにお腹を襲う。
うー、うー、いたいー
45分ほど唸り続けた。目も開けられない。痛すぎて何度も吐いた。

そんな状況でも、病院ではまず検査。
採血をし、造影剤でCTを撮る。さらに唸り続ける私。
目を閉じていると、声の表情がよくわかる。
私から情報を得ようとし、私に励ましのメッセージを送ってくれる人。
たくさんの、よくあるケースのひとつとして捉えているんだろうな、という人。
声を聴けば、わかるものだ。

声といえば、入院中の興味深いことといったら、4人部屋の悲喜こもごもである。
たいてい、カーテンでベッドごとに仕切られており、基本プライバシーを守る形状になっている。
のであるが、点滴を何本もされるがままに横たわっている患者にとって、だだ漏れてくるお隣やお向かいの諸事情は正直興味深い。
どこの手術の跡が、とか今日のお通じは、とか、1人ずつベッドを回る看護師さんの声をたどっていけば(たどらずとも聞こえてくるのだ)4人の事情はあっという間に共有されるのである。
神経質なところがあるな、とかオープンな人だなとか、声はさまざまな情報をもたらす。

そして一期一会。
ベッドが足りなくなってしまったので、1日早く退院しませんか?という病院からのお誘いで、お向かいさんはウキウキ出立されていった。
ガラ空きになったベッド。密度が薄れ、少しさみしくなった4人部屋。
けれども午後には、また新しい住人がやってくる。今度の方は検査入院らしい。
声だけの同居生活がリレーしていく。


ここはとても静かだ。
かしましい我が家がそろそろ懐かしい、入院4日目の夜である。






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